Nikon Imaging
Japan
At the heart of the image.

vol.8 デジタルによって変わる、これからの写真館の形。

個人店舗だから出来る、デジタルを活かした写真館経営。

大型店舗のチェーン展開や、急激に進むデジタル化。今、写真業界は、大きな変化の渦中にあります。この状況に、頭を痛めている写真館オーナーさんも少なからずいることでしょう。
そんな中、埼玉県富士見市に70年前から店舗を構える隈川写真館社長・隈川英孝氏は、デジタルカメラの利点を活かし、着実に顧客を増やしています。
格安チェーン店と価格競争などしなくても、十分にやっていけると言う隈川氏。伸びる業績の裏には、デジタルカメラ黎明(れいめい)期から試行錯誤で積み上げてきた経験や知識と、利用して下さるお客様への想いがありました。
先日新築したばかりというスタジオで、デジタルによる写真館業務の効率化、さらにこれからの写真館経営について、お話を伺いました。

1.「ノウハウがゼロ」からの、デジタルへの挑戦。

アナログとデジタルを併用しながらのスタート。

隈川 英孝氏
E2

隈川写真館さんは随分歴史があるそうですね。また、デジタルの導入も早かったと伺いました。

店は祖父の代からですから、70年ほどになりますね。私で三代目。地元を中心に、幅広く活動してきました。
デジタルカメラの導入は、1996年からです。97年にはすでに証明写真の撮影をデジタルカメラで行っています。それから徐々にデジタルでの仕事の幅を増やしてきました。
その当時は1画素1円。NikonのE2・E3と言った、100万円以上する130万画素の機種からスタートしました。わずか15年ほど前の事ですが、今から見るとすでに隔世の感がありますね。
現在は100パーセント、デジタルで仕事をしています。スタジオでの撮影は2006年からフルデジタル化。スタジオ以外にも、40校ほどの学校で出張撮影などを行っているのですが、こちらは2003年からすべてデジタルです。

デジタル化に踏み切ったきっかけは、なんだったのでしょう?

デジタルカメラが出た時、まず注目したのが「その場で仕上がりを確認出来る」事です。私の様な心配性なフォトグラファーの為に出来たカメラだと思いましたよ(笑)。
とはいえ、D1くらいまではラチチュードが非常に狭かった。照明比も4対1ほどにするとハイライトは飛んでしまうし、シャドー部はつぶれてしまう。本格的な実用には、まだまだ時間がかかるレベルでしたね。
その為、まずは証明写真から始めました。写真のサイズが小さいので、多くの画素数は必要ありません。それに証明写真なら、人物を写す訳ですから色味や明暗に極端な差が無いでしょう。輝度差が激しく、様々な色を再現しなければならない野外での撮影と違い、まさに黎明(れいめい)期のデジタルカメラには、うってつけの仕事でしたね。

フィルムとの画質の違いについては、気になりませんでしたか?

当時はもちろん、比べものになりません。ですが、もともと私はアナログとデジタルは別のものとして、ケースによって使い分けようと考えていました。
デジタルを始めた頃、ちょうど印刷方法がアナログ印刷機からデジタル印刷機に変わろうとしていた時期でもありました。そうなると、卒業アルバムに使う小さな写真であれば、アナログで撮ってデジタル変換するより、最初からデジタルの方が効率的にも良いのではないかと。
しかし、スタジオ撮影のポートレートは、そうは行きません。4×5やブローニーと比較して、画質はもとより、画素数的にも当時のデジタル一眼レフで代用する事は不可能でした。その後、300~400万円もするデジタルプロバックなどを経て、今から4~5年ほど前より、一眼レフタイプで本格的なスタジオ撮影を開始しました。1000万画素クラスのカメラが出て、画質的にも許容範囲になりましたからね。それからは、ずっとスタジオでの撮影も、デジタル一眼レフで行っています。

いまだデジタルカメラに抵抗のある方もいらっしゃる様ですが。

「デジタルはダメだ」とおっしゃる方には、実際にデジタルカメラに搭載された色々な機能を使わず、あるいは理解しないでいる方が多い様に思います。また「デジタルは仕上がりにまだまだ問題が有る」とおっしゃる方も、その方が行った諸々の設定自体が間違っているケースもよくあります。
時々写真関係の方から「フィルムの方が良いのでは」とか「どのメーカーの機種がいいの?」と言った質問をされます。そんな時は、「どのメーカーと言うよりも、正しい設定をして、適正なヒストグラムの写真を撮らないと、フィルムの方がきれいですよ。」と言った話はします。
ちなみにフィルムの写真の善し悪しは、必ずしもフォトグラファーの腕ばかりではありません。現像に出された写真があまり良い写真で無い場合は、ラボのオペレーターが画像パラメーターを調整してくれる事があるのです。その為、腕が悪くても、ある程度見られる写真が出来ました。
ところが、自分でインクジェットプリンタを使い、印刷をする場合、その様な補正をしてくれる人はいません。つまり本来の「腕相応の写真」が出て来るのです。それを見て「デジタルはダメだ!」と見限るのは、お門違いでしょう。本当に腕の良いフォトグラファーは、フィルムでもデジタルでも良い写真を撮りますよ。

当時のカメラで撮影した写真。階調が十分に再現できず、襟や頬のハイライト部分が白飛び気味。
プリントに適した階調の写真。
左写真のヒストグラム。

周到な準備によって実現した、デジタルへの完全移行。

カメラはどの様な機種をお使いですか?

現在、スタジオ撮影で主に使っているのは、D3X。2450万画素あれば、大きく引き延ばしても問題ありません。出張撮影ではD300やD90がメインです。学校のイベントなどの撮影は、やはり機動性が重要ですから。
ちなみに、外で使うカメラとスタジオで使うカメラは、完全に分けています。
全てその環境にあった設定に、あらかじめ合わせて有るのです。例えば卒業アルバム用の個人写真を出張で撮る場合。事前に仮設スタジオの色温度を測り、カメラもそれに合わせて設定をしています。更に、その設定を絶対に崩したく無い場合は、設定をコントロールするダイヤルを接着剤で固定してしまいます。撮影中に何かの拍子で設定が変わってしまうと大変ですから。ただ、接着剤で止めると、カメラを修理に出す時は困りますけどね(笑)。
今、カメラのエラーは本当に少なくなりました。むしろ怖いのはヒューマン・エラー。それを抑える為の処置です。RAWやJPEGと言ったフォーマットはもちろん、サイズや圧縮率に至るまで、全てあらかじめ決めて、そのフォーマットにのっとって作業をしています。

半額キャンペーン中の現在のHP画面。
お客様に向けたアンケートサービスなども実施している。

それでもアナログからデジタルに移行するに当たって、様々な点で不安はありませんでしたか?

私はいつも、何かを大きく変える前に、事前のテストやアンケートを行っています。カメラも、アナログからデジタルに移行する為に、学校の撮影一回につき、アナログとデジタルの両方を1年間撮り続けました。そして、お客様にどちらが良いか選んでもらったのです。すると8割以上の学校がデジタルを高評価。そこで、完全移行に踏み切りました。もちろん1年目はコストが倍増でしたが、2年目以降は安心して仕事が出来ています。初期投資としては妥当でしたね。
今回の新スタジオ開店に当たっても、本格稼働をさせる前にプレオープンをしています。大丈夫と思っても、実際に業務をやってみて気づく不備が有るかもしれません。その間、お客様に協力してもらいながら、正式なオープンまでに完全稼働を出来る様にしました。もちろん御理解・御協力いただいたお客様には、割引などのサービスを行っています。
大胆な変更にも慎重な準備。万事、その様に仕事を進めています。

デジタルへの移行で変わった点。

アナログからデジタルへの移行で、コスト面に変化はありましたか?

デジタルに移行して、まず現像という作業がなくなりました。フィルムも、もちろん使いません。プリントだけは最終的に銀塩で出したいので、現在もお付き合いしているラボは有りますが、フィルム代金と現像代金が無くなった訳ですから、それは変わりましたよ。
特に学校相手のお仕事では、差が出ますね。スタジオにおいても、そこそこの車1台分くらいは年間で抑えられています。かなりの経費削減になっていますね。

撮影した写真の管理も変わったのではないですか?

以前はネガなどを、年ごと・イベントごとに分けて箱に入れていました。1年分だけでも段ボール数箱になります。それがデジタルでは、バックアップも含めて外付けHD(ハードディスク)数個に収まる。だから今回、新スタジオ建設に当っては、倉庫の面積を大幅に縮小しました。以前は撮影した写真の保管スペースだけで8~10帖ほど使っていたのですが、今回は約3帖。スペースの有効活用にも繋がっています。
もちろん過去作品の検索性は、雲泥の差。きちんとルール付けして保存すれば、いくらデータが増えても瞬時にピンポイントで写真を呼び出す事が出来ます。うちでは証明写真を始めた96年から、ファイル名の付け方を統一しています。どの様なOSの環境でも問題無いファイル名の付け方をしているので、文字化けなどの心配も有りません。最初のルール決めが重要です。後からの作業効率が全く違ってきますから。

写真は撮影後すぐに、ネットワークされた各エリアのPCで共有・バックアップされる。
バックアップシステム。

デジタルの良い点としましては、修正などがさほど手間なく行える事も有るかと思います。仕事では、その様な事もなさっていますか?

今のお客様は、修正が出来る事を知っています。2~3年くらい前からは、スタジオ撮影した写真を選択していると、お客様の方から「細身にして下さい」「4枚目の写真の顔を5枚目に合成して下さい」と言った事を平気で言って来るのです(笑)。でも私達は、出来るだけその様なご要望にもお応えする様にしています。
写真自体の質は、銀塩とデジタルでは、まだ差が有るかもしれません。しかし、私たちの写真館がそれを承知の上、デジタルで仕事をするのは、この様な加工が出来ると言ったメリットも大きいからです。
お客様にセールスをする時に何が一番重要なのか? それはお客様の要望を満たす事。その上で、さらにどれだけ良いサービスを提供出来るかが、他店との差となります。
私たちは「まずデジタルありき」で導入している訳ではありません。特に4年くらい前から急激にデジタルのメリットを望むお客様が増えてきたので、必然としてデジタルで仕事をしているだけなのです。

補正例。全体の色調やコントラストの修正、手元のタオルの消去、肌のなめらかさの調整など、より明るく活き活きとした雰囲気の写真に仕上がっている。

仕事のスピードは変わりましたか?

もちろん変わりました。例えば学校での撮影なら、撮影したその日にデータを取りまとめる事も可能です。スタジオのポートレートも、確認から現像、修正まですばやく出来ますよね。現像をラボに出していると戻って来るまでに2~3日のタイムラグが生じる事もありますが、自分で行えばかなりの高画質写真も1枚5~6分で現像完了。お客様一人分の仕事なら、1時間ほどで処理が可能です。

アプリケーションなども自分で学習されたのですか?

もちろん自分で研究しました。ただし、例えば「シャープの掛け方」一つにしても、いろいろなやり方がありますよね。本などを読んでもわからないノウハウは、業界の勉強会に出席したり、仲間内と情報交換したりして、日々知識を蓄えています。

隈川 英孝氏