Nikon Imaging
Japan
プレミアム会員 ニコンイメージング会員

Z 9 開発者Special Interview vol.2
~光学性能と小型化を追求したZ マウントシステムの開発意図と誕生秘話~

「Cameraholics extra issue 100%使いこなすNikon Z 9」(ホビージャパン刊)より転載。

Z 9 開発者Special Interview vol.2

性能を突き詰めるためのミラーレス専用マウント
Zマウントシステム開発の裏側

新次元の光学性能、システムの小型化、そして使いやすさを追求するニコン Z マウントシステム。
Zマウントの開発意図から、具体的な製品の誕生秘話まで、光学設計と商品企画のプロダクトマネジャーに訊いた。

──最初に、Zマウントシステムの開発意図や開発の目的について教えていただけますか?

石上: ニコンは映像や写真文化の業界で長く活動させていただいています。基本的な方針として、より豊かな映像表現というものを突き詰めていく、という製品づくりを続けてきた会社です。よりよいものを作るためにはどうするべきか協議を重ねた結果、Fマウントでの制約、あるいは構造上の限界から解き放ってあげたい、光学設計の自由度を高め、より高い性能を引き出すことを目的に、Zマウントシステムを開発しました。

小濱: 一眼レフには構造上さまざまな制約があります。たとえばボディの中にはミラーボックスが存在しますので、レンズ設計上フランジバックを長くとらなければなりません。さらにFマウントというのは大きなマウントではありませんので、光を取り回すのが難しかったという事情もあります。
フィルムの時代の話になりますが、AFに切り替えた時にニコンはマウントを変えませんでした。当時もFマウントを大切にしたいという想いがあったからこその決断だったのです。マウントは「一度決めてしまったら、簡単には変えられない」ので、Zマウントを新規で開発するということは本当に〝清水の舞台から飛び降りる〟感覚そのものだと思っています。

あらゆる条件を考慮してマウント径を55ミリに

──ミラーレス化によって、レンズ側にはいったいどんなメリットがあるのでしょうか?

小濱: レンズ設計の自由度が大きく向上します。また新開発ということになりますので、できることはトコトンまで突き詰めてやろうという想いがありました。

──マウント径が55ミリになった理由を教えてください。

小濱: 光学性能を優先するならば、サイズを大きくすればするほど有利にはなります。しかし、同時にカメラも大きくなってしまいます。大きなマウント径では大きなカメラしか作れなくなってしまう……という最強であり最悪の制約となってしまいますので、バランスはきわめて重要でした。
光学性能を追求するために、光を余すことなくセンサーに届けるマウント径と、システムサイズや実用性とのバランスなど、さまざまな条件やレンズシステムを考慮したうえで、導かれたのがマウント口径55ミリとフランジバック16ミリというわけです。

強度に配慮した4つ爪と高速な電気通信

──大きなマウントにしたことによる、設計の難しさなどはあったのでしょうか? たとえば強度的に不利になったりですとか……。

石上: たしかに強度はマウント径を大きくすると不利になりますので、どうしても工夫が必要になります。そこでマウントの爪を4つに増やしました(Fマウントは3つ)。これは強度確保のうえで大きな役割となっています。

小濱: ニコンのFマウントはそもそも強度のあるマウントですが、力のかかる方向によっては3つの爪だと弱い箇所が構造上発生してしまいます。爪を4つにすることで、上下左右どの方向から力がかかったとしても十分な耐力を得ることができます。それでも捻じれ方向については万全とはいえませんので、マウントの厚みを増やすことで対応しています。
爪が3つのFマウントではレンズ取り外し時に約60度の回転操作が必要になります。爪を増やしていくとこの回転角を減らすことができますが、あまり回転角が少ないと意図しないところでレンズが外れてしまう。これでは安心感が足りないということで何度も検証を重ね、爪は4つが強度的にも使い勝手や安心感の面でもベストという判断になっています。

レンズとボディ間の通信がよりきめ細かくより高速に

──電子接点が、Zマウントでは上部に移動しています。

小濱: 通常カメラボディの上部に電子基板が配置されていますので、近いところにといった理由です。レンズ側は特に制約はありません。ただ上部に接点を配置するメリットとして、ボディ内部で生じる内面反射を減らすことができます。通常、太陽などの光源はカメラの上方向にあることが多く、センサー付近ではマウントの下のほうを照らすことになります。もし接点が下にあるとそれが内面反射の原因になるということです。

──Zマウントになって接点の数が増えていますが、メリットは?

小濱: 具体的な数値はお話しできませんが、Fマウントと比べると圧倒的に通信速度が高速に、かつレンズが持つデータの情報容量が多くなっています。レンズが持っている収差をはじめとした特性データはFマウントレンズよりも詳細な情報を持たせてあり、よりよい画づくりに貢献しています。レンズの状態を事細かに、そして高速にボディとやりとりすることで、軽快な使用感を実現します。

石上: Zでは動画機能についても注力していますので、きめ細かなフォーカス制御や滑らかな露出制御を実現するためにも必要不可欠な改良でした。

──それだけ詳細な情報をレンズに持たせていると、光学的な工作精度といいますか、安定的に高い品質を保つ工夫といった製造上の苦労がありませんか?

小濱: より詳細な情報を必要とする部分もありますので、製造や測定のハードルが上がっていることは事実です。一方で、詳細なデータを持っているということは、そのレンズはどう作られているかという情報をもたせればいいので、一概に苦労ばかりが多いというわけではありません。

──ということは、修理時はパーツを交換してチェックして終わりではなく、再調整して精密に測定するといった大掛かりな作業になっているということでしょうか?。

石上: ええ、修理の度合いにもよりますが、そのとおりです。

レンズとボディ間での電気通信を行う電子接点が、Zマウントではマウント上部に移動している。

レンズが大きくなったのは性能を重視した結果

──では、Z用のレンズが大きい理由についてお話しいただけますでしょうか? たとえばNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sはスペックに対してレンズ自体がかなり大きいという印象を抱いています。

小濱: 焦点距離や設計コンセプトに依存しますので「レンズによる」というのが回答になります。たとえば、望遠レンズならレンズ長が必要になりますので、フランジバックが短くなれば、そのぶんレンズ側で補う必要があります。一方、標準系のレンズですと、光学設計の自由度が高くなっているので製品に適用するコンセプトによって大きくも小さくもできます。
まず、Zマウントのレンズでは、光学性能で妥協しないという想いがあります。収差をトコトン補正したい、光を極力曲げずに余すところなくセンサーに届けたい。そうした意図がありますので、大きく重いレンズが先行しています。

石上: 購入動機として「なぜZを選択するのか?」を考えたときに、より高性能なものであったり画像がより綺麗だったりすることが、50/1.2をはじめとするS-Lineレンズにとっては重要だろうと考えました。もちろん、Fマウントレンズと同じ性能で小さく軽くという手法もありますが、大きなマウント径を採用した理由を表現したかった、ということになります。

NIKKOR Z 50mm f/1.2 S

──Zの単焦点レンズは開放F1.8がメインであるという印象がありますが、なぜF1.8なのですか。

石上: F1.8をメインにしようとした訳ではありません。「F1.8がなんでこんなに大きくて高いの?」と思われることも重々承知していますし、実際社内からもそういった意見があります。
しかし、製品の企画として突き詰めた光学性能と、ミラーレス化の恩恵として小さく軽く、という2つの期待に応えバランスを追求した結果がF1.8だったのです。光学性能は向上させていて、開放絞りから使えるF1.8だと思っていただければ、トータルでご納得いただけるのではないでしょうか。
従来型のF1.4の開放はちょっと甘いので、開放から少し絞ってF1.8で使っていたよね、という状況と実質的に同じ使い方ができます。現在はNIKKOR Z 40mm f/2などのS-Line以外の選択肢も拡充していきます。それによりF1.8シリーズの特徴も際立ってくるのではないかと期待しています。

NIKKOR Z 40mm f/2

コンパクトな単焦点含めて次なる展開に期待してほしい

──レンズを企画する際の優先度として、あくまでも光学性能が最優先なのでしょうか?あるいは、製品企画のバランス感覚によって求められた光学性能が着地点となるのでしょうか?

小濱: どちらかといえば後者です。NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sの話をしますと、S-Lineという光学性能を重視する製品コンセプトを採用しましたので、FマウントのAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gよりも大きくなっています。これは妥協のない光学設計を適用した結果で、製品コンセプトによって導かれたサイズ感となっています。もちろん光学性能を追求したことでサイズの妥協をしている訳ではありません。
一方で、NIKKOR Z 40mm f/2やNIKKOR Z 28mm f/2.8などのコンパクトなラインについても拡充を図っています。こちらは光学性能をとことん追求するS-Lineのようなコンセプトではなく、日常使いで軽快に撮影を楽しんでいただくことがコンセプトです。かといって光学性能は妥協していません。

石上: 現状のラインナップとして、全体的に大きく重くなっていることについては我々も改善していきたい点です。S-Lineから拡充していく路線でやってきたことではあるのですが、これをベストだと思っているわけではありませんので、今後にご期待ください。
具体的なラインナップの話には触れられませんが、S-Lineの単焦点レンズはだいぶ揃ってきました。NIKKOR Z 50mm f/1.2 SのようにF1.2のレンズシリーズもやっていきたいですし、NIKKOR Z 40mm f/2やNIKKOR Z 28mm f/2.8のようなコンパクトな単焦点レンズもそうですし、次の展開のレンズについてももちろん考えております。

NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

NIKKOR Z 28mm f/2.8

──コシナからNOKTON D35mm F1.2が登場しています。この製品は「ニコンとのライセンス契約の下で、開発・製造」とのことですが、このレンズのように他社と協力して製品展開を拡充していく予定はあるのでしょうか?

石上: コシナさんやタムロンさんからZレンズが出ております通り、Zマウントのライセンスはしております。Zマウントの魅力を高めることにご協力いただいています。

コシナ NOKTON D35mm F1.2 Zマウント

Zになって見直された高い光学性能目標

──レンズ光学設計の目標値は、Fの時代と比べてより厳しい水準になっているのでしょうか?

石上: 目標値について明確なことはお答えできませんが、Zになって光学性能の基準は根本から見直しを図りました。評価方法は踏襲していますが、動画用途での使用も見越した評価など、新規で追加された項目もあります。

──センサーのカバーガラスはFマウントに比べて薄くなっている感じがします。ただ、薄くしようとすると高価になりますよね?

小濱: 具体的な厚さはお答えできませんが、Zマウント策定時に規格としてガラスの厚みまで含めて設計しています。その中でどこまで薄く、かつ性能を出せるのかを考慮して厚さを決めていきました。カバーガラスは、赤外線を排除するためのIRカットフィルター、モアレを防止するローパスフィルター、そしてセンサー保護のためのガラスなどで構成されています。これを薄い材料で作ろうとするときわめて高価になりますので、コストとのバランスも考慮しながら、どこまでやれるかというところを見極めて設計しています。

同じレンズをFとZで使い分けると描写傾向は?

──ボディのクラスや製品ごとにカバーガラスが使い分けられているのでしょうか?

小濱: ボディごとに使い分けていますが、製品間の厚みのバラツキを抑制するようにしています。これはカバーガラスの厚みが変わると同じレンズでも描写性能が変化してしまうからです。光学性能に注力したシステムにも関わらず、「このカメラなら美しい描写でも、他だと何か違うな」といった感じで写りの印象が変わってしまうことが起きないよう尽力しています。

──カバーガラスの厚みで描写が変わるという話ですが、FマウントレンズをZで使ったほうがレンズの実力を存分に発揮できるということでしょうか? わかりやすくいえば「ZにFTZアダプターを装着して撮ったほうが画質がよくなるぜ」とか、「そのレンズの性能を発揮できるよ」とか……?

小濱: 一眼レフのようにフランジバックが長く、センサーに対して入射角が浅ければ、カバーガラスの厚みが描写に与える影響はそれほど大きくありません。一眼レフ用のレンズをミラーレスに装着する場合はマウントアダプターでフランジバック分の長さを補う構造になりますので、影響は出にくいという条件に当てはまります。
そのため、同じレンズをFとZで使い分けた場合の描写傾向の違いはほとんどない、というのが回答になります。カバーガラスの違いよりも、日々進化しているエンジンやセンサーの世代の違いによって変わることはあります。

進化するAF用モーターはSTMとVCMの使い分け

──ZマウントとFマウントを比べた場合、レンズの電力消費はどのようになっていますか?

石上: レンズに供給される電力はマウントの規格として決めています。その中で最大のパフォーマンスを出すようにしていますが、全体としてはFマウントよりも省エネになっています。ミラーレス機ではエンジンが要求する電力が大きいという都合があります。電力をめぐっての白熱した議論が、マウントの規格を決める際にはたびたび社内で繰り返されました。

──ボディによってAFの駆動速度に違いはありますか?

小濱: レンズごとにAFの駆動速度は異なりますが、レンズが同じであればボディを問わず、AF駆動速度は基本的に同じです。たとえばZ 9とZ fcでレンズの駆動速度そのものは同一です、しかしながら、カメラが持つAF制御のポテンシャル的な部分が異なりますので、AF時間という体感する部分についてはZ 9が優位にあると考えています。

──同じレンズクラスで比較した場合、D6とZ 9でAF時間はどちらが優勢なのでしょうか? というのもD6も相当速いという実感を持っていますので。

小濱: ひと口に速さといっても加速のよさや最高速の高さなど、異なる要素があります。フィギュアスケートのように撮影距離が細かく変化するようなシーンでは加速とレスポンスが重要ですが、無限遠から至近端までレンズを大きく駆動させるような条件では最高速が重要になります。小気味よく追従させるような条件ではZ 9が優位であるものの、最高速が必要な条件ではレンズ内AFモーターの種類にもよりますが、D6が優位になる場合があります。

石上: レンズにもよりますが、総合的に評価してみるとZ 9でついにD6と同等のところまでやってきた、というのが正直なところでしょうか。Z 9にもまだ改善の余地がありますし、D6のほうが優位な撮影条件もありますので、一概にどちらが優れているというのは難しい部分もあります。

──D6に対して、AF性能でZ 9はまだ全勝しているとはいえない、と率直に認めているような回答で意外でした。

小濱: もちろん目指すところは全勝なのですが、デバイスの構造上一眼レフが優位な点があり、Z 9でやっと克服しつつある状況であります。一眼レフ用のAFセンサーはピントを検出できる範囲が非常に広いという特徴があり、ミラーレスの像面位相差センサーではこの検出範囲が構造上狭いという特徴があります。そのため、大きくピンぼけした状態から合焦まで持ってくるスピードですとか、被写体を検出する能力については一眼レフが優れていました。一方、撮像面でピント合わせができるミラーレスでは、ピント精度の高さが優れています。

ZレンズのAFモーターにSTMが採用されている理由

──ZレンズではAFモーターがSTM(ステッピング・モーター)であることが多いと思いますが、これは何か理由がありますか? また従来のSWM(サイレント・ウエーブ・モーター=超音波モーター)と比べてAF速度や特徴の違いはどのようになっているのでしょう?

石上: STM採用の一番の理由は音です。Zレンズでは動画を強く意識していますので、AF駆動音が静粛である必要がありました。Fマウントレンズで使っていたモーターでは残念ながら駆動音が大きく、特に同時録音では駆動によるノイズが入ってしまうので動画には不向きでした。

小濱: SWMもサイレントといいながらも、音がありましたので。そこで注目したのがSTMです。

石上: STMといっても、制御の仕方を工夫次第では大きなレンズを高速に動かせますし、現在進行系で制御は洗練・進化されています。同じSTMでも初期のZレンズと最新のZレンズなら、最新のほうがより高速かつ静粛です。

──現状ではSTMが最適解ということでしょうか?

石上: ベストとは思っていません。たとえばもっと重たいものを、より速く正確に動かすにはVCM(ボイス・コイル・モーター)のようなモーターが適していますし、今後の研究課題でもあります。

できるできないでいえばノクトのAF化は可能だった

──VCMは、NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR Sで採用していますが、他のレンズと比べて明らかにAFのレスポンスのよさ、撮影時の気持ちよさは別格と感じました。

石上: VCMは、トップスピードはもちろんですが、停止精度が高くガツンと正確にカメラの指示通りに止まれます。ただし、モーター自体のお値段もしますし、大きさもそれなりにありますので、すべてのレンズで採用するにはハードルが高いのです。

──VCMを使えば、将来的にノクト(NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct)がAFになる可能性もありますか?

石上: 実はノクトの開発時点でもAFは検討しました。できるできないでいえばAF化は可能でした。私はノクトの担当者でしたがAFを要望しており、開発サイドからは「やってできないことはないけれど、速度がトロトロでもよいのか?」といわれ、使い勝手などを総合的に判断した結果、MFでの製品となりました。ですので、よりハイパワーなAFモーターが実現できればAF化してみたいです。

小濱: 個人的にもノクトのAF化はやってみたいですね。

NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S

NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct

マウントを〝使い切る〟大口径を生かした設計

──Zマウントだからこそ実現できたというレンズはありますか?

小濱: 実はすべてZだから実現したラインナップになっています。
たとえばNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sですと、Fマウント時代はF1.4の光束までしかマウントの径に入りませんでしたが、ZマウントではF1.2で、なおかつAF可能になっていますので自信を持って製品化しましたし、NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 SやNIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR Sにしても、このスペックと光学性能をこのサイズで実現するのは正直なところ、Zマウントでなければ不可能でした。

石上: NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR Sも使い切っているの?

小濱: はい、使い切ってます。

NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S

NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S

──〝使い切っている〟というのはどういう意味でしょうか?

石上: マウント径を使い切っている、という意味になります。たとえば性能に振り切ったレンズであれば性能を最大に引き出しているかどうか、小型・軽量にするのであれば限界までコンパクトになっているかどうか、といった〝究極に突き詰めた設計になっているかどうか〟を表す言葉として社内で使われています。製品化を実現するために、社内で議論する際、この〝使い切った〟かどうかは必ず話題に上がります。

小濱: まだやれることがあるだろう?というニュアンスで、「本当に使い切っているのか?」とスタッフどうしで確認を行うわけです。

──〝使い切る〟メリットにはどのようなことがあるのでしょう?

小濱: 周辺部の光というのがわかりやすいところかもしれません。たとえば光学設計のタイプでガウスタイプという対称型の光学設計が美しいと表現されることがあります。これは光の曲げ方がなだらかにできるレンズタイプで収差を少なくできます。マウント径を使い切って、なだらかに光を曲げてセンサーまで届けることで収差を抑え、周辺部まで高画質にすることができました。

Zはどこまで開放F値を明るくできるのか?

──マウントとしてZは、開放F値をどこまで明るくできますか?

小濱: マウント径的にはF0.6台までいけますね。

石上: そういった特別なレンズをそろそろ手掛けてもよいかな?とは個人的に思っていますが、このような特殊なスペックのレンズを実際に製品化しようと思うと、企画を通すのにものすごいパワーを使います。というのも普通のレンズに比べるとニッチな製品であるため、あまり数が出ないからです。会社として儲かる商品にできるのか、開発から何年で発売できて、どのくらいの期間で採算がとれて、事業として成り立つのか、と問われると正直なところ、かなりきびしい。普通のレンズと比較して、製造工程を含めた作るエネルギーに対して、どうしても需要が追いつかないという現実があります。
一方で、ブランドとしてここまでできるんだという技術的な証明が行えるというメリットはありますし、実際に製品化してアピールすることでお客様としてもニコンの技術に体験として触れることができますので、特殊なレンズはそういう方向を狙って商品化するといった手段をとることになります。

──50万円ぐらいの範囲内であれば買う人はそれなりにいるかな?という感覚はあります。ちなみになんですけれど、ノクトを50万円で作るのはやはり難しいですか?

石上: いやー、相当数を作ったとしても難しいでしょう。

──ただ、海外の観光地に行くとカールツァイスのオータスをニコンのD850などにつけているのをよく見かけるんです。もちろんZならNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sでよいか、みたいなところもありますけれど……。

石上: 企画担当した私がいうのもアレなのですが、NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noctは、先ほどのような特殊スペックのレンズで、よくこんな尖った製品を発売できたなと感じます。

聞き手・構成・写真=豊田慶記
このインタビューは、2022年8月19日に行ったものです。

ニコンイメージングプレミアム会員
ニコンイメージング会員