第72回ニッコールフォトコンテスト
金賞 | |
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銀賞 | |
銅賞 | |
入選 |
応募点数 | 389点 |
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講評 | 秋山 華子 |
十代がとらえた多様な視点
何を見つめ、何時シャッターを切るのか。審査を通じて感じたのは、十代がとらえた多様な視点です。そこには、人や物と真摯に向き合い、自分自身と深く対話しながら、被写体との距離を縮めつつ自分の想いを形にしたいという、強い願望がにじみ出ていました。
特に組写真は、各々が理想とする世界観をしっかりと追求し、丁寧に作り上げていることが感じられます。それぞれの個性溢れる作品は、一つ一つが独自の表現を持ち、唯一無二の物語を描き出しているのが印象的でした。
金賞の波田野 杏桃さんの作品「夢現」は、自身が通う学校の敷地内をフィルムカメラで撮影したものです。日常の風景を、あえてアウトフォーカスやブレを駆使してとらえることで、まるで白昼夢に浮かび上がる残像のような独特の世界観が表現されています。はっきりとした輪郭を持たない曖昧さゆえに自由な解釈の余地を与え、見る者それぞれの記憶や感情を投影する鏡のような存在となり、作品を介して彼女の「いま」と見る者の「かつて」、「いま」、「これから」とが重なることで、まるで心象風景に誘われるような感覚を得ることができます。
銀賞の齋藤 飛鳥さんの作品「恋焦がれる」は、恋を終わせるときの勢いと新たな恋の始まりへの期待感を二枚組で表現しています。光が上手く使われており、「恋の終わり」が描かれた方は人物の輪郭を縁取ることでその存在感が際立ち、感情の高まりを強い輝きで表しています。一方、新たな「恋の始まり」は赤く透けた爪先が作品に繊細さを与え、見る者へ被写体が抱く淡い期待を感じさせます。恋愛の終わりと始まりの複雑な感情に思いを巡らせることができる作品です。
銅賞の澤邊 絢桜さんの作品「5歳下の妹」は、まるでそこにカメラが存在しないかのようにリラックスした妹の立ち振る舞いを、自然な視点で切り取っています。信頼関係があるからこそ撮影できた心和らぐ作品です。武元綾花さんの作品「今朝」は、青みがかった色調や低い太陽の位置から、早朝であることが窺えます。朝露をまとった葉や農作業に勤しむ人の姿が静かな情景を映し出し、その場の空気、草や土の香りまでもが伝わってくる作品です。田中 詩浬さんの作品「輪」は、小学生から見た高校生は「大人びて見えるだろう」という、単純な思考を軽やかにいなしてくれます。バドミントンのラケットの輪、友人たちの輪、そして彼女自身がその輪へ対等に溶け込み、時を共にすることで完成させた高校生活の瑞々しさをとらえた作品です。
今回、初めて携わらせていただいた「ニッコールフォトコンテスト」の審査は、入賞作品いずれも力作揃いで、見応えのあるものでした。目の前の光景を切り取り、自身の視点を通じて組写真として完成させるには、既存のセオリーに縛られず、自由な発想と冷静な編集力が求められます。自分が撮りたい被写体、自分だからできる表現を見つけ出し、その想いと深く向き合って生み出された作品は〝作者の生き写し〞であり、見る者を惹きつける力を持つことでしょう。入賞者の若者たちが築き上げようとした表現の中に写真の新たな視点や創造性が見出されることを心から期待しています。