第68回ニッコールフォトコンテスト

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第4部 TopEye&Kids

ニッコール大賞
推選
特選
入選
応募点数 10,734点
講評 小林 紀晴

講評 小林 紀晴

創作への喜びが表現されていた

 毎年、第2部 カラーは応募数が一番多く入賞するのは超難関ですが、審査をする側も正直とても難しく、多大なエネルギーを要します。今回応募された作品を拝見してまず感じたことは、デジタル社会になって写真が「多様性新時代」に突入したことでした。ちょっと大げさに言うと、今まで人類の歴史で写真がこんなに身近な存在になったことはないと思います。世界のあらゆる場所、存在するものがすべて被写体になった感じがします。家庭内での出来事から極地の自然現象まで、想定外も含めどこまで広がっていくのでしょうか。
 多様性といっても抽象的に聞こえますが、テーマのみならず、価値観そのものの多様性も感じます。「インスタ映え」という言葉を聞くようになって久しいですが、そこにあるのは表層的な一見のインパクトが求められます。実際よりも鮮やかな色彩、非現実な美しい光景や普通ではありえない状況など、そこに価値観を見いだす人びとが、このスマホ時代の大多数になっているのです。「写真は中身が大切」と学んできた私たち世代にとっては、正直に言って戸惑いを隠せませんが……。しかし、ニッコールフォトコンテストは健在です。もちろん、時代を映し出すカガミのように、新しい価値観に基づくタイプの作品もありますが、バランスよくさまざまな作品、おまけにレベルの高い作品を拝見することができ、入賞作品には目を見張るものが多くありました。
 ニッコール大賞は、山守陽一さんの「カムイノミ・イナウ ~伝承~」に決まりました。今年は北海道の命名150年の節目にあたり、それはアイヌの歴史でもあります。「イナウ」と呼ばれる木幣を捧げ、神「カムイ」に祈る「ノミ」。神聖なアイヌの儀式です。独特のやや暗い青緑がかった魅力的な色調で、不思議な世界へと誘うように表現しています。山守さんは応募者の中で比較的若い世代ですが、単に儀式の表面的な部分だけを写すのではなく、確かな眼差しでしっかりと静かに、その奥にある精神的なものまで見つめようとする姿勢にとても共感を覚えました。
 推選、青木竹二郎さん「今年も観れた」は、ニッコールクラブの会報フォトコンテストで1席に輝いたノミネート作品ですが、タイトルと相まって、まさに人生を感じさせる一枚です。一つの椅子にふたりで腰かけている老夫婦の後ろ姿が語り掛けてきます。準推選、飯田祐子さん「眠り姫」は、母の愛に満ちた眼差しが作品を豊かにしています。1枚1枚丁寧に撮られた家庭内写真の極み作品4枚組。学校で思いきり学び遊んで帰ってきた娘さんのドキュメントでもあります。特選、髙瀬広之さんの「湖上異界」はモノトーンの美しい作品です。確かなコンセプトと技術に裏付けされた完成度の高い作品で、作者の強い美意識が感じられます。同じく特選、吉直新一郎さんの「急ぎます!」は、お母さんの、帰るよ、と呼ぶ声で駆け出した男の子の必死な表情。ユーモアセンスに満ち溢れた爽快感のある作品です。吉村俊祐さんの「命を見つめる」は、祖父の葬儀で棺桶を覗き込むお孫さん。小さな子どもにとって、死はどのように感じとられるのでしょうか、考えさせられる作品です。準特選に選ばれた久保田容子さんの「亀」は、まさにキャンディッド・フォト。こんな面白いシーンに遭遇して、よくシャッターチャンスをものにしたものだ、と感心しました。鈴木寛司さんの「検診中」も家庭での日常風景ですが、個々の登場人物がとても活きている密度の高い一枚です。
 ご覧のように入賞作品は見ごたえのある力作揃いです。が、反面、まとまりがよく優等生的な作品が多いのも事実です。傾向と対策を考えすぎ、教科書を見すぎているのでしょうか。例えば、4枚組写真には「起承転結」の考え方を思わせる組み方が多くあります。固定概念にとらわれない型を破る大きな作品に出会えなかったことが少し残念です。もっと爆発するような作品が見たいと思いました。来年は飛躍的な作品を期待しています。応募される皆さん、特にU-31世代も頑張ってください!