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第六十三夜 AF Zoom-Nikkor 28-80mmF3.3-5.6G

キットレンズの定番、最小構成枚数のズームレンズ
AF Zoom-Nikkor 28-80mmF3.3-5.6G

第六十三夜はAF(オートフォーカス)カメラの常用ズームレンズ、キット販売方式を定着させたAF Zoom-Nikkor 28-80mmF3.3-5.6Gを取り上げます。時は2001年。新たなフィルムカメラの販売スタイルが定着しつつありました。ニコンは時代にマッチした安価で高性能なカメラ「ニコンU」を発売します。このころから本当の意味で、「標準ズームセット(キット)」と言う形態のカメラの販売形式が定着したと言えます。その結果、レンズの価格はボディとセットで購入する場合、実質単体売りの半値よりもはるかに安い金額が想定されていました。巷ではそのセット販売されていたレンズを「キットレンズ」と呼ぶようになります。今夜は標準キット販売方式の確立に貢献したレンズ、AF Zoom-Nikkor 28-80mmF3.3-5.6Gについて、隠された秘密を探ります。

佐藤治夫

1、「標準セット(キット)」レンズの変遷

ボディとレンズをセット販売する販売方式は古く、元々はカメラボディーには50mmF2や50mmF1.4という単焦点レンズとセットされて販売されるのが常でした。本来レンズ交換式カメラ以外は、ボディとレンズの単体販売はあり得ません。したがってユーザーの認識では、ボディとレンズは一緒に販売されるのが普通でした。しかし、交換レンズ式カメラは別々にできる以上、ボディとレンズの選択は多種多様な組み合わせが可能です。それ故、交換レンズ式カメラは、購入時にその組み合わせを考えることも一つの楽しみだったのです。そんな中、ユーザーが迷わず購入できるよう、メーカーとして推奨する「標準セット」が出来上がりました。そんな「標準セット」に選ばれたレンズが「キットレンズ」と言われるようになります。そして、ズームレンズの進化が円熟するにしたがって「標準キットレンズ」はやがて「標準キットズーム」に変化していきます。元々単焦点レンズを付属して販売する方式だったキット販売が1984年頃から徐々にズームレンズを付属して販売するようになります。これには設計・製造技術の進歩が大きくかかわっています。このころから、ズームレンズは小型化、低価格化、高性能化の三拍子そろった解が見出せるようになったからです。その後、1991年頃に量産型非球面の開発に成功し、標準ズームレンズの更なる高倍率化・広角化・高性能化に貢献します。2000年に至り、キットズームの「低価格」「高価値」「低コスト」が成熟し、価格破壊と言われるほど、標準セットの価格はリーズナブルなものになっていきます。そして2017年、デジタル化を迎えた現在では、標準キットにはいろいろなヴァリエーションがあり、原点回帰とも言える単焦点レンズ付きのキットが復活しているのです。

2、開発履歴と設計者

AFズームニッコール28~80mmF3.3-5.6Gの光学系を設計したのは、何を隠そうこの私です。私は凹凸2群ズームレンズ設計の巨匠、林清志(はやしきよし)氏からニッコールの標準ズーム(キットレンズ)の設計・開発を一手に引き継ぎました。このAFズームニッコール28~80mmF3.3-5.6Gに到達するまでには、数々のレンズ開発を経ています。今日はその履歴を振り返りましょう。

「キットズームの最初は43~86mmズーム」と言う見方もできますが、社の内外を問わず名実共に販売スタイルが整ったのはAFの時代になってからだと思います。当社でいえば1986年にニコンF501とキットになって発売された、林氏設計のAiAFズームニッコール35-70mmF3.3-4.5Sが初めてではないでしょうか。私は林師匠の後を引き継ぎ、1992年に複合型非球面の開発と共にAi AF Zoom Nikkor 28-70mm F3.5-4.5Dを設計、開発。その後、さらなる小型軽量低価格化をめざし、1993年に非球面を用い6枚構成で設計したAi AF Zoom Nikkor 35-80mm F4-5.6D を開発します。続いて1995年にAi AF Zoom Nikkor 28-80mm F3.5-5.6D とAi AF Zoom Nikkor 35-80mm F4-5.6D<New>を同時開発。 その後1999年に開発リーダとして監督したAi AF Zoom Nikkor 28-80mm F3.5-5.6D<New>を経て、2001年3月、21世紀になって6群6枚と言う標準ズームレンズとしては世界最小最軽量でかつ最小構成枚数のAF Zoom Nikkor 28-80mm F3.3-5.6Gを自身で設計・開発しました。設計着手は1999(平成11)年2月、光学設計報告書提出は1999年3月でした。すぐさま開発予算を取得し、試作図面を1999年6月までに作成・発行。量産試作を1999年8月開始。当時としては最速の開発でした。そして量産に移行するのが2000年10月。そして、2001年3月にニコンUに少しだけ先行して発売されました。この特徴的なクラス最小構成枚数の光学系、6群6枚構成凹凸2群ズームタイプは、国内では1992年、海外でも1994年に特許取得をしているレンズ構成でした。

3、レンズ構成と特徴

図1

AF Zoom-Nikkor 28-80mmF3.3-5.6Gの断面図(図1)をご覧ください。少々難しいお話をしますがご容赦ください。このズームレンズは最も単純なニコン伝統のレンズタイプ、負正(凹凸)2群ズームレンズです。負の前群は非球面を持った凹レンズ1枚と正レンズ1枚と、色消し可能な最低枚数の2枚のみで構成されています。正の後群は基本的には凸凹凸のトリプレットのパワー配置と言えます。しかし単純な凸凹凸ではなく、初めの凸を2つに分けることで明るさ確保し、主点を前方に出す役目をさせています。したがって、正確には凸凸凹凸の4枚はエルノスター構成になっています。このエルノスター構成がミソなのです。エルノスタータイプは、まさに負正2群ズームのマスターレンズに最適で、最小枚数で構成できる最もシンプルな解なのです。しかし誰もが考えることですが、4枚ではなく3枚では構成できないのかと。そうすればさらに構成枚数が減ります。たとえば、このエルノスタータイプの前方の2枚の凸レンズを非球面レンズ1枚で置き換えれば球面収差、下方コマ収差は補正できるように思えるでしょう?要はトリプレット構成にダイエットさせられないかと言うアイディアです。しかし、エルノスターの前方2枚の凸は、球面収差、コマ収差の補正のほかに、正の歪曲を発生させ、主点を前方(物体側)に移動させる役目を果たしています(いわゆるテレフォトタイプになっている)のです。したがって、現実には非球面凸レンズ1枚で、主点を前に出す様なベンディングにした途端、バランスの良い収差補正が困難になります。また、結局その代償は前群が支払うことになります。後群だけではなく、前群の主点もより後ろに出さなければならなくなり、前群の構成やベンディングも制限されます。それではなぜ前群の主点を後ろに、後群の主点を前に出さないとならないのでしょうか?それは変倍のために変化する空気間隔を確保し、出来るだけ大きなズーム比を確保するためなのです。今まではズーム比が1.5~2.5倍、F4程度の35mm判ズームレンズの場合、最低でも7枚のレンズが必要でした。しかし、ニッコールは7枚の壁を破りました。6枚構成でしかも7枚構成より高性能なレンズが完成したのです。

4、レンズは「必要悪」

若き日の私は、さまざまな先生がたから光学設計の心得を教えて頂きました。なかでも「レンズは必要悪」と言う言葉に魅かれ、私は生涯にわたり必要最小限、最小枚数の構成で設計することを心がけています。それはなぜだと思いますか?レンズは使い方によってある特定の収差を「補正する能力」を持っています。しかし、それと同時にそれ以外の収差を「発生」させてしまいます。したがって、特に設計が未熟であればあるほど、構成枚数ばかりどんどん増やすような設計を良とし、その割に思ったほど良い収差補正ができないというジレンマに陥りがちなのです。枚数増加はレンズの「進化」と考えられるかもしれませんが、自然の摂理で言うところの「退化」の様に、無駄なものが無くなるがごとく、枚数を軽減することは意味のあることなのです。レンズ表面は反射面です。レンズが1枚増せば2面反射面が増加します。構成枚数が多ければ多いほど、ベイリンググレアが増し、どんどん「ぬけ」が悪くなります。反射面増加はゴーストフレアーの増加につながるのです。では、良いコートを付ければ…?答えは単純です。いくらコーティングを良くしても、反射率をゼロにはできません。レンズが1枚減れば、2面分の反射率がゼロになります。皆さんは、一見収差性能の悪い2群6枚構成のダゴール(ドッペルアナスチグマート)や3群3枚構成のトリプレットが、6群7枚のガウスタイプよりもはるかに良い写りをした経験はないですか?それがレンズ枚数差による「ぬけ」の違いなのです。数値に置き換えれば、Tナンバーの違いと言えます。このレンズ枚数増加による「ぬけ」の良し悪しはMTFでは評価できません。そんな理由で、私は接合レンズを良く使い、構成枚数を極力抑える設計を志しています。同じ収差特性なら、構成枚数が少ない方が良いことは明白です。また、構成枚数の少なさは「小型化」「小径化(フィルター等)」「低価格化」といううれしい副産物も生み出します。そのような意味から、私はあえて「レンズは必要悪」と言っているのです。

5、光学特性

さて、それではAFズームニッコール28~80mmF3.3-5.6Gの収差的な特徴を見ていきましょう。まずは、広角端の28mm時から見ていきましょう。

 まず球面収差ですが、これは若干アンダーコレクション気味のフルコレクションでまとめました。当時としては残存量が少ない部類に入ると思われます。こだわったことは非点収差と像面湾曲です。像高8.5割(全画面の85%程度)までサジタル像面とメリジオナル像面を極力合わせて、非点隔差をなくしています。また、サジタルコマフレアーも極力発生させない工夫をしていました。したがって、点像再現性が良く、ボケ味も良好になる考慮を行いました。しかし歪曲は大きめで、無限遠時に約-4.8%発生しています。現在では簡単に画像処理で修正できます。しかし、当時はフィルムの時代、歪曲はこのレンズのウィークポイントでした。

 それでは中間の50mmではどうでしょうか。球面収差はフルコレクション。非点収差と像面湾曲は像高7割(全画面の70%程度)までサジタル像面とメリジオナル像面を極力合わせて、非点隔差をなくしています。しかし、少し大きめに像面湾曲が残っています。歪曲はここでほぼ無くなります。コマ収差が最小で、画角による点像形状の差が少ないことが特徴です。サジタルコマフレアーはかなり小さいので、点像再現性が良好です。シャープネスを求めるなら50mm近傍で、少し絞って撮影すれば満足いく画質が得られると思われます。

 望遠側はいかがでしょうか。球面収差は通常とは逆の湾曲を示したアンダーコレクションになっています。コマ収差は内方コマ傾向で芯がありフレアーが取り巻く形状。歪曲も1%以下。色収差のまとまりが最も良い特徴があります。点像は内方コマのフレアーがありますが、光学的な三次元描写特性が良好になるよう考慮しました。ピントの合ったところは少し低コントラストですが、芯があり、ボケ味が良好なバランスになっています。

 少々大げさに言えば、広角側はシャープで均一を目指し、望遠側はポートレートを中心として三次元描写特性を考慮し、好ましい画像再現を目指したと言えます。

6、安価なレンズにこそ「ニッコール魂」が宿る

最も安価で大量生産されるキットレンズの品質は、実は非常に大切であると私は考えています。なぜなら、キットレンズは、初めてニコンユーザーになられた方が、初めて手にするレンズになるからです。初心者の方が、最も安価でリーズナブルなカメラセットを購入することは多いでしょう。そこについているニッコールは、その方にとって初めてのニッコールであるとともに、このレンズがニッコールの「すべて」なのです。このレンズ=ニッコールであると言うことです。したがって、キットレンズこそニッコールらしい高品質で高性能を維持しなければなりません。それが下剋上になることもあります。しかし、私は、キットレンズの開発者こそ、常にこのような使命と責任感を持たなければならないと思っています。歴代のニッコール設計者たちがそうしてきたように。

7、実写性能と作例

次に実写結果を見ていきましょう。各絞り別に箇条書きに致します。評価については個人的な主観によるものです。参考意見としてご覧ください。

広角端28mm時

F3.3開放

センターは比較的シャープでフレアーもあまり感じない。中心から周辺まで比較的均一で、解像力コントラスト共に実用になる。際立って解像力が高いわけではないが、良像を維持していると言う感じ。ごく最周辺のみフレアーがあり若干解像感が低くなる。色にじみはほとんど感じない。

F4~5.6

F4に絞り込むことによって、センターから周辺に至るまでコントラスト、解像力ともに上昇。F5.6ではさらに最周辺までシャープネスが向上。

F8~11

さらに画面全体が均一な描写になる。特に解像力が向上し、好ましい画質となる。F8~11が全絞り中最も良い画質。風景写真にはF11が好ましい。

F16~22

画面全体がさらに均一な描写になるが、明らかに解像感低下。特にF22~32では回折の影響で解像感を損ねる。

中間焦点距離50mm時

F4.5開放

周辺まで均一に解像力はあり、実用的なシャープネスは維持している。しかし、周辺は若干フレアーがあり、ややソフトな描写になる。際立って解像力が高いわけではないが、端整で好感のもてる画質。やはりこのポジションでも色にじみは少ない。

F5.6~8

F5.6に絞り込むことによって、フレアーが少なくなり、コントラストが上昇。全画面のシャープネスが一段と向上した感あり。F8でフレアーがほとんど消えて周辺までコントラストが良い。F8が全絞り中最も良い画質。

F11~16

画面全体が均一な描写になる。特にコントラストが大幅に向上。F16では若干回折の影響で解像感を若干損ねる。

F22~29

均一な描写だが解像感低下。回折の影響で解像感を損ねる。

望遠端80mm時

F5.6開放

中間部分からフレアーがややソフトではあるが、解像力はある。端整な描写傾向は変わらず好感が持てる。ごく最周辺はフレアーでシャープネスが不足している。合焦点の色にじみは少ないが、若干ボケに色付きが出る場合がある。

F8~11

F8でフレアーが消え、解像力も高くなり好印象。しかし、コントラストが極端に強くならず、階調再現が良い。F11でさらに画面全体が均一な描写になる。F11が全絞り中最も良い画質。風景写真にはF11が好ましい。ポートレートには開放F5.6が良いかもしれない。開放F5.6は、ひと時代前の良質のガウスタイプの写りに近いと思われる。

F16~32

画面全体がさらに均一な描写になるが解像感低下。特にF22~32では回折の影響で解像感を損ねる。

どのポジションにおいても、シャープネスを期待するならF8~11の絞りで使用すると良好な結果を得られるでしょう。また、ポートレートで使用するなら80mm近傍のF値開放付近で使いたいところです。

それでは、作例写真で描写特性を確認してみましょう。

今回の作例もレンズの素性を判断していただくためにあえて倍率色収差補正、軸上色収差補正、特別なシャープネス・輪郭強調の設定はしておりません。

作例1,2,3は広角端28mm、50mm相当、望遠端80mmの遠景実写の作例です。常用する可能性の最も高い絞りF8で撮影しました。

作例1

ニコンD800 AF Zoom-Nikkor 28-80mmF3.3-5.6G(28mm相当)
絞り:F8
シャッタースピード:1/800sec
露出補正:-0.7EV
ISO:100
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:風景
撮影日 2017年6月

作例2

ニコンD800 AF Zoom-Nikkor 28-80mmF3.3-5.6G(50mm相当)
絞り:F8
シャッタースピード:1/800sec
露出補正:-0.7EV
ISO:100
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:風景
撮影日 2017年6月

作例3

ニコンD800 AF Zoom-Nikkor 28-80mmF3.3-5.6G(80mm相当)
絞り:F8
シャッタースピード:1/640sec
露出補正:-0.7EV
ISO:100
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:風景
撮影日 2017年6月

低コントラスト気味に階調が出るよう撮影しましたが、各焦点距離とも破綻が無く十分なシャープネスを持っていることが分かります。

作例4

ニコンD800 AF Zoom-Nikkor 28-80mmF3.3-5.6G(28mm相当)
絞り:F3.3開放
シャッタースピード:1/200sec
ISO:100
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日 2017年6月

作例5

ニコンD800 AF Zoom-Nikkor 28-80mmF3.3-5.6G(50mm相当)
絞り:F4.5開放
シャッタースピード:1/125sec、スピードライト使用
ISO:100
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日 2017年6月

作例4は28mm、F3.3開放で撮影した作例です。シャープネスは十分で、髪の毛や草木、花が良く再現されています。

作例5は50mm、F4.5開放時の作例です。安定したシャープネスを維持し、抜けが良く好感が持てます。しかし、ボケ味は若干固いのが残念です。

作例6

ニコンD800 AF Zoom-Nikkor 28-80mmF3.3-5.6G (70mm相当)
絞り:F5.3開放
シャッタースピード:1/250sec、スピードライト使用
ISO:100
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日 2017年6月

作例7

ニコンD800 AF Zoom-Nikkor 28-80mmF3.3-5.6G (80mm相当)
絞り:F5.6開放
シャッタースピード:1/250sec、スピードライト使用
ISO:100
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日 2017年6月

作例6は70mm、F5.3開放時の作例です。やはりこの焦点距離においても安定したシャープネスを維持し、抜けも良いです。しかし、このポジションでもボケ味は若干固いです。

作例7は80mm、F5.6開放時の作例です。抜けは良いのですが、他の焦点距離位置よりもほんの少しですが柔らかな描写になります。その分、幾分かボケ味は柔らかくなっています。後ボケを優先するなら、ポートレートは80mmで撮影したいところです。

作例8

ニコンD800 AF Zoom-Nikkor 28-80mmF3.3-5.6G (80mm相当)
絞り:F5.6開放
シャッタースピード:1/100sec
露出補正:-0.7EV
ISO:800
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:風景
撮影日 2017年5月

作例8は望遠端80mm、開放F3.5、最至近0.35mで撮った作例です。書き忘れましたが、このレンズは至近距離が短いのも特徴の一つでした。当時としては、各社のキットレンズの中で最も至近距離が短いレンズでした。作例の様にちょっとしたマクロ撮影も可能です。これも6枚構成(1群が2枚構成)の成果と言えるでしょう。ピントの合っている雄しべは心地よいシャープネスで好感が持てます。ボケ味は素直で二線ボケの傾向もなく良好なことがお分かり頂けると思います。

8、百年のとき

ニコンは2017年7月に創立100年を迎えました。今年は100周年の年。私は1985年に現ニコンに入社し勤続32年、光学設計に従事してきました。約1/3はともに過ごせたことになります。その間、数々の名設計者、試作名人、写真家、鬼の品証…、ひいては奇人変人に至るまで、多くの人との出会いがありました。以前は、もう少し前の時代に生きていたら…、と思うこともありましたが、今は違います。私の経験した時代は、まさに大きな革新の時代でした。やっと自動露出ができた時代にカメラを初め、マニュアルフォーカスからオートフォーカスへ、フィルムからデジタルへ、そして静止画から動画へ。今はとても有意義な時代に仕事ができたと思っています。ニコンは百年のときを経て、次の百年に向って精進します。今後の光学機器、カメラ、写真産業にどのように関わり、どう牽引してゆくのか。我々もまだまだ頑張らなければなりません。

私が今、最も興味を持っていることは結像特性の最適化です。私は物理現象である光学系の三次元領域における結像特性を研究し、その成果を社の内外に報告・公開いたしました。講演では多くの同胞に賛同を受けています。現在の映像用光学系の評価方法では、来るべき動画時代のレンズの優劣判定はできないと考えています。被写体側が三次元空間であるのはご存じのとおり。ならば結像側も三次元で評価すべきです。映像用光学系の光学性能は三次元特性を評価しなければなりません。もちろん光学設計においても、三次元の光学特性を完全にコントロールできる時代が当たり前のように来るだろうと考えておりました。たとえば「心理色」の研究は盛んにされています。しかし、皆がそこで培った心理評価ですら、映像・画像の世界ではまだ不十分です。光学の世界でも結像点以外の研究は非常に貧弱です。私は今後、ディフォーカス領域の研究は急務だと思います。将来「心理的に好ましい画像」の研究が、百年のときをこえて実を結んでいてほしいと思います。更なる百年、いや映像世界の未来に向かって。

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