第69回ニッコールフォトコンテスト

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第4部 TopEye&Kids

ニッコール大賞・長岡賞
推選
特選
入選
応募点数 1,407点
講評 佐藤 倫子

講評 佐藤 倫子

ストレートな思いを表現することを諦めずに

 毎年、若い世代の感性が写真に表現されている作品を目にすると、新しい視点や感覚が私自身にも刺激となり、とても楽しく審査しています。何度かTopEye全国高校生写真サミットで審査してきましたが、今年の作品はその頃の高校生作品の傾向とは随分と変化した印象でした。数年前は、一つのテーマをストーリー仕立てに演出した組写真が多かったのですが、今年の作品は、日常の中で感じた思いを作者自身の視点でストレートに写し込んだ作品が多いように感じました。
 数多くの応募作品の中から栄えあるニッコール大賞に輝いたのは川原玲音さんの作品「Spring Song」です。最初のセレクトからこの写真は、ずば抜けて目を引いた作品でした。ギターを手に楽しそうな表情の女性が、ジャンプして、空を飛んでいるようにも見える作品。手前に桜の花がいい具合にボケを演出しています。全体が空色でHAPPYな元気になる写真と感じました。コロナ禍で規制がたくさんある学生生活を過ごしているためストレスを少なからず感じていると思いますが、そんな中でもこの写真制作に一心集中して作り上げた結果が、この明るい希望ある写真となったのではないでしょうか。
 この作品は、10代が長岡賞になるという69年の歴史の中で前例のない受賞となりました。それだけインパクトのある、完成された作品でした。受賞した川原さんにはここでの賞の重みを感じながらも是非、変わらず今まで通りの作品制作をしていっていただきたいと私は思います。そしてこれからの人生で色々な出来事があると思いますが、数多くの作品の中から貴方が感じた伝えたい写真は、私たちの胸に響いたことを忘れないでいてほしいと思います。
 推選に選ばれました山下恋奈さん作品「もう1人」。父親を大胆な構図、そしてとても面白い視点で撮影されています。審査員の中にも同じ世代の子を持つ方がいますが、このような親子の関係性を羨ましく思うとおっしゃっていたのが印象的でした。信頼関係だけでなく日頃からこのような発想が生まれるコミュニケーションをしているからなのでしょうか。確かに、自分の10代を振り返っても、父親とこのようなセッションをすることなど考えもしませんでした。鏡を使い本物の父親か分からなくなるのが面白いとコメントにありましたが、表面的なことではなく、この「もう1人」が山下さん自身ではないか、そうとも感じさせるタイトルも魅力です。
 特選に選ばれました3作品はともに組写真でした。それぞれテーマがしっかりとしていること、作者独自の視点で捉えており、またどう表現をするか考えられた独自の色味で写し出されていることが分かります。そういったことが特選に選ばれた大きなポイントになったと思います。他にも素晴らしい作品が多くありました。どんな写真が、いい写真なのか、これは永遠のテーマかもしれません。素直な思いを写真にするとは、そのままシャッターを押すということではなく、どう撮るかを考えること。そうすることで写真の完成度は随分と変わります。まずは自分自身を信じること、表現することに労力を惜しまず制作する力が、魅力のある、人の心に伝わる作品になると思います。どのような状況であろうとも表現し続けることを諦めないでください。思いは必ず伝わるもの、です。写真を通してこれからも大いに表現し続けてください。次回の作品をこれからも楽しみにしております。