あなたは、あなたのままでいい。写真で送る全肯定のエール
幸せの形は人それぞれ。撮影を通じて、誰もが堂々と自分を表現できる社会作りの一助になれたらと思っています。
理想は、誰もが自由に自分を表現できる社会
LGBTという言葉が、当たり前に使われるようになりました。私が写真を撮り始めた十数年前にはアンダーグラウンドな言葉だった「女装子(じょそこ、女装を楽しむ男性を指す)」も、2014年には流行語大賞にノミネートされました。ほかにもジェンダーフリー、ノンバイナリーといった、生まれ持った身体的な区分に縛られない多様な性のあり方や価値観が、社会にも随分認められてきたようです。写真家としてキャリアをスタートした時からそのような人たちを多く撮影してきたので、この状況を喜ばしく思っています。
私が女装する人たちの撮影を始めた当時は、人に知られぬように女装をしている人が大半でした。でも好きなものを好きと言えない社会なんて、窮屈ではありませんか。誰もがもっと自分を堂々と表現できるようになれば良いという思いで、女装をして写真が撮れるスタジオの開設、女装がテーマの写真集の出版、メディアへの出演などを積極的に行いました。
私が携わったのは全体の流れのほんの一部ですが、女装にまつわる人たちそれぞれの思いが連なり、今では女装したいと思う人は自分でネットを見ながらメイクの勉強をして、街中に洋服を買いに行って、自撮りをしてSNSにアップ。そんなことが普通に行われるようになってきましたね。
撮影を通じ、モデル自身が自分を肯定できるように
写真は私にとって、想いを表現するツールでもあります。一つには、これまで光が当たらなかったものに対して私が写真を撮ることで、世間に「こんなにも素敵なものがあるんです」と提示したいという想い。それから、世の中の既成概念を壊したいという想い。
一般的に「かわいい」「美しい」というと、若くてプロポーションが良く、目鼻立ちが整っている女性をイメージしがちです。でも女性自身がその呪縛に囚われ苦しんでいたり、まして女装をしたい男性にとっては高いハードルになっていたりもします。でもそれは、とても残念で悲しいこと。型にとらわれず、それぞれが自分なりの「かわいい」「美しい」を表現できたら素敵だと思うのです。
だからポートレートを撮るとき、私はその人を全肯定。その人の魅力を目一杯引き出すことを意識しています。写真を撮られることで「自分も意外ときれいだったんだ」「自分にも魅力的な部分があるんだ」ということに気が付き、それが自信につながってくれたらという気持ちでシャッターを切っています。

食卓に見る、さまざまな幸せの形
2021年の年明けから新たに取り組んだのが「We all eat, It's a small world」というシリーズです。緊急事態宣言中、皆さん家にこもって食事をしていましたよね。そこで何軒かの家にお邪魔して「食卓の風景」を切り口にこの期間の人々の営みを記録できたらと考えました。
これにはもう一つ「さまざまな幸せの形」というテーマもあります。撮影させてもらったのは私の友人たちですが、職業も家族構成も生活スタイルもバラバラです。例えば家族といっても、子供がいる人、夫婦だけの人、事実婚の人、同棲している人。また、ずっと一人の人もいれば、離婚して好きなことをやっている人もいる。安定した職に付き、結婚して子どもを作り、家を買って穏やかに生涯を送っていくといった人生ももちろん良いですが、暮らしや幸せの形は人それぞれ、決まった形などないということを提示したかったのです。
これまでアンダーグラウンド的な世界を撮影してきた私を知る人は、方向性が変わったと思われるかもしれません。でも根っこは同じです。「あなたがそれを幸せだと思うなら、そのままで良いのです」というメッセージ。その想いはこれからも変わらないでしょう。
求めていた、まろやかで艶やかな質感
ニコンはD300からのユーザーで、ここ最近はD850を気に入って使っていました。ですからZ 7Ⅱを試用したときもミラーレスカメラに特別な思い入れはなかったのですが、実際に使ってみて即購入(笑)。今ではZ 7IIがメインのカメラです。
なにより画質がすばらしい。それにオートフォーカスも高精度。これまでポートレートは、マルチセレクターでフォーカスポイントを瞳に合わせるなどして撮っていました。でもセレクターでの微調整はそれほど素早くはできないため画が硬くなりがちで、それが悩みのタネでした。
ところがZシリーズに搭載されている「瞳AF」を使えば、カメラまかせでもピンポイントで目に合焦。その分構図や表情に集中でき、撮影もはかどっています。
またZマウントのレンズはどれも開放からピント面の描写が明瞭で、ボケ味も美しい。
「We all eat, It’s a small world」には主にNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sを使っているのですが、写した画から感じるまろやかで艶やかな質感は、まさにこのドキュメンタリーを撮るのに私が求めているものでした。
それから使い心地の良さ。レンズの感触も良いし、リングのトルク具合も絶妙です。ちょっとした操作の違和感も、長時間の撮影では結構なストレスになります。気分良く撮影に没頭させてくれる機材はありがたいです。

これからも多様性をテーマに
私は人とコミュニケーションを取ることが好きで、出会いをきっかけにこれまでもさまざまなことにチャレンジしてきましたが、まだまだやりたいことは尽きません。
今考えているのは「ギフテッド」をテーマにした展覧会。ギフテッドについて現在日本では明確な定義はありませんが、生まれつき高い知能や卓越した才能を持つ人たちのことと言われています。でもその能力ゆえに社会から浮きこぼれて孤独を抱え、生きづらい思いをしている人も少なくありません。
私はそういった人たちを繋ぎ、支援するためのサロンイベントを開いているのですが、写真展では彼ら・彼女らのロールモデルになるような人たちのポートレートを撮って、エピソードとともに展示をするのはどうだろうかと。周囲と馴染めず孤独を抱えているのはあなただけでない。世間には同じように素晴らしい能力を持つ人がいて、こんな生き方をしているんだよということを提示できたら、きっと励みにしてもらえるのではないかと考えています。
そして「We all eat, It’s a small world」の展覧会もやってみたいですね。小さなモニターではなく、大きくプリントした写真を展示した空間で鑑賞してもらえたら、部屋の小物一つひとつが存在感を持って立ち上がり、より生活の空気がリアルに伝わるのではないかと思うのです。
ここ10年ほど女装する人たちを撮り続けてきましたが、世間に認知されるようになったので、私の気持ちの中では一区切りついた感があります。ギフテッドや食卓のシリーズにしてもそうですが、これからはさらに広い視野で生き方の多様性について考え、表現していければと思っています。