Nikon Imaging
Japan
At the heart of the image.

vol.16 Sergey Gorshkov セルゲイ・ゴルシュコフ

Sergey Gorshkov

「失われつつある世界を記録したい」

ワイルドライフ/ネイチャー(ロシア)

フォトグラファーとしての起源

私はシベリアの小さな村の出身です。今ではそんな家は珍しいでしょうが、子供のころ、我が家にテレビはなく、たった一つの楽しみは自然の中で過ごすことでした。なぜ写真を始めたのか?それは、写真を撮るという行為が私をいっそう自然へと駆り立て、そこでアフリカのヒョウの遠吠えや、ロシアのツンドラ(永久凍土)地帯を飛ぶガンの声を聞くことができるからだと思います。米アラスカ州ランゲル島では北極の風を、ロシア東部カムチャツカ半島では火山から吹き出す、燃えたぎる溶岩の熱も体感できました。つまり私が写真を撮るのは、野生の動植物や自然とコミュニケーションを取れるからです。多くの時間を費やしてでも追求したい私の情熱そのものです。できるだけ動物たちに寄り添い、彼らの世界にとけ込むように努めています。そうすることで、私が感じ取ったことを写真を見る人とより深く分かち合えると思うのです。

なぜ写真を始めたのかとよく尋ねられます。初めてカムチャツカを訪問した時のことです。私は自然の豊かさにすっかり圧倒され、記念に風景の写真集を買おうと思いました。しかし、帰る日になっても良い写真集が見つからず、それなら「再訪して自分で撮ろう」と思ったのです。そんなことはこれまで考えたこともありませんでした。その後のアフリカへの旅が私の人生を一転させました。私は実は狩猟好きで、実際に、写真を撮り始めるまでは、ライフルスコープの十字線の向こうに野生動物を見ていました。しかし、アフリカで初めてヒョウを見て、あまりの美しさに魅了され、撃つことができなかったのです。心臓が今にも胸から飛び出さんばかりでした。あの瞬間から、私はもう銃を撃つことをやめ、代わりに写真を始めたのです。そうすれば、大自然を楽しみつつ、冒険を美しい画像で記録できるのですから。以来、二度と銃を手にしたいとは思いません。
人生は、時として、些細なことに影響されてその道筋が変わるものです。私がヒョウを見た日が、まさにそれです。この瞬間が私のフォトグラファーとしての起源だと言えるでしょう。狩猟をしていたことを恥じてはいません。でも、写真を撮ることが、動物たちの命を奪うことなく、狩猟をしたいという私の気持ちも満たしてくれることが分かったのです。

数年後、ニコンF5を持ってカムチャツカ半島を再訪しました。私の初めてのプロジェクトとして、クリル湖でクマの取材を行いました。私はその後クマの撮影に夢中になり、私の撮影テーマを象徴するものになりました。野生動物の撮影を始めて十数年ですが、私はまだプロとは呼べません。試行錯誤の繰り返しで、頻繁にミスをしてしまいます。でも、ミスから学び向上できるように、ミスを分析することを身につけました。

自分の住む世界を映し出すこと

野生動物の撮影において物質的な見返りは多くありません。事実、写真を単純に金もうけの道具と考えたことはありません。しかし、こうした野生動物とコミュニケーションする機会は、人生に計り知れない豊かさをもたらしてくれます。これは科学であり、冒険、芸術です。さらに嬉しいのは、それが自然を理解するための、また自分が住む世界を映し出すための、私なりの方法になっているということです。そのことを変えたくはないし、ただの仕事と割り切ることはできません。それでは喜びと自由が失われるからです。当初は自分のために写真を撮っていました。撮り続けるうちに上手に撮れるようになり、だんだんと作品を人々に見せたくなりました。レンズは、野生の自然と写真を見る側とを繋ぐものであると考えていて、私は、大自然の美しさを伝えるのに苦心します。徐々に姿を消している美しさです。撮影現場では、人間が自然に手を加えた結果何が起きたのか、またその後の変化を見てきました。時が経つにつれ不安はさらに募ります。地球環境は深刻な事態にあり、近年、状況は劇的に悪化しています。今すぐに何か手を打たなければ、現在目に見えているもの全てが、記憶としてしか残らなくなってしまいます。

新たなプロジェクト、新たな意義

初めてカメラを手にした瞬間から、私の人生には新しい意義が生まれました。当初営んでいた事業は手放しましたが、創造する自由を手に入れました。今あるのは自分の身と、カメラ、大自然の生きものたちだけです。情熱を持って思うがまま撮影を続けています。個人プロジェクトとしてロシアの大自然を撮影しているのですが、カムチャツカ半島がプロフェッショナリズムと自然について教えてくれたことに対して、私は感謝し続けています。

マルチメディアの重要性

私はよくセミナーを開きますが、話したりスライドを見せたりするだけでは、聴衆は退屈してしまいます。そんな時、動画が役立ちます。動画は静止画よりも、現場のリアリティーについて多くの情報を伝えることができます。2012年、カムチャツカ、トルバチク火山の噴火の時が良い例です。私は、ナショナル・ジオグラフィック誌ロシア版のために撮影に向かい、到着するとすぐに、自分が見ているものを最大限に伝えるにはビデオが必要だと感じました。なるべく多くの素材を残せるように努めました。溶岩の噴出や流れる様子は、巨大なパワーがあったので、動きを見せる必要がありました。以前は、ビデオ機材を追加で持っていくことが大変でしたが、今ならD4さえあれば、ボタン操作一つで高画質動画を録ることが可能になりました。

どんな状況でも信頼できるニコン

自然を相手にした撮影では、完璧な瞬間をものにできることはほとんどありません。野生動物と巡りあうために、雨や雪、氷の中で何時間も待機することはしばしば。そして運良く、その瞬間が訪れた時のために、即座に反応できる準備をしておかなくてはなりません。だからこそ、目的を確実に果たせるカメラが必要なのです。悪天候や過酷な条件に耐えられるものであることが必須です。そのような条件下での機材トラブルについて聞かれることがありますが、実は、私自身が、カメラを落としたり、水没させたりと、機材を厳しい状況にさらしてしまうことが多いのです。クマやライオンには歯でカメラにヒビを入れられました。空港で盗まれたこともあります。でも、ニコン機材にがっかりしたことはありません。この上なく信頼できる存在です。私の撮影の多くは僻地で行われ、当然ですが修理屋もカメラ店もありません。そういった環境でも確実に動くという信頼感や安心感が必要ですが、実際にニコンの機材はそれらを提供してくれるのです。

カメラバッグの中身

使用機材の選択は昔から変わりません。野生動物の撮影では、カメラ2台に複数レンズの付け替えが基本です。現在はD4ボディに以下のレンズを使用しています。
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED
AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II
AF-S NIKKOR 200-400mm f/4G ED VR II
AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR II
AF-S NIKKOR 600mm f/4G ED VR

これらのレンズで必要な焦点距離域を全てカバーできます。レンズの選択は仕事の内容次第です。例えば、カムチャツカでは中望遠ズームレンズでおおむね撮れるでしょう。一方、広大な北極圏では、動物たちが警戒しやすいので、距離を保つために超望遠レンズが必要です。特に、新しいAF-S NIKKOR 800mm f/5.6E FL ED VRは活躍するでしょう。使ってみるのが楽しみです。
私はもちろんズームが大好きで、不要な要素をフレーミングから外したいときなどにも使っています。望遠ズームレンズは、背景をぼかしてメインの被写体を強調したい時に使います。実は、私の動物写真の半分はAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR IIを使って撮っていると言っても過言ではありません。その他30%はAF-S NIKKOR 200-400mm f/4G ED VR IIで、残りはAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G EDで撮ったものでしょう。
単焦点レンズも使います。よく使うのは次の3本です。
AF-S NIKKOR 24mm f/1.4G ED
AF-S NIKKOR 50mm f/1.4G
AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR II
フラッシュはほとんど使いません。野生動物の撮影では基本的には許されないものだと思います。それにISO感度が高いD4ならフラッシュなしでも十分撮影できます。

プロフィール

セルゲイ・ゴルシュコフは1966年、シベリア生まれ。2000年代初めからフォトグラファーとして活動中。ロシア野生動物写真家連合(Russian Union of Wildlife Photographer)の創設メンバーの一人であり、写真を通した自然保護活動に熱心に取り組む。ロシアのPhotographer of the Yearのタイトルを二度獲得。英BBCのWildlife Photographer of the Yearを2007、2009、2012年に獲得するなど、多くの受賞経歴を誇る。ロシアやヨーロッパ各地で個展やセミナーを開くほか、作品は世界中の雑誌に掲載されている。これまでに写真集3冊「Bear」「The Vanishing World of Kamchatka」「Сat Walk」を出版。現在はナショナル・ジオグラフィック誌ロシア版の専属フォトグラファーとして、北極圏ロシアで撮影するほか、あるフォトグラファーのドキュメンタリーを製作中。撮影の合間は、モスクワで家族と過ごしている。