Nikon Imaging
Japan

新宿ニコンサロン

2009年12月

第34回伊奈信男賞受賞作品展
太田 順一展







父の日記

12/1 (火)~12/14 (月)
10:00~19:00(最終日は16:00まで)
会期中無休


<写真展内容>
作者の父親が遺した日記である。
夫人に先立たれてひとり暮らしを余儀なくされた頃からつけ始め、87歳で逝くまでの20年間、毎日欠かさず書いていた。性格そのままに、小さな文字でびっしりと。
何の趣味もなくこつこつと働いてきた昔式の人間であったから、内容は何をつくって食べたとか、テレビで見た何がどうであったとか、凡庸なものだが、端々にひとりで老いていくことへの不安が漏れ出ていて、だからこそ人に迷惑をかけぬよう達者であらねばと、人一倍健康を気遣っているさまが記されている。
亡くなる2年前、認知症(痴呆症)のこともあって老人施設に入った。本人にとって入所は不本意であったようで、そのときを境に日記は錯乱したものにと変わる。ページは汚され、殴り書きがなされ、偏執的に同じ文言、記述が繰り返されていく。
日記は、父親の脳を襲った嵐のその痕跡なのだろう。人はこのようにして老い、死んでいくと知らされた。遠からず訪れる作者自身の姿を見る思いの作品である。
モノクロ47点。



<授賞理由>
今回、5人の審査員が各々推薦してきた候補作品は、見事にばらばらだった。それぞれ力強い独自性をもった写真表現は、どれもが受賞に相応しいものに思えた。だが同時に、それらを同じ土俵の上に乗せて論じることは、到底不可能なことのようにも思えた。この「多様性」と伊奈信男賞ひいては「写真」というただ一つの言葉を、どう調停させればよいのかという現代的な問題を共有するところから、議論は始められなければならなかった。その後、二度に亘る再投票と長い話し合いの末、全員の支持は次第に、太田順一氏の「父の日記」にまとまっていった。
認知症を患いながら逝った、氏の父上が遺した数冊の日記帳のページをカメラで複写したこの連作は、私たちに「写真を眺める」と言うよりは「文を読む」ことを強く促し、その点で視覚的な戸惑いを生じさせずにはおかない。だが、文面を目で追っているうちに、綴られた語の流れや文字のフォルムが崩れ始め、やがて苛立ちからなのか、強い筆圧のストロークが痕跡のように描かれ、ついには空白のページが現れるに至って、私たちはこの日記に、身体や時間といった、写真術における基本的な題材が、確かに存在していることを知る。この複写行為の底には、すべての写真が目指す世界の最奥部にある感覚、つまり、人間存在の有限性と唯一性を肯定するためにシャッターが切られるという、あの切実な感覚とまったく同じものが流れている。
「文の複写」と呼ぶと、手法面のみが強調されてしまうきらいがあるが、「父の日記」は、概念芸術に見られるような、形式に対する超越的、批評的態度とはあまり関係がない。むしろこの「複写」作品は、太田順一氏の長きに亘る個人的な写真実践から、内在的に、それ故に思い切って出現しているものだ。そしてそのことは、写真表現者が実践を通して獲得する「自由」の真の意味を、私たちに気付かせることになった。それが、この作品展が今年度の伊奈信男賞受賞に値すると、審査員たちが結論を出した理由である。



<作者のプロフィール>
太田 順一(オオタ ジュンイチ)
1950年奈良県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。大阪写真専門学校(現・ビジュアルアーツ専門学校 大阪)卒業。写真の会賞、日本写真協会賞作家賞受賞。
写真集に『女たちの猪飼野』(晶文社)、『日記・藍』(長征社)、『大阪ウチナーンチュ』(ブレーンセンター)、『ハンセン病療養所 百年の居場所』(解放出版社)、『化外の花』『群集のまち』(以上ブレーンセンター)などがあり、著書に『ぼくは写真家になる!』(岩波書店)がある。

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神田 開主展



juna21


真昼の夜空

12/15 (火)~12/21 (月)
10:00~19:00(最終日は16:00まで)
会期中無休



<写真展内容>
作者は群馬県の静かな街で育って来た。そこは発展というものからはほど遠い地であった。しかし平凡な町ではあったが不自由を感じることはなく、作者はこの地が好きであった。
十代半ばだった作者が一番心魅かれたモノが夜の散歩だった。人気は皆無に等しく、電灯も少ない真っ暗な夜は、夢遊病の如く彷徨う自分にとって心地よい空間であった。それを続けるうちに真冬の満月と出くわす季節が来て、世界を染め上げる真っ白な光は夜というコトを忘れさせるくらい煌々と降り注ぎ、少年の心を揺れ動かした。
時は流れ、東京に出てきた作者は写真と出会うことになる。慣れない日々に疲れ、実家に帰るたびにまた夜の散歩を始めるようになっていた。前回の散歩との決定的な違いは、作者がカメラを手にしていたことだろう。
作者の魅了された真っ白の満月、その満月が青白く染め上げた世界をカメラが吐き出し、写し出すのはこれまでにない「新しい世界」だった。カラー30点。



<作者のプロフィール>
神田 開主(カンダ アキカミ)
1986年埼玉県生まれ。2009年日本写真芸術専門学校卒業。現在同校研究科在学中。

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阿部 直樹展





昼の日ざし

12/22 (火)~12/29 (火)
10:00~19:00(最終日は16:00まで)
会期中無休



<写真展内容>
朝生まれたばかりの光が、昼になるにつれ、より豊かで力強くなる。そのとき、ものがより生き生きと見える。作者はその午後の光が好きだ。
展示する作品は、光と影が作る立体感に現実を感じ、形から受ける作者の感情を写真に捉えてきたものである。モノクロ30点。



<作者のプロフィール>
阿部 直樹(アベ ナオキ)
1983年群馬県生まれ。2006年東京造形大学造形学部デザイン学科卒業。08年同校大学院造形研究科修了。
写真展(個展)に、07年「午後の庭」(新宿ニコンサロン・大阪ニコンサロン)があり、グループ展に、05年瀬戸正人セレクション写真ワークショップ「夜の写真学校」5周年企画展(PLACE M)、08年「Doppelganger」(世田谷美術館分館・清川泰次記念ギャラリー内区民ギャラリー)、東京造形大学・大学院同窓生有志写真展「写真の分布」(桑沢デザイン研究所)などがある。