第70回ニッコールフォトコンテスト

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第1部 モノクローム

ニッコール大賞
推選
特選
入選
応募点数 6,187点
講評 小林 紀晴

講評 小林 紀晴

何故、あえてモノクロで表現するのか?

 今年のモノクロ部門は子どもを題材とした作品が上位をしめる傾向がありました。多少なりとも3年目となるコロナ禍の時世を反映しているのではないでしょうか。  大賞は遠井信行さんの「旅の記録」という4枚組の作品です。アサギマダラという蝶を主題としています。蝶を捕まえる場面、観察しているところ、そして翅にマーキングしているところなどをバランスよく組んでいます。身のまわりで撮られているはずですが、アサギマダラと少年という組み合わせにより、何故か「遙か」といったものを強く感じました。遠いところ、未来へと想像が膨らみ、いざなわれます。
 推選には岡本早苗さんの「花火・今年は3人」が選ばれました。若いお父さんとそのお子さんである女の子と男の子が登場します。女の子は女性の写真が入った額を大切そうに持っています。亡くなったお母さんの遺影だと知りました。妻であり母である女性の不在の大きさに打ちのめされます。静かに、それでいて強く観るものに訴えかけてくる一枚です。
 特選にも子供の作品が2作品入りました。ひとつめは小野早苗さんの「十歳の肖像」という作品です。鏡台でしょうか、鏡に向かって少年が視線を向けています。その先には自分自身が、あるいは撮影者である母の姿も映り込み、視界に入っているかもしれません。ちょうど、初めて自己と対峙したり自意識を自覚する年齢なのかもしれません。少年の姿からそんなことを連想しました。無言のコミュニケーションがここには存在しています。それを母である作者が包むように、見守るように愛情も持ってシャッターを押しています。もうひとつの樋口良夫さんの「そら君」という作品はお孫さんを撮られたものです。4枚の組み写真です。どれも表情が豊かで観る者を飽きさせません。お孫さんとおじいちゃんである作者の信頼関係といったものも読み取れます。素直で正直に感情をストレートに表情に乗せてさらけだしています。日常、平凡といったもののなかに宿る貴さについて考えさせられます。なかでも私が注目したのは1枚目の写真です。少しだけ上を向いた横顔。ほかの写真に比べ表情が読み取れません。だからこそ、想像がふくらみます。驚いているようにも、何かを考えているようにも映ります。だからでしょうか、とても大人びて映りました。吉田美和子さんの「駅構内」という作品はバングラデシュの駅を撮影したものです。混沌とした情景が丁寧に撮られています。おそらくコロナ禍以前に訪れたときに撮られたものでしょう。モノクロの質感、やわからなグラデーションが素敵です。別の情景も撮られていますが、駅から派生した人々の姿、生活の一端が生き生きと表現されています。何気ないタイミング、チャンスを逃すことなくとらえています。
 モノクロ作品を審査させていただくなかで、常に意識していることがあります。何故、モノクロなのか、という問いです。カラーが主流なのは言うまでもないことでしょうが、そのなかで何故、あえてモノクロで表現するのか。そんなことを問い、考えながら拝見しました。ときには必然との邂逅もあります。色がないことにより、情報が限られます。だからこそ、逆に削ぎ落とされて強調されます。そんないさぎよさがモノクロの世界にはあります。上位に入賞されたどの作品にもその必然を強く感じることができました。