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2016年度 三木淳賞奨励賞 森田 剛史

受賞作品内容

前回の展示を終え、僕は三人の写真行為が変わっていってしまう、もしかしたらこれで『良い思い出ができた』と終わってしまうかもしれないという不安がありました。
そんな僕の心配は本当にくだらないことで、展示をみた祖父と祖母は「こんなんやったらわたしらも撮ってみたいなぁ」と言いました。

なんて元気なじじいとばばあと思いながら僕は急いでカメラを用意。
じいにはニコンのF3、ばあにはペンタックスの67を渡しました。

三人で旅に出て撮影をするという僕たちのやり方に変わりはないですが、被写体、撮影者、アシスタントという境界が今はありません。 “祖父の肖像と祖父の選んだ土地を写し、和歌山という土地を繋いでいきたい”という思いはまだ見る人に伝わる形ではできていないかもしれません。 それでも撮影から発表というひとつの決着を終え、なお続いているこの写真行為の中間を僕はとても愛しく思っています。

この展示をもって三人の関係にまた一つ楔を打ち、次の展開が始まる。
そんなことを考えて、もういちど写真をおきたいと思います。
(森田剛史)

カラー約20点。

受賞理由

「続 きのくに」は、前作「キノクニ」と同様に、「祖父の肖像と祖父の選んだ土地を写し、和歌山という土地を繋いでいく」というコンセプトの下、作者と祖父と祖母の3人が、撮影者、被写体、アシスタントというゆるやかな役割を果たしながら旅に出て撮影したものだ。

奈良と三重の県境の大台ヶ原を水源とし、紀伊山地を抜け、紀伊水道に注ぐ大河である紀ノ川の上流から下流へ向かい、のんびり撮影を続ける。その河川から半径500メートル以内の場所で、祖父が写っているというのがルールである。流域は日本有数の多雨地帯であり、川は氾濫を繰り返し、長い時代にわたり、治水利水のため途方もないエネルギーが費やされてきた。その風土に育まれてきた人々の記憶と土地が持つ言葉にし難い感情を、写しとめようとする。祖父のまっすぐ伸びる視線は、時の重なりを引きずりながら、その向こうに幻の国を見ようとしているかのようだ。3人の関係も旅の中で変化を遂げ、日常の現実の中では味わえない、いとおしい瞬間が土地のイメージにも刻まれてゆく。

(選評・伊藤俊治)

プロフィール

森田 剛史(モリタ タケシ)

1990年生まれ。和歌山県和歌山市出身。2013年東京ビジュアルアーツ写真学科卒業。

写真展に、13年「平成24年度東京ビジュアルアーツ写真学科卒業制作優秀作品展」(ニコンサロンbis新宿)、「肖像Ⅰ/planar」(J3gallery) 、14年「キノクニ」(Juna21新宿ニコンサロン、Juna21大阪ニコンサロン)がある。

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