Nikon Imaging
Japan

ザ・ワークス Vol.53 AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G

絞り開放、無限遠でも豊富な周辺光量をキープ

開放F 値を1.4 としたのはなぜでしょうか。

周辺光量を十分に残すためです。58mm f/1.2 のノクト・ニッコールへのオマージュの意味合いも込めて焦点距離は58mm としながら、開放F 値を1.4 とした秘密も、実はここにあります。
大口径レンズは周辺光量が急激に低下しやすいという特性があります。その特性は、開放F 値が小さくなればなるほど顕著に現れます。また、周辺光量は無限遠が一番少なく、近距離になると増えていきます。
せっかく開放絞りで周辺まで「点が点に写る」のに、周辺光量が少ないのではその持ち味が活かせません。そこでAF-S NIKKOR 58mm f/1.4G は、この点を考慮して開放絞りからの使いやすさを優先し、周辺光量を確保するため開放F 値を1.4 としました。この結果、開放絞り、無限遠でも、他社製の開放F 値1.4 大口径レンズを凌ぐ、豊富な周辺光量を確保できています。
この豊富な周辺光量と、開放絞りから「点が点に写る」描写特性を活かして、このレンズでしか描写できない風景写真を撮ることができるはずです。

ケタ違いの緻密さで繰り返した試行錯誤

AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G の設計で、特に苦労した点はどこでしょうか。

光学設計では、収差をみるときはサジタルとメリジオナルという直交する面で光線を縦横に切ります。それをレンズの中央から端まで、横縦、横縦と計算していきます。今回AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G では、開放絞りで画面の周辺まで「点を点に写す」レンズとするために、レンズ全面で収差を極限まで抑え込まなければならず、通常のレンズとはケタ違いの作業量をこなしました。他のレンズのようにサジタルとメリジオナルだけで見て行っても間でコマ収差が出るおそれがありますから、より細かく細分化して連続的に評価しなくてはならない。全方位を極限まで細分化して計算し、それを一個一個コツコツ積み重ねたという感じです。
また、計算途中で試行錯誤しているうちに、MTF が高い値を示したので各収差を確認し、点像を見てみると「点」にはなっていないということもありました。一般的に使われている30本/mm で、その部分のMTF だけを高くすることは意外と簡単にできるのですが、実際の画というのは30 本/mm の解像だけで評価できるものではないということを如実に示す例でした。実際の被写体にはもっと低周波のところもあるし、高周波のところもある。被写体の周波数によって異なる収差の影響について試行錯誤を何度も繰り返しました。写真用レンズで収差をゼロにすることは不可能です。収差を極力抑えながら残った収差をいかに活かして気持ちの良い画作りにつなげるかという点を考えながら設計しました。

NIKKOR レンズの「味」を広げる新しい提案

お客様へのメッセージをお願いします。

AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G は、ノクト・ニッコールの設計思想を受け継いではいますが「現代版ノクト・ニッコール」を目指したレンズではありません。むしろこのレンズは、私自身が長年レンズ設計に携わってきて、色んなレンズを設計しながら「こういうレンズがあったらいい」と常々思い、長い間ずっと温めてきた、「こういう風に写ると写真を撮っていて一番気持ちがいい」と思えるレンズです。NIKKOR は今年80 周年を迎えました。その長い歴史の中で、開発に携わった幾多の先人たちの思いや伝統が、NIKKOR にはしっかり残っています。その中で、決してオールマイティーではありませんが非常に個性的で新しいレンズになっていると思います。お客様に、「こういうレンズがあってもいいんじゃない」、「NIKKOR にはあるべきだよね」と言っていただけると、設計者としては非常に嬉しいです。