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もっと撮り旅

「空っぽの」(奈良県天理市)

Z 7II/NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S/f13/1/50秒/ISO100/RAW(CapturaNX-D/晴天/ビビッド/'21年3月31日7時30分/奈良県天理市

足りない、足りない……。花溜りが崩れ、蠕動を始めた花筏にドラマの予感を感じながらも、それどころじゃなかった。今、絶賛撮影中のカメラのXQDカードのメモリー残量が、もうすぐなくなりそうなのだ。自業自得である。カメラのメモリーとバッテリーは余裕をもって準備するのが基本中の基本。最近はまっているインターバル撮影では、5秒間隔で1時間以上撮り続けることが常で、メモリー消費も半端ないのだからなおさらだ。900枚以上記録できるメモリーカードが、急に満タンになるわけはなく、前夜のうちに対処しておけば、この七変化する花絵柄に見とれる余裕もあっただろうに、情けない話である。

   *

今、私は奈良にいる。お隣の県なので、気持ちも荷物も軽やかに日帰り撮影のつもりが、3日目に突入。前夜の帰り際にここへ寄ったらいい感じだったので、月明りで少し撮影して一旦帰りかけたが、思い直してもう一日、居残ることにした。早朝、ぎっしり溜まり過ぎた感のあった花水面は、光が届き始めるとばらけだし、マーブル模様を描き始めている。
「今、撮らないでいつ撮るの!」
予想もしなかった好状況に歓喜した私は、「撮り始めたら何があっても中断するな」が鉄則のインターバル撮影を、カメラ2台体制で開始した。が、まもなく、1台のカメラのメモリー残量がわずかなのに気が付く。まさか3日間も粘ると思わなかったし、ここもさほど期待していなかったからなあ。「どうしよう。1台はあきらめるか」。お金を入れ忘れた財布でバーゲンセールに来てしまった気分だ。そして私は家にお金を取りに戻るタイプである。

撮影続行をカメラに任せ大急ぎで車に戻り、前日満タンまで撮影したメモリーカードの中身をパソコンのハードディスクに移す準備をする。表示された作業時間は20分。
そうだよね。そのくらいかかるよね。パソコンに作業を委ねて現場に戻り、「頼むから、それまで耐えてくれ」と念じながらカメラを見守る。
「もしかしたら、思ったより早く作業してくれているかも。」
「そろそろかな?」
あたふたと何度も走って車に様子を見にいっては手ぶらで戻る私。20分後。なんとかギリギリ間に合い、空になったメモリーカードを入れ替える。よし、これでバッチリ。安堵した私が見つめるなか、三脚に固定した2台のカメラは、無音のサイレントモードで粛々と撮り続けている。カメラ内で自動的にタイムラプス動画を作成してくれるインターバル撮影では、撮影途中で露出や絞りを変えるとギクシャクした動画になってしまうのでお触り厳禁。撮り初めに気合を入れたら、あとはほったらかしが一番なのだが、じっと見ていると、つい触りたくなる。
「光が差してきたから、ちょっと露出補正したいなあ」
メモリー問題が解決して暇になった私は、三脚の前で葛藤する。「そうだ。ここでやきもきするより、いろんな構図の静止画をおさえておこう」。欲深く車の奥底から古いカメラを掘り出して、手持ちでウロウロ撮り始めた。花筏は広がり狭まりながらも対岸へ向かい、やがて目の前には花びらのない緑色の水面が露わになった。

   *

ふと、何かを忘れている気がして、慌てて2台のカメラを覗く。いつのまにか、何もかもが消灯している。
「あああああ!!」
大変なことを忘れていた。そう、前日から交換していなかったカメラのバッテリーだ。すぐに帰宅するからと充電を怠っていたため、もったいないと満充電のものに替えておらず、メモリーカードと一緒に交換するつもりだったのを失念していた。撮影中のカメラをしっかり見ていれば気付くのに、欲を出したばっかりに……。

さて、本来なら極秘レベルの恥ずかしい失敗談を、なぜわざわざ書いているかというと、この桜のエピソードをと振り返っても、メモリーとバッテリー事件しか思い出せなかったから。メモリー、バッテリー、ガソリンの満タン補充は、心の余裕と作品を創りだすコツかもしれない。

旅ノート

8Kのタイムラプス動画をカメラ内で自動作成してくれるNikon Z 9。現状のパソコンでの8K編集は荷が重く、撮って出しで使えるよう撮影時にがんばってきましたが、そろそろパソコンも新投入しなくてはと腹を括るこの頃です。

写真・エッセイ:星野佑佳
風景写真2022年3-4月号

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