Nikon Imaging
Japan
At the heart of the image.

vol.10 写真だから伝えられるメッセージ。

写真を通じて、世界に地球環境の現状を発信する。

今や聞かない日はないというくらい、連日メディアから流される地球温暖化や環境破壊のニュース。日本において、実感する機会は比較的少ないものの、確実に私たちの将来に影を落とし始めています。
写真家であり生物ジャーナリストの藤原幸一氏は、20数年前から世界各地を訪れ、その土地の自然や動植物のすばらしさ、そしてその環境が日ごとに悪化していく様をニコンのカメラに収め続けてきました。
氏が目の当たりにしてきた自然の危機的状況、さらに撮影した写真や執筆活動を通じて精力的に発信し続けている環境保護のメッセージについてインタビューしています。
もちろん、極寒の南極から灼熱の砂漠まで、氏の活動と共にあるニコンの、その独自の活用法や撮影ノウハウについてもお聞きしました。

1. 環境破壊の現状をビジュアルで伝える。

より広く、環境保護を訴え続ける日々。

南米チリ、アタカマ砂漠が一年に一度だけ花園に変身。

藤原さんは、普段主にどのような活動をされているのでしょう?

もちろん写真家としての活動もありますが、ここ何年かは動物ものや環境関係、世界遺産といったテレビ番組の監修を行っています。「天才!志村 どうぶつ園」などは、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんね。
また日本テレビ製作の「動物惑星」では、ナビゲーターとしてレギュラーで出演していたこともあります。これまで私は世界各地を回り、自然や生き物たちの生態をカメラに収めてきました。しかし最近、地球全体の環境が急激に悪化し、単に可愛い動物や美しい自然を写すといったことだけでは済まなくなっていることを痛切に感じていたのです。このような現状を伝える番組を1年間ほどやっていました。

同時に、写真集なども精力的に出されていますね。

もちろん私個人の活動として撮ることも多いのですが、世界中の野生生物を撮影しているうちに、環境関連の写真が随分手元にたまりました。
そういった作品にメッセージを加え、環境保護を訴える切り口の写真集として出版するケースが多いですね。他にも可愛い動物ものや、それから図鑑のようなもの。そして環境問題を伝える読み物など、執筆活動もどんどん幅広くなっています。

地球全土で急激に悪化する環境破壊。

珊瑚の死「白化現象」。
グレートバリアリーフ。パプアニューギニアまで含めると、全長約3000km。

もともとは生物学を学ばれて、グレートバリアリーフの研究所にも在籍されていらっしゃったとか。

そうですね。オーストラリアにある世界最大の珊瑚礁の研究所にいました。そこでは写真家としてではなく、生き物の生態を記録するために、ほぼ毎日写真を撮っていました。ここでの経験が、現在の活動にも活かされています。
このグレートバリアリーフの現状だけでも、今の地球が抱える問題の深刻さが見えてきます。地球は現在、温暖化で海が激変しており、グレートバリアリーフをはじめとする世界中の珊瑚礁が壊滅の危機にさらされています。日本の本州よりも大きなこの珊瑚礁が、海の温暖化のせいであと20年くらいしかもたないだろうといわれています。

このことは私たちの生活に関係していることなのですか?

南アフリカにて。

もちろん。この話を聞き流してしまう方もいると思いますが、実はとても怖いシナリオがあるんです。日頃私たちは、化石燃料を使って余分な二酸化炭素を出していますよね。多くの人はこの二酸化炭素を森が吸収してくれていると思っているようですが、実は過剰な二酸化炭素の3分の1は海が吸収しています。そして珊瑚は、海が取り込んだ二酸化炭素を固体化して骨格として封じ込めてくれているんです。珊瑚礁がなくなると、今まで何億年もかけて封じ込めてきたものが逆に外に溶け出す可能性もあるんですね。そうなると、温暖化はさらに加速されます。このような現象がグレートバリアリーフだけでなく、世界中の珊瑚礁で起きています。もちろん沖縄の珊瑚礁も同様です。もともと私の専門分野でもありますし、一写真家としても追い続けていかなければいけないことだと思っています。

他にもガラパゴス諸島の問題を、20年間取り組んでいらっしゃいますよね。

ガラパゴス諸島は1978年に世界遺産第1号として登録されました。そのような場所ですから、さぞ管理が行き届いていると想像される方も多いことでしょう。しかし2007年に、今度は危機遺産に認定されてしまいました。このままだと世界遺産をキャンセルします、というわけですね。
世界遺産になったことで世界中から観光客が押し寄せ、わずかな期間で島の人口は10倍、観光客も10倍になってしまいました。それにともなう様ざまな要因で、あっという間に環境が激変したのです。
例えばガラパゴスにしかなかった原生の植物は、もともと550種類ほど。対してこの20年間で、外来の植物は900種類を超えました。これは島外から頻繁に運び込まれる貨物に付着していた植物の種などが主な原因と思われます。サンタクルス島の原生林もかつては数万ヘクタールあったものが、このような外来種や伐採などにより、今では全部足しても150ヘクタールくらいしか残っていません。
誰一人悪いことをしようとは思っていないのに、弱いインパクトでも積み重なれば壊滅的な事態になることが、ガラパゴスでとてもよくわかります。

ガラパゴス諸島を背に悠々と飛ぶガラパゴスオオグンカンドリ。

急激に人が増えると、動物たちとの共存も問題になりそうですね。

私が初めてガラパゴス諸島を訪れた時は、どの島へ行っても生き生きとした動植物の姿がありました。なんて素晴らしい場所だと思ったのですが、2000年を過ぎた頃から状況が一気に傾いていきます。
当初は道路も未舗装のデコボコ道。それゆえ車もゆっくりでしたし、車自体少なかった。それが2000年以降はタクシーが急速に増えて道路も舗装されたため、交通事故でたくさんな生き物が殺されるようになります。
さらに観光客が多ければ、沢山のゴミが出ます。ゴミ捨て場を確保するために、原生林は開拓され、24時間ゴミが燃やされ続けます。
ゴミ捨て場にはフィンチが毒性の化学物質が混ざった残飯を食べに来たり、巣材にアスベストを持っていったり。イグアナも、ゴミ捨て場をうろついたり。かつてのガラパゴスにはなかったような悲惨な光景が見られるようになりました。
現在では一応、危機遺産の指定は解除されています。でもそれは環境が良くなったからではなく、政府が改善の約束をしたということで解除されただけのこと。だから、状況はまだほとんど変わっていないのです。

年間約15万人訪れる観光客。
分別されず野焼きされるゴミの山。
ごみ捨て場に群がるウミイグアナ。
駐車場を横切るガラパゴスゾウガメ。

現状を変えるためのアクション。

植林の様子。
急激に減少する原生林。

住民の方々はこのような状況をどうお考えなのですか?

これもまた問題の一つです。人口は10倍になりましたが、他の土地からきた人達なので、ガラパゴスの原生林などに対する知識がほとんどないのです。ガラパゴスは原生林を中心に独自の進化をした動物たちがいる島。だから非常に重要な存在なのですが、残念ながら森には誰も関心を示していませんでした。
原生林の破壊はガラパゴスの海の生き物たちにも影響を与えます。例えば北海道などでは、近海で魚が取れなくなると、漁師さんたちが山に植林に行くことがあります。豊かな海の栄養は陸から流れてくるからです。ですからガラパゴスでも、森を痛めてしまえば海も痛んでしまうのです。 そこで、私自身が森の保護活動をすることにしました。協力をしてもらうために私が声をかけたのは、現地の国立公園や研究所、そして学校です。学校に対しまず始めたのは、校長先生の説得。学校の先生でも、実は島のことを理解していない方が多いのです。皆の同意を取り付けて、2007年の5月1日、現地の子供たちと一緒に植林を始めました。それから毎年、年3~5回植林を行っています。

『ガラパゴス博物学
孤島に生まれた進化の楽園』
(DATAHOUSE)
『ガラパゴスがこわれる』
(ポプラ社)

教育は大切ですね。

やはり教育に一番投資をすべきでしょう。大人は確かに理解が早いですが、毎日の暮らしに精一杯だったりします。子供は教育をすることで環境についてもっと学びたいという意識を持ってくれます。広がるのりしろが非常にあります。それに子供が動けば、親も動いてくれますし。
子供にもわかりやすい内容の写真集も多く出しているので、日本の学校でも私の本を総合学習に利用したり、夏休みの指定図書にしてくれたりしています。

ガラパゴス関係の書籍も多く出されていますね。

ガラパゴスについての本を作ろうと思ったのは、90年代初頭。ただ最初は、ガラパゴスの生き物の図鑑を作ろうと考えていました。というのは当時、現地には図鑑もなかったのです。生き物は現地の人が教えてくれるものの、地元の呼び名で、さらにスペイン語だったため全く分かりません。大変苦労しました。研究所はありましたから、そこに3ヶ月ほど泊まらせてもらいながら、研究所内の図書館で論文をひたすら読みメモしていきました。随分な量になったところで、これなら本が出せると。
ここに写真を加えて「ガラパゴス 時を忘れた生き物たち」(現在は改訂版「ガラパゴス博物学 孤島に生まれた進化の楽園」)を出版しました。この当時は他にガラパゴス関係の書籍がほとんどなかったため、ガラパゴスのおみやげ屋さんでこの日本語の本が海外の観光客向けに売られていたりしました。(笑)