第71回ニッコールフォトコンテスト

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第1部 モノクローム

ニッコール大賞
推選
特選
入選
応募点数 6,142点
講評 大西 みつぐ

講評 大西 みつぐ

モノクロであることの必然を感じさせられた

 このニッコールフォトコンテストのモノクロの部も10年という単位で見てみますと、案外細かな変化が感じられます。
 デジタルカメラがやっと写真愛好家の皆さんの手に渡り始めた90年代終わり。まだまだモノクロ表現は暗室でのプリントと比べると劣るといったものが多く、マゼンタ色に転んだ色調のプリントやら画像サイズの設定失敗によるものなど、作品としての体をなしていないものもたくさんありました。そして2000年代に進んだあたりで、デジタル一眼レフのエントリー機も発売され、パソコン上で画像処理の方法やプリント用紙への理解などが加わり、徐々に皆さんの制作は安定してきました。このニッコールフォトコンテストも多彩な作品が並んできましたし、新たに「モノクローム表現」の素晴らしさを実感する世代の皆さんの登場も期待できるようになりました。昨今はモノクロの面白さをしっかり引き出せる設定を特徴とする機種も登場するなど、2020年代に再びモノクロが注目されているのは嬉しい限りです。
 そうした状況を物語るかのように、今回のモノクロの部もなかなか充実した作品が寄せられました。ご応募の皆さんの年代を考えますと、どうしても「過ぎた日々」を語るといったモノクロ作品に偏りがちな点はありますが、かつてのように、単にカラーで普通に撮ったものをモノクロに置き換えただけのものよりも、モノクロであることの必然といったイメージに裏付けられた作品も多く登場し、結果としてそれらが入選、入賞の栄光を勝ち取ることとなりました。
 ニッコール大賞の「頂へ」(深野達也さん)は、最初から光っていました。プリントが格別に美しいのです。これはとても大事なことです。モノクロ表現であることを最初のスターティングポイントから考えて撮影が進められ、モノクロプリントとして「階調」がよく再現されているからです。もちろん構図としての安定感が図られていますし、頂へ向かうご本人の感動が見事に伝わる作品になっています。
 さらに入賞作品を拝見しますと、主として「光と影」を表現しているモノクロならではの印象的な作品群に出会えます。推選の「はかなき儚跡」(上村裕子さん)、特選の「ひのき舞台」(一峰法和さん)、「居場所」(髙橋喬太郎さん)などは、とてもわかりやすい形で背景としてのシャドー部と主役ともいえるハイライトから中庸部を「劇的」なコントラストで描いています。カラーではなくモノクロだからこそ、「昭和の残滓」も「小さな生物の一挙一動」も「生きることの精一杯さ」もそこから普遍的なイメージとして伝わってくるのだと思います。「光と影」はもちろんカラーにおいても大事な要素ですが、モノクロは余計に強調されてくるものであり、要素として作品づくりにはかかせません。
 もうひとつ、入選作の中で個人的にとても気になったモノクロ表現があります。「虚ろ」(池上和夫さん)です。撮影された背景がわからないだけに、単なるポートレイトを超えていく深いイメージがあります。個性がある種の物語を誘発していきます。モノクロならではの押し付けのない表現。写真を見るこちらが、写ったものの中にある光とその微妙な加減を疑似体験することで浮かび上がるイメージは、昔よく観たモノクロの日本映画。その情感そのもの。
 モノクロ表現を極めていこという立ち位置に至ることでさらに豊かな写真生活をお送りいただきたいと思います。