Nikon Imaging
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<ニコンサロン>
ニコンサロン年度賞受賞作品展
第23回(2021年度)三木淳賞
村上 賀子「Known Unknown」

会期

2022年4月5日(火)~2022年4月18日(月) 日曜休館

10:30~18:30(最終日は15:00まで)

開催内容

「Known Unknown」(ノウンアンノウン)とは、“知らないということを知っている”という認知の状態を意味します。

撮影の条件は、自宅などで(カメラがないかのように)いつも通りに過ごす様子を撮るというものです。この作品に写る女性たちは、顔がはっきりとせず、私たちの眼を見返すことはありません。一方で、立ち居振る舞いや衣服、室内装飾等の細部は鮮明に写されています。

一般的にポートレート写真は、個人の身体的な特徴を精確に捉え、特に優れた作品は、被写体の個性を深い精神性とともに表現すると考えられています。しかし、この作品の関心はそういった視覚的な多様性にはありません。彼女たちが率直に自分自身を解釈しようとしたとき、それはどのように写真の中に現れ、写真はその一連の現象をどのように主導し、私たちの生に影響を与えるのかということについて考察しています。

不可視である自己の身体によって、透明な他者へと表出するイメージ。他者の不在が切実なリアリティーとなった日常のなかで、「見る」「見られる」という歴史的視線が撹拌されたとき、現代を生きる個人の可視性と不可視性が渾然一体となり立ち現れた皮膜に、私たちは「彼女」の肖像をいかに見出すでしょうか。

(村上賀子)

授賞理由

初めて見ると少し違和を感じるポートレートの数々。通常は中心になるはずの顔が写されていない。しかし極めてクリアに写されている室内。佇まいの自然さから被写体の住まう部屋なのだろうと想像できる。顔が写されていないことにより、見るものからはアノニマスな女性の在り方として見えてくる。年の頃は作者と同じ世代だろうか。学生ではなく、社会人として生活するもののまだ家族はおらず、都市で過不足なく豊かに暮らす無名で一般的な、“彼女達”の肖像をみることになる。
作者のステートメントには「彼女たちが率直に自分自身を解釈しようとしたとき、それはどのように写真の中に現れ、写真はその一連の現象をどのように主導し、私たちの生に影響を与えるのかということについて考察しています」とある。写真家という個性が被写体となる人物に挑み、その人物像を豊かに描き出すという肖像写真の在り方は、いまや古典的とも言えるのかも知れない。村上の撮る肖像写真はそういった撮る、撮られる、の関係を一旦瓦解し、カメラという道具を仲立ちにまるでお互いがそれぞれの鏡や窓になったようにフラットに関係し、映し出す。見ることや見られること、また、見えることも見えないことも超えて、今に“生きること”を描き出そうとする。
人は「自分とは何か」を常々自問しながら生きていく。しかし自分の生きて来た道を振りかえることはできても、これから歩む先は見えない。この写真行為によって、カメラに写すこと、写ることの意味がどのように立ち現れるのか?「見覚えのある自分と、見覚えのない自分」「想像通りの自分らしさ」「すべての感情に名前はついていない」「なぜ私だと言えるのだろう」といった会場にプリントされた言葉は、知らないことを理解し知るための写真行為として、極めて真摯に向き合い人間の在り方を探る作者の姿を想像させた。コロナ禍におけるディスタンスとしての他者との関係性として読むこともできる今を表現した優れたポートレートだと言える。よって三木淳賞にもっとも相応しい写真展であったと選考委員の意見が一致し受賞が決まった。

(選評・佐藤時啓)

<三木淳賞 最終選考に残った候補作品は次の通りです>
小野 悠介 写真展「太陽と月の下」(2021年3月16日~3月29日、ニコンサロン)
長沢 慎一郎 写真展「BONIN ISLANDERS ~The Lost 23 years of BONIN ISLANDS~」(2021年5月11日~5月24日、ニコンサロン)
村上 賀子 写真展「Known Unknown」(2021年11月9日~11月22日、ニコンサロン)

プロフィール

村上 賀子(ムラカミ イワウコ)

1986年宮城県仙台市生まれ。2012年武蔵野美術大学大学院造形研究科修了。コンセプチュアル・フォトのパイオニアとして知られる写真家・山崎博に師事。個人の記憶やアイデンティティーを社会的出来事や生活環境と相関的に捉えながら、可視と不可視のイメージを交錯させる写真作品・プロジェクトを展開。国内外にて作品制作・発表、執筆やウェブプロジェクト、イベントへの参加など、東京を拠点に活動中。
主な展示に、個展「HOME works 2015」(トーキョーワンダーサイト渋谷、2015)、「HOME works 2011」(Gallery NIW、2012)。
グループ展に「Kanzan Gallery Curatorial Exchange 『言葉とイメージ』 Vol.3 写真は語る 倉谷卓 村上賀子」(Kanzan Gallery、2017)、東川町国際写真フェスティバル(北海道東川町、2016)、「ISSP2015 FINAL EXHIBITION IN KULDIGA」(Kuldiga Art House、ラトビア、2015)、「トーキョーワンダーウォール公募2014」(東京都現代美術館、2014)など。
受賞歴に「東川国際写真フェスティバル 赤レンガポートフォリオ公開オーディション」準グランプリ(2017)、「International Photography Awards 2016」Honorable Mention(アメリカ、2016)、「キヤノン写真新世紀2012」佳作(2012)、「第59回朝日広告賞」 準朝日広告賞(2011)など。

Photo by Maarten Boswijk

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