Nikon Imaging
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新宿ニコンサロン 2015年12月

第40回伊奈信男賞受賞作品展
奥山 淳志写真展

写真
あたらしい糸に
12/1 (火) ~12/7 (月)
10:30~18:30(最終日は15時まで)
会期中無休

写真展内容

写真

いまから10年ほど前、作者が岩手県の雫石町に移住してから数年たった頃のことだ。「東北」という土地が内包する世界を見たいという思いで、各地の祭礼行事を訪ねることになった。
その頃の作者は、東北の祭礼に興味を抱く多くの人たちと同じように、目の前で繰り広げられる祭礼の営みのなかに「まだ見ぬ遠い世界」や「憧れ」を見つけようとした。それはたとえば「縄文」であったり、「連綿と続く共同体の神話」であったりした。そして、そこには確かにその類の匂いもあり、甘美でもあった。もし、東北で生きることを決心していなかったならば、そこで見つけた「遠い世界」に身を委ね、心地良くシャッターを切ることができただろう。
しかし、作者は東北の同時代を生きる者として、見るべきことはもっと別なところにあるような気がした。それは、いま、祭礼はどういうものなのかという現実的な問題だった。
いうまでもなく多くの祭礼は形骸化している。遠い時代から信じられてきた大いなる物語は、すでに消えてしまっているのだ。簡単に言えば、祭礼は役目を終えた。そういうふうに作者には思えた。実際、行われなくなった祭礼も数多くあった。しかし、その一方で、何とか頭数を集めながら変わらぬかたちで祭礼を続ける人たちの姿も多くあった。そんな人たちの姿は、作者に根本的な疑問をもたらした。“物語を失った祭礼をなぜ続けるのだろうか?”その日から作者は、この問いの答えを探すべく、祭礼を訪ね歩いた。そして、今、作者はひとつの仮説に近い答えをつかんだような気がしている。
大いなる物語の代わりにこの地に暮らす人が探し出そうとしているものは、今の時代を生きる自分たちが、これからもこの土地で生きていくための新たな世界観ではないだろうか。彼らは、新たな糸をつむぐように、新しい世界観を仲間とともに見いだし、物語を失い、空になった祭礼という器に満たそうとしているのではないだろうか。
あたらしい糸。紡ぎ出されたその先を作者は見続けていきたいと思っている。カラー46点。

授賞理由

第40回伊奈信男賞は、奥山淳志氏の「あたらしい糸に」に決定した。青森、秋田、岩手県など、東北の祭礼を長期にわたって訪ね歩いた作品である。奥山氏の他にも強く推された作品が複数点あり、それぞれについて真摯な論議と検討が重ねられた結果の授賞決定となった。
奥山氏は大阪府の生まれで、東京での数年間の出版社勤務を経て、岩手県に移住して生活基盤とするようになって17年ほどになるという。この間の写真作品制作は活発で、これまでニコンサロンで開催した写真展には「明日をつくる人」(2008年新宿ニコンサロン)、「彼の生活 Country Songsより」(12年銀座ニコンサロン、同年大阪ニコンサロン)があり、それぞれ一人の男の日常を持続的に長期間追い続けながら人が生きることの意味を考え、そこに作者自身の生や存在についての問いや模索が重ねられていくような作品だった。
そして10年ほど前から撮影を始めたというこの授賞作品は、一見すると東北に連綿と続く祭礼を追い求めているようであるが、祭礼をフィルターにして「東北の現在」をテーマにしようと考える、極めて意欲的な作品である。いま東北に暮らす人々が、多くは形骸化していく祭礼の中に探し出そうとしているものは、この時代を生きる自分たちがこれから後もこの地で生きていくための新たな世界観ではないだろうかと祭りの場を通して体感し、さらに彼らは新たな価値を「あたらしい糸」で紡ぎだそうとしているのではないかと奥山氏は考える。東北の生まれ育ちではない距離感と、この地で生きることを決心した人生の選択とがこのテーマを可能にしたといえる。作品はいまだ制作の途上にあり、さらに撮り続けられるだろう今後の展開を注視したい。 (選評・大島洋)

作者のプロフィール

写真

奥山 淳志(オクヤマ アツシ)
1972年大阪府生まれ。京都外国語大学卒業。95年から98年まで東京で出版社に勤務した後、98年に岩手県の雫石町に移住し、写真家として活動を開始。以後、雑誌媒体を中心に北東北の風土や文化をテーマとした作品を発表するほか、近年は、フォトドキュメンタリー作品の制作を積極的に行っている。
写真展(個展・グループ展)に、2005年「旅するクロイヌ」(up cafe/岩手)、06年「Country Songs ここで生きている」(ガーディアン・ガーデン/東京、GALLERYヒラキン/岩手) 、08年「明日を作る人」(新宿ニコンサ口ン)、09年「今、そこにある旅(東京写真月間)」(コニカミノルタプラザ/東京)、10年「Drawing 明日をつくる人 vol.2」(TOTEM POLE PHOTO GALLERY/東京)、12年「彼の生活 Country Songsより」(銀座ニコンサロン、大阪ニコンサロン) がある。
著作に、03年『岩手旅街道』(岩手日報社)、04年『手のひらの仕事』(岩手日報社)、06年『フォト・ドキュメンタリー「NIPPON」』(ガーディアン・ガーデン)、12年『とうほく旅街道』(河北新報出版センター)がある。
このほか、「季刊銀花」(文化出版局)、「アサヒカメラ」(朝日新聞社)、「ソトコト」 (木楽舎)、「家庭画報」(世界文化社)、「風の旅人」(ユーラシア旅行社)、「ダ・ヴィンチ」(メディアファクトリー)、「Ways」(JAFMATE社)、「北東北エリアマガジンrakra」(あえるクリエイティブ)、「トランヴェール」(JR東日本) などで作品を発表。JRフルムーンポスターを手がける。
また、06年に写真展「フォト・ドキュメンタリー「NIPPON」2006」(ガーディアン・ガーデン)の写真家に選出された。

juna21 三木淳賞奨励賞受賞作品展
大坪 晶写真展

写真
Shadow in the House #01/#02
12/8 (火) ~12/14 (月)
10:30~18:30(最終日は15時まで)
会期中無休

写真展内容

Shadow in the House シリーズは、複雑な歴史を持つ家の室内に影を配して撮影している。場所は、チェコ共和国のプラハと奈良の大和郡山で、二つの家は所有者が重層的に入れ替わり、現在は公共施設として使用されている。
影は心理学的には生きられなかった自己の中に存在する他者であり、哲学者プラトンは、われわれが現実に見ているものはイデア(姿)の影に過ぎないと仮定した。
作者は、写真に長時間露光によって影を写し込むことにより、記憶の重層性について考え、個と社会、記憶と記録の関係性について提示している。

「Shadow in the House #01」
チェコ共和国プラハにあるBehal Fejér Institute(べトナ・ホラー・インスティチュート)は、1928年に個人の邸宅として建設された。第二次世界大戦中は軍事的に占領され、戦後の共産主義体制の元、政府から教会に貸与された。所有者のべトナ・ホラーは、政府により全ての私有財産を奪われ、家族とともにアメリカに亡命した。ホラーはその後故郷プラハに帰ることはなかった。1989年のビロード革命により、共産主義体制は崩壊した。その後、遺族が返還請求の裁判をおこし、2001年に返還された。現在、この施設は孫のIlona Wiss(イロナ・ウィス)によって管理されており、公共施設として人々を受け入れている。この写真群は、イロナの協力によって、歴史的背景と彼女が祖父から聞いたいくつかの逸話をもとに撮影したものである。

「Shadow in the House #02」
旧川本邸(奈良県大和郡山市)は大正時代に建設された。1958年まで遊郭として使用され、風営法の制定により遊郭を廃業した後には、客を接待していた小部屋は下宿として間貸しされた。
2010年市民のボランティアにより改修が開始され、現在は市の指定管理施設として町の保存団体が管理している。14年に登録有形文化財に指定され、今後、市による耐震化工事を経て、本格的な活用が始まってゆく。今回は、奈良芸術祭「はならぁと」のプロジェクトの一環としてキュレーターや保存団体の方々の協力を得て撮影を行うことができた。この邸宅には、当初遊郭として多様な人々が行き来し、その後間借りした人々が生活した痕跡が部屋の随所に存在している。

カラー16点。

授賞理由

写真というメディアは、記録装置として優れていることはいうまでもないことだが、人の記憶を封じ込めるシステムでもある。その記録と記憶の関係性を、歴史的建造物を撮影することで検証しようとする試みである。
そのために作者は、重複的に対照的な二つの被写体を選択している。チェコ共和国のプラハと日本の奈良大和郡山に遺されてきた古い建物(#01#02)― 西洋と東洋、邸宅と遊郭、プライベートとパブリック、そのように全く異なった経緯の過去をもつ室内を撮影。それらの歴史に拘わることのなかった現在の我々が、それらの撮影された写真を読み解こうとするとき、一体どのような記憶を意識化できうるのであろうか。それは個人的な知識や経験、参加(読みとろうとする)意識によって異なるはずであるが、それでも共通の記憶が浮上するであろうと作者は期待する。そのために作者は、写真画面上に長時間露光による人影を写しこんで記憶を呼び起こすmediumとして仕掛けている。その効果はさておき、写真による写真論というコンセプトが、現在の写真状況をよく顕している作品である。 (選評・土田ヒロミ)

作者のプロフィール

写真

大坪 晶(オオツボ アキラ)
1979年兵庫県生まれ。2001年京都文教大学人間学部 臨床心理学科卒業、11年東京藝術大学修士課程 先端芸術表現科修了、13年プラハ工芸美術大学(AAAD)修士課程 コンセプチュアルアート学部写真学科修了。
写真展(個展)に、「Shadow in the Mirror」(11年Juna21新宿ニコンサロン、12年Juna21大阪ニコンサロン)、13年「Lost Name of Plant」(VSUP/プラハ)、同年「Shadow in the House」(Běhal Fejér Institute/プラハ)、同年MUNIKAT Gallery(ミュンヘン)、14 年「The Hidden Secrets of Her」 KYOTOGRAPHIE KG+(ブックカフェ&ギャラリー ユニテ/京都)、15年「HIDDEN MEMORIES」(MUNIKAT Gallery/ミュンヘン)がある。 
受賞歴に、10年ミオ写真奨励賞審査員特別賞(森村泰昌選)、14年TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD審査員特別賞(後藤繁雄選)、15 年チェルシー国際ファインアートコンペティション入選がある。
11年-13年チェコ共和国政府奨学金、15年公益財団法人野村財団助成金(MUNIKAT Gallery展覧会)、同年公益財団法人 西枝財団助成金(Recollect, Gaze, Material in Common-チェコ・日本現代美術国際交流展)の対象者となる。

juna21 平野 敦写真展

写真
Slumdog
12/15 (火) ~12/21 (月)
10:30~18:30(最終日は15時まで)
会期中無休

写真展内容

~俺たちはスラムドッグだからさ。だけど、自分の家族、仲間、仕事には誇りをもっているよ~

2013年7月、作者はインドの大規模スラムであるダラヴィスラムを訪れた。
ダラヴィスラムの主な仕事はリサイクル業で、いたるところにリサイクル工場が所狭しと並んでいる。アルミニウム工場では朝9時頃から作業が始まる。まずアルミニウム製品を細かく粉砕したものを炉に入れ、熱しドロドロになるまで溶かす。昼過ぎにはさらに粉を追加し、かさを増していく。粉を追加するたびに黒煙とともにアルミニウムが舞い、作業をしている男たちの服は瞬く間に黒ずんでいく。夕方には屋根の隙間から光が差し込み、黒煙と混ざり合いながら光の筋となって工場内を照らしている。

スラムドッグとはスラムの負け犬という意味である。
この言葉が使われたのは、08年に上映された『スラムドッグ・ミリオネア』である。この映画のモデルになったダラヴィスラムで、作者は仲良くなった人たちに「自分がスラムに住んでいることをどう思う?」と質問した。「早くスラムを出てもっと楽な暮らしをしたい」という答えが返ってくるに違いないと思っていたが、彼らは「ダラヴィスラムで仕事をすることに誇りを持っている。この仕事は自分にしかできないことだから」と口を揃えて答えた。

貧しい人々が暮らすスラム地区というものは、確かに貧しい街なのかもしれない。しかし、彼らはそこで自分の家族、仲間、仕事に誇りをもって日々を生きている。

作者のプロフィール

平野 敦(ヒラノ アツシ)
1992年東京都生まれ。14年日本写真芸術専門学校卒業。同年から株式会社アキューブに勤務。

桜井 里香写真展

写真
岸辺のアルバム
12/22 (火) ~12/29 (火)
10:30~18:30(最終日は15時まで)
会期中無休

写真展内容

本展の展示作品は、今、作者が住んでいるところに近い多摩川で起こっている日々の出来事(イベント、コミュニティの活動、災害、護岸工事、事件・事故、等々)を、Facebookで写真関係の知人たちに伝えたいという個人的な思いから始まった。
その反響が予想以上に大きく、多くの人たちに励まされながら、毎日多摩川へ出かけて行き、そこで見たことを一日一枚写真でアップしていくという試みを作者はここ2年ほど継続してきた。
東京や川崎郊外の多摩川流域は、1977年にテレビドラマ『岸辺のアルバム』の舞台になった場所だ。作者はその脚本家である山田太一氏の作品に影響を受けてきた世代でもあり、撮り進めていくうちにこの作品の中の八千草薫が扮する母親の感じている疎外感のような不安定な意識にどこか共感する世代になっていることに気が付いた。
撮影方法はセルフポートレイトで、日々変化していく多摩川の河川敷やそこに集う人々の中に分け入って、そんな作者自身の姿を写し込んだ。他者を傍観したり、イベントに関わったり、時には事件に遭遇することもありながら、今そこに生きる人々の中に踏み込む行為を繰り返していたようだ。しかし、やがて、予想もしなかったことに作者は気付いた。それは、作者自身の現在が作品の中に露わになっていることである。
現在という時代に生きる一人の女、母親、個人としてその存在に分け入って考えようとする行為がこの作品に繋がっていったのだと作者は思っている。カラー50点。

作者のプロフィール

桜井 里香(サクライ リカ)
1964年東京都生まれ。83年東京都立工芸高等学校デザイン科卒業。88年東京綜合写真専門学校研究科卒業。
写真展に、86年「CONTEMPOLAROIDO Ⅶ」(ポラロイドギャラリー)、87年「写真と記録展」(オリンパスギャラリー東京)、89年「遊歩都市」(ミノルタフォトスペース新宿)、90年「第二回「期待される若手写真家20人展」」(パルコギャラリー)、91年「私という未知へ向かって-現代女性セルフポートレイト展」(東京都写真美術館)、13年「写真の地層展 vol.15」(世田谷美術館)、13年「スクエア25展 vol.11」(京橋ギャルリーソレイユ)がある。

12/30 (水) ~1/4 (月)
年末年始休館
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