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Lesson18:アートな表現を楽しむ、多重露出の撮りかた

いつもの写真とは一味違う、よりアートな雰囲気の1枚に仕上がる「多重露出」。複数の写真を重ね合わせて撮る技法のことで、デジタルカメラの機能を使えば誰でも気軽にチャレンジすることができるのも魅力のひとつです。今回は、そんな多重露出の撮りかたと撮影アイデアをご紹介します。

※ 今回は「Z 6II」を例に説明を行います。その他カメラでは設定方法が異なる場合がありますので、詳細は各カメラのマニュアルをご確認ください。

撮影監修:斎藤勝則

1.多重露出の基礎知識

多重露出の魅力

多重露出とは、1コマの中に2枚以上の複数枚の画像を重ねて写し込む(露光する)写真技法のことで、「多重露光」とも呼ばれています。
写真を重ねることで、ソフト感やキラキラ感を倍増させ幻想的な演出を加えたり、全く違う被写体を重ねることでストーリーを感じさせるような1枚に仕上げたりすることができます。また写真を重ねてみる中で、想像以上に良い効果が得られることもあれば、予想外の“思わぬ産物”のような写真に仕上がることがあるのも多重露出の面白いところです。
自分の世界観やオリジナリティをより濃く反映することができる、創作意欲を掻き立たたせてくれる撮影方法ではないでしょうか。

より手軽になった多重露出

多重露出はまだデジタルカメラができる前、フィルムカメラの時代から写真表現のひとつとして行われていました。通常、1枚撮影するごとにフィルムを巻き上げ次の新しいコマで写真を撮りますが、それをあえて巻き上げず、像を写し込んだコマの上に新しい像を重ねて露光させることで多重露出の写真を撮影することができるのです。

デジタルカメラでは、フィルムカメラと同じように連続して撮った写真を重ねていくこともできますが、あらかじめ撮影しておいた画像を呼び出しその上に重ねて撮影したり、多重露出撮影中に重ねる写真を半透過させ構図を見極めながら撮影したりといった便利な機能もつきました。またリアルタイムで撮影しなくても、後からカメラ内や画像編集ソフト上で撮影した写真を合成、多重露出風の写真を作り上げることもできます。
フィルムカメラに比べ、より気軽に、またこだわった画作りにもチャレンジしやすくなりました。

多重露出撮影をする前に

デジタルカメラ(今回はZ 6IIを使います)で多重露出撮影をするにあたり、まず以下のポイントを覚えておきましょう。

RAW画像で撮影する

多重露出はJPEG画像ではなくRAW画像で撮影する必要があります。
リアルタイムで撮影する場合は[静止画撮影メニュー]の[多重露出]モードを使い、この場合は自動的にRAW画像で撮影が行われます。
撮影した後からカメラ内で画像を合成したい場合にも、RAW画像でなければ合成できないモードがありますので、写真を合成する前提であればRAW画像で撮影しておくとよいでしょう。

RAW画像についての詳しい説明はこちら

重ねるほどに明るくなる

多重露出は2枚以上(Z シリーズでは最大10枚)の写真を重ねて撮影しますが、それはつまり同じコマで何回も露光するということですので、枚数を重ねるごとに完成写真はどんどん明るくなっていきます。
明るさも含めどんな効果で写真を重ねていくのかを[合成モード]で設定することができます。設定したモードによって写真の仕上がりは大きく変わりますので、効果の違いをいろいろと試してみると良いですよ。

合成モード

それでは4種類ある[合成モード]について、それぞれどのような写りかたになるのか、以下の2枚の写真を重ねて効果の違いを見てみましょう。

1.加算

撮影した画像を重ね合わせるモードです。写真を重ねていくごとに、その分露出も明るくなります。

2.加算平均

撮影した画像を重ね合わせながら、重ねた写真の枚数(露光回数)に合わせて「1÷露光回数」で写真の明るさ(露出)を自動で調整します。たとえば、2枚写真を重ねた場合は1/2、3枚の場合は1/3の明るさになります。

3.比較明合成

重ね合わせた各画像を比較して、最も明るい部分を選択して残すように合成します。

4.比較暗合成

重ね合わせた各画像を比較して、最も暗い部分を選択して残すように合成します。

2.多重露出を撮影してみよう

写真を上手に重ねるコツ

イメージに合わせて写真を選び多重露出撮影をしても、うまく効果が出ずに難しく感じることもあるかもしれません。
考えかたとして1枚目は「ベース」の写真、2枚目の写真はベースを補う「イメージ」の写真と捉えると、どんな写真を重ねればよいかの整理がしやすくなります。

「ベース」にどんな「イメージ」をプラスするか

ベースとなる写真を決め、それをどんなテーマ、イメージで仕上げたいのかを意識して写真を重ねてみましょう。クールに、寂し気に、華やかに、ふんわりやわらかに……重ねる写真でイメージが変わります。撮影に慣れないうちは、1枚目のベース写真には主役となるハッキリとした被写体を入れ、2枚目には具体的な被写体よりも模様や抽象的なもの、ピンボケ写真などを使うと成功しやすいと思います。

シンプルな背景に人物を写したこちらの写真をベースに、イメージの異なる写真を重ねてみました。それぞれ、雰囲気が変わるのがわかると思います。

光源を玉ボケにして写した写真を重ねました

アルファベットが書かれた本のページを写した写真を重ねました

薄いレースのカーテンを写した写真を重ねました

空きスペースを意識して重ねる

2枚の写真の重なりかたによっては、ベースで写した被写体が見えなくなったり、全体がごちゃごちゃとしてテーマやイメージが伝わりにくくなってしまったりすることがあります。そんな時には、1枚目のベースの写真の中に、意識的に空きスペースを入れた構図で(空や壁など、シンプルな背景部分を作って)撮ってみましょう。2枚目の写真はその空きスペース部分に被写体を写すようにします。

1枚目のベース写真。花を左に寄せた構図で撮り、右に空きスペースを作っています

2枚目に重ねる光源の玉ボケ写真。1枚目で作った空きスペース部分に重なるよう右寄せにして撮影しました

重ねると、このようになります

このように、1枚目と2枚目に写っている被写体同士の位置、構図を意識して撮ることは多重露出ではとても大切です。上記の作例は分かりやすく撮ったものですが、少し複雑な被写体同士でも余計な重なりを避けたり、逆にあえて重ねることで効果を狙ったりすることもできますよ。

ベースの写真にシルエット部分を入れる

どの[合成モード]を選んだかによって効果は変わりますが、写真を重ねた時に暗いシルエット部分に2枚目の像が濃く出やすい傾向があります。

人物の横顔を逆光、アンダー目に撮影。黒い洋服を着てもらうとシルエットを作りやすくなります

ビルの窓ガラスの一部分を画面いっぱいに切り取った写真を重ねます

窓ガラスが人物のシルエットで型取られたような写真に仕上がりました

これを覚えておくと、たとえば黒い服を着た人物の洋服部分に、サングラスをかけた人物のサングラス部分に、逆光で写したビル群のビルの部分に、など、2枚目の像をどこに浮かび上がらせたいかという計算がしやすくなります。

カメラの操作方法

ここからは、Z 6IIで多重露出撮影を行う際の、カメラの操作方法をご紹介します。
先にも述べたように、あらかじめ撮影しておいた画像の上に重ねて撮影したり、後からカメラ内や画像編集ソフト上で合成したりすることもできますが、ここでは一番シンプルに、連続して撮影した写真をリアルタイムで重ねていく方法で多重露出の写真を撮っていきましょう。

1

[静止画撮影メニュー]から[多重露出]を選択。マルチセレクターの▶を押します

2

[多重露出モード]を選んで、マルチセレクターの▶を押します

3

[多重露出モード]を[する(連続)]、または[する(1回)]を選び設定します。[する(連続)]を選ぶと、[しない]を選択するまでずっと多重露出で撮影されますが、今回は1回のみ多重露出撮影を行うため、[する(1回)]に設定しました

4

次に、何枚の写真を連続して重ねるのかを決める[コマ数]を選び設定します。今回は2枚の写真を重ねるため、2に設定しました

5

次に、[合成モード]の設定を行います。今回は[加算]を選びました

6

必要に応じてその他の項目も設定を行ったなら、OKボタンを押します

7

1カット目、ドライフラワーの写真を撮影しました

8

続けて、2カット目。暗い場所に光源を設置し、ピントをボカして撮影しました

2枚目の撮影が終わると、自動的にカメラが合成を開始します。そして完成したのがこちらの写真です。[加算]で合成することで、明るくキラキラしたイメージになりました。

3.多重露出のアイデア

では最後に、多重露出の撮影アイデアやヒントをいくつかご紹介します。

同じ被写体を重ねて撮る

1枚目は通常通りに撮影、2枚目は同じ被写体をピンボケで撮影します。合成モードを[加算]や[加算平均]で重ね合わせると、ふんわりソフト効果をかけたような仕上がりになります。2枚目は、多少ずらして撮ってもふんわり度合いが増して面白いと思います。

1枚目はハッキリと写します

ほぼ同じ構図でピンをボカして写します

重ね合わせてドリーミーな印象に。合成モードは[加算]にして、明るい雰囲気に仕上げました

[比較明合成]で光跡を増やす

合成モード[比較明合成]は写真の中で明るい部分だけを抽出して重ねていくモードのため、たとえばこちらの作品のように、車が走る光跡を撮影した写真を何枚か重ねていくことで、長時間露光したかのような光跡を写した写真に仕上げることができます。

1枚目

2枚目

3枚目

3枚すべての光跡が1枚に収められました

人物を入れるとストーリー感が出る

重ねる写真の中に人物を入れると、写した人物の表情や重ねたものによってストーリー性が出しやすく、初心者にはおすすめです。

1枚目、うつむき加減の横顔の人物を撮影

1枚目と逆向きに立ってもらい、遠くを見つめるような角度で撮影しました。1枚目の人物に重なる位置に人物を置くのがポイントです

3枚目に、ボカした光源を重ねます

2つのシルエットを重ね、また色温度の違う赤や青の光源を重ねることで、様々な想いを感じさせる1枚に仕上げました

物+物は、似たイメージを重ねる

物と物を重ねるときには、たとえばビルの窓と工事現場=無機質なもの、たんぽぽの綿毛とレースのカーテン=やわらかな印象のもの、など違う被写体でも似た雰囲気を持つ物を重ねるとまとまりやすくなります。また、色のトーンが近いものを合わせる、同系色の中に一色だけ違う色味のものを重ねるなど色を意識してみるのもおすすめです。

1枚目は観覧車を逆光で撮影しました

花畑を大きくボカしファンタジー感を演出しています

逆光の観覧車がシルエットで抜けるように合成されました

夜景写真にキラキラ感を添える

夜景を背景にした記念写真に一工夫。撮った後でその周辺の夜景をピンぼけで撮影し重ねることでキラキラ感をプラスしたゴージャスな1枚に仕上がります。顔の部分に大きな光源がかぶらないように構図を意識して撮影するのがコツです。

夜景をバックに記念撮影

夜景の一部分を切り取ってピンボケ撮影

重ね合わせると、背景や写真下の暗い部分にも光が足されました

不思議で面白い多重露出の世界。アイデア次第で表現の可能性は無限に広がっていくと思います。今回は初心者向けの基本編としてご紹介していますので、チャレンジする皆さんにはぜひ、枠にハマらず自由に楽しんでいってほしいと思います。

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