第68回ニッコールフォトコンテスト

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第1部 モノクローム

ニッコール大賞・長岡賞
推選
特選
入選
応募点数 7,148
講評 大西 みつぐ

講評 大西 みつぐ

目の前へ率直にカメラを向けて

 かつての時代に比べ、インクジェットプリント用紙はさまざまな種類が市販され、自分のイメージを忠実に再現できるプリント術も広まってきました。モノクロプリントにおいても、単にモノクロに「置き換えました」といったものが少なくなってきています。しかしながら、やはり「内容」がそこに求められていることに変わりなく、私たちの生きる世界をいかにとらえようとしているのか、という本質にまで関心が向かっていきます。
 ニッコールフォトコンテストにはそうした緊張感が毎回充満しているのはもちろんのこと、モノクロの部門に至ってはモノクロトーンをも超えた「深さ」へとこちらの眼が浸透していきます。そうした観点でいえば、モノクロは難しい! と思われるかもしれません。しかし今年の入賞作をご覧いただくと、私たちの隣、あるいは目の前の現在へ率直にカメラが向けられ、モノクロという素朴な表現方法で世界を伝えていることがわかるはずです。応募作品の中には、今年のコロナ禍を反映したスナップショットも少なくありませんでした。入賞入選作品にもいくつか見受けられます。困難な時代を直視することもまた、写真に課せられた大きな役割です。
 ニッコール大賞は、福岡育代さんの「母の刻(とき)」。内容も表現も群を抜いている作品です。私たちの目線は、しばしそれぞれの写真へ釘付けにされるはず。それは決して手肌の克明な質感表現にとどまらず、写真を通して命の尊さそのものを直視させてもらえるからです。今、世界のあらゆる人間がその地平に立つことを求められていることを、このたった4枚の写真から教えられます。「ひとに寄り添う」ことが「写真」の命題なのです。
 一方、推選の青木竹二郎さんの「疾走始末」は、徹底的にテクニカルな表現で、私たちの営みの楽しさをポジティブに提示しています。偶然性も写真ですが、ちょっとした計画性もまた作品を際立たせる重要な要素になっているということでしょう。
 特選の渡辺裕一さんの「増殖」は多重露光による作品ですが、普通ならば乱雑な結果しか生まなかったはずの画像が、コロナ禍の現在を巧みに表しています。怖さもまた増殖されました。そんなイメージからの続きとして、髙塚孝一さんの「DARK SIDE」と井上良郎さんの「初対面」を見ますと、問われているのは、私たちは一体、今どこにいるのかということなのかと思わされます。
 入選作品では「負域」の室田あいさん、「元服の日」の杉江輝美さん、「少年」の松浦テル子さん、「風」の庄司和代さん、「楽しい時間」の吉田美和子さん、「奏でる」の藤﨑優子さんといった女性陣の健闘が目立ちます。こうした勢いがどこのコンテストよりも目立つのが、昨今のニッコールフォトコンテストということなのでしょう。喜ばしい限りです。
 しきりに困難な時代を強調するわけではありませんが、ニッコールフォトコンテストの長い伝統と照らし合わせてみますと、戦後、震災、不況、大災害など、私たちはカメラとともに、写真とともに時代を生き抜いてきたといっても過言ではありません。「表現したい!」という意思を持ち続けること。来るべき世界のために、私たちはシャッターを押すことで自らが切り開いていく、そんな「社会的人間」としての責任があるはずです。このコンテストを通じて、さらにご一緒に歩んでいきたいものです。