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もっと撮り旅

「行きはよいよい……」(大分県・金鱗湖)

Z 7II/NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S/f8/1/100秒/ISO250/RAW(CapturaNX-D/晴天/ビビッド)/手持ち/PL/'20年11月12日7時/大分県由布市・湯布院町

金鱗湖は温泉が流れ込むので、寒い朝は霧が出るんですよ。
いつも情報を提供してくれるNさんの言葉に触発され、朝の撮影に間に合うように高速道路をすっ飛ばして大分入りした私。日程に余裕がなく、6日ほど九州をまわったら、フェリーで一気に帰るつもりだった。一晩寝るだけのフェリーは楽だし、ガソリン代、高速代、車の消耗、体力の温存を考えるとコストパフォーマンスも悪くない。ただ、感染リスクは未知数なので、ずっと個室に籠もろうと画策したが、すでに数日内の個室は満室。相部屋も混んでいたので、確実に感染対策できる陸路で帰ることにした。
「寄り道せず一気に帰るのはしんどいなぁ」。
自分を説得するため、陸路の醍醐味を想像してみる。高速道路のサービスエリア(SA)巡りで地図やパンフレットをもらい、お土産やご当地アイテムを物色したり、全自動カップコーヒーを味わったり。そういえば、このルートにはお気に入りのSAがあったはず……。
数年前、オープンしたてのSAに偶然立ち寄り、「ベルばら」や「リボンの騎士」のコラボ商品やオシャレなスイーツ、しゃべるロボット・ペッパーちゃんに、また来たい! と感動したのを思い出す。自信に満ちた表情で「あなたの年齢当てますよ」としゃべりだすペッパーちゃん。花粉対策でマスク顔の私をグルグル首を回して見つめぬいたあげく、「ごめんなさい。今日は調子が悪いみたい」と逃げた上目遣いの表情が忘れられない。
「あれっきりになっていた、あのSAに行ってみよう!」
私は遠足気分で走り出した。

   *

確か、宝塚あたりだったはず……と、宝塚インターチェンジ(IC)の手前にあるSAにワクワクしながら立ち寄った。
「あれ? こんな地味だっけ?」
宮殿みたいだったと思うのだが、目の前にあるのはごく普通の建物だ。
「反対側の下りSAだったのかな?」
たまに上りと下りのSAで天と地ほどの格差をみせる所もある。調べると、現在地は名神の西宮名塩SAで、行きたかったのは「新名神の宝塚北SA」。すぐ先の「宝塚IC」と名前は似ているが路線違いで、一つ手前のジャンクションで新名神ルートを選ばなければならなかった。
普段ならここで諦める。自宅へ帰る道を間違えたわけじゃない。このまま進めば、1時間ほどで家に着く。分岐点まで戻って、新名神ルートに入るのは、ムダ以外のなにものでもない。が、九州からの約700キロ、8時間弱を走る間、ずっと楽しみにしていたSAだ。
「どうしても行きたい」
頭の中で、オスカルが、ブラックジャックが手招きをする。私は引き返すことにした。次の宝塚ICで降りてUターン。また乗り直す。が、落とし穴はすぐ先に待ちかまえていた。
再入線して間もなく、分岐の標識が出てきた。右は「大阪」、左は「舞鶴・広島」と書いてある。広島は通過してきたところだし、舞鶴も見当違いの方向だ。「宝塚」は兵庫県だけど、大阪にほど近い。迷うことなく「大阪」を選んだ私は、しばらく走ってからやっと気が付く。宝塚ICで降りる前と同じ方向に進んでいることに。あぁ、自分が方向音痴であることを忘れていた。
「このまま走って帰ってしまおうか」
諦めがよぎったが、宝塚北SAに寄ることは、すでに執念となっていた。
「このままでは帰れない」
私は、もう一度、次のICで降りて戻ることにした。

   *

苦労の末、念願の宝塚北SAに到着。あれほど恋焦がれたSAだが、記憶に残るほどのキラキラ感はなく、ペッパーちゃんも見当たらず、密々に混んでいたので早々に退散。マスク着用が必須の今、年齢を当てられないペッパーちゃんはどうしているのだろう。
いつの日か、コロナに打ち勝った暁には、フルメイク化粧でペッパーちゃんに再挑戦してみたい。再会を願いながら、帰路を急いだ。

*ペッパーちゃんは案内所の営業時間内のみ展示。

旅ノート

昔、青春18切符で初訪問して以来、大好きな湯布院。撮影の合間に、豊後牛まぶしの絶品ランチ。鍵屋のおはぎをほおばり、犬猫グッズ店に立ち寄り、スーパーでかぼすジュースを調達。湯布院温泉の近くには黒川、塚原の名湯もありお勧めです。

写真・エッセイ:星野佑佳
風景写真2021年9-10月号

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