NIKON

株式会社ニコン
光学本部 第一設計部 第四光学課

富田 賢典

本試作機から光学設計を担当。量産設計に携わり、工夫と苦労を重ねてWXシリーズを完成させた。
人工衛星の光学観測機器や天体望遠鏡など、宇宙天文関係の設計経験もあり。

社内の協力で貫けた妥協しない姿勢。

「設計は大変だろうが、これができれば理想的なスペックの双眼鏡になる。とくに天体好きにはたまらないものになるだろうと思いました」
本試作がはじまる頃に開発チームに加わった富田はそう振り返る。この時点では、もう製品仕様はほぼ固まっており、設計もおおよそベースはできていた。7×50は機能試作から本試作へスムーズに移行できた。

だが、10×50は前途多難だった。見え方の光学収差バランスで行き詰ってしまい、これが「大きな壁」となったのだ。

設計ソフト上ではわかりづらい、実際に覗いてみてはじめてわかるような、広い見掛け視界だからこそ発生する課題だった。福本の機能試作機の設計を受け継ぎつつも、再設計を行い、接眼レンズや対物レンズも見直していった。
相反する要素をいかにバランスよく折り合いをつけるかが、光学設計の妙でもある。
「『眼を含めた光学設計』における最適なポイントを探すのにとても苦労しました。また、設計全体の色収差バランスも理想に近づけるように変更しました。

*WX(左)と、2015年に製作された製品化試作の第一次品(右)

更に光学設計の中では“泥臭い仕事”と言われる迷光対策も、万全を期しています。
そこをおろそかにすると、それまでの努力が無に帰しかねないからです。
なんとか乗り越えた今だから言えることですが、部内での審査が大変厳しく、苦しい日々もありました。」
「最初の10x50本試作機が組みあがるのをずっと待っていて、一番にその場で覗いたんです。その時の感動は今でも忘れられません。」

量産段階でも、予期せぬトラブルが多々発生した。そんな時頼もしかったのが、社内の専門家たちだった。
カスタム品の設計などを通じた知己を訪ねると、みな快く知識も知恵も貸してくれた。
「こだわりの光学性能は妥協しない。その姿勢を貫くためには、幅広い光学設計のノウハウが必要になりました。

ニコンには長い歳月にわたる蓄積があり、それを社内横断的な協力のもとで活用できたからこそ実現できた性能だと思っています」

「様々な課題がありましたが、全社を挙げて乗り越えたからこそ実現できた製品です。
当時の上司から、『これは双眼鏡のカテゴリーを超えた見え方だ』と言われたときは、本当に嬉しかったです」

WXシリーズでもっとも苦労したのは、プリズムだと三人は口を揃える。
すべての面が全反射するアッベケーニッヒ型プリズムは、透過率が高い。幅が狭いので、ボディもスマートにできる。WXシリーズに採用されているものは、きわめて精度が高く、製造の難易度も高いが、これでなければ超広視界双眼鏡は達成できなかったという。

富田「WXシリーズのプリズムは本当に高性能なもののため、文字通り『全社を挙げて』完成度を高めていきました。こんなに高精度で高性能なプリズムが量産できるのかと疑問視されたことも10年かかってしまった一因です。

ただ、光学技術の日進月歩もあり、ようやく今こうして形にできたのだと思います」

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