Nikon Imaging
Japan

ザ・ワークス Vol.08 COOLPIX5000

ニコンカメラのグリップアクセント“グレーのグリップ”誕生の裏側

社内で励まされてできた2つのデザ
インスケッチとモックアップ。
右が通常のF5。左がF5の50周年
記念モデル。グレーのグリップ
アクセントカラーにあわせて、左右
のトップカバーも色を変えている。

グリップのアクセントは、モックアップの時点では赤ですが、実際にはグレーになりましたね?

「現行のニコンDSCシリーズでは、基本的に有効画素数2.0メガピクセルのCOOLPIX775が赤、 3.2メガピクセルのCOOLPIX885と995がパープル、5.3メガピクセルのD1Xがグレーになっています。シリーズの流れとして、5メガピクセルクラスのグレーを採用することは当然の成り行きだったのです。でも実はこのグレーのグリップアクセントカラーは、かつて銀塩一眼レフカメラにも使われているのがあるんですよ」

そうなんですか?

「実はF5の50周年記念モデルにはグレーが採用されています。これはニコン初のカメラ、I型の誕生から50周年を記念して作られたモデルです。私はこの記念モデルのデザインも担当したんですが、このグリップアクセントがグレーというアイデアは、F5のデザイン段階から温めていたんです」

ずいぶん前からなんですね。

「ええ。皆様ご存じの通り、FシリーズのF3以降、イタリアの工業デザイナー・ジュージアーロ氏にもデザインをお願いしています。F3、F4までのグリップアクセントは赤のラインだったんですが、F5では面積を持ったモチーフに変化しました。これはホールディングを良くするために“指先が引っかかる部分を凹ませた形状をアピールしてほしい”というニコンの要望に対するジュージアーロ氏の答なんです。単に新しさを追求するだけではなく、F4からのデザインを継承しつつ機能的な長所が視覚的にアピールされている点に、本当に感動しました。

 でも私はそのときから、“アクセントカラーは赤以外にも何かあるかな”と考えていたんです。黒に赤の印象は鮮烈で、それに代わるものとしては、同等かそれ以上にかっこいいものが求められます。そこでグレーはどうかと、自分なりにアイデアを温め続けていました。記念モデルのグリップで、温めていたグレーアクセントのアイデアが採用されてうれしかったですね」

ジュージアーロ氏とのエキサイティングな共同作業 打ち合わせ中に手書きスケッチをサラサラ

ジュージアーロ氏とのデザイン作業はいかがでした?

「ジュージアーロ氏は、ミーティングのときに、いつも手元にスケッチブックと鉛筆を持って来られるんです。それで、こちらから“こういうふうにしたい”という要望を伝えますと、その場でサラサラとスケッチを描いて“じゃあこんな案はどうですか”という具合にすぐ答えてくれるんですね。レスポンスの速さには驚かされました。私達はその手書きのスケッチを持って帰って、いろいろ検討しました」

すぐにアイディアが返ってくるんですね。すごい!

「ええ。確かにすごいと思います。でもデザインのやりとりや検討には本当に時間をかけて作り込んでいますよ。ですから、いつも新鮮でインパクトのあるご提案をいただいています。

 ただし、もちろんそうはいっても、全てオリジナル案通りにいくわけではありません。機能や操作性のためにオリジナルからの変更が必要になることもあります。でも、そういうときでも、我々の要望を快く受け入れてくださいました。例えば、私がニコンに入社して間もなくの頃、ちょうどF4を開発している最中でしたが、初期のモックアップに触ってみたんです。そのモックアップには、親指をかけるリアグリップがありませんでした。それで私は“これでは滑るんじゃないか?”と思ったんです。そこで、粘土でリアグリップを付けてみました。そうしたら、“なるほどホールドしやすい”と納得してもらえて、ジュージアーロ氏の承認もいただけたんです。背面にあって目立たないけれども、操作する上でリアグリップはとても重要だと思うんですよ」

ジュージアーロ氏とは、直接お会いになったことはありますか。

「ええ、何度かお目にかかってます。ジュージアーロ氏は、本当にニコンのカメラを大切にしてくださっています。ニコンには強い思い入れを持って下さっているようで、とてもうれしいですね。イタリア人らしく陽気で気さくな方で、世界的にも超一流のデザイナーなんですが、私がまだ若かったときも、まったく態度にわけへだてがなく、“よく来たね、よく来たね”という感じに招きいれてくださいました」

ベースはしっかりと、遊び心をアクセントに 「継続性のあるニコンデザインを作りたいです」

上から時計回りで、ニコンF5、プロ
ネアS、COOLPIX5000、
COOLPIX990、COOLPIX950。
すべて小林氏が手掛けてき
た製品だ。

デザインを作り上げていくうえで難しいと感じる点は何ですか?

「そうですね。もちろん、全てにおいてものを生みだすという大変さはありますが、カメラのデザインには特別な苦労があります。

というのも、これまでさまざまな製品を担当してきましたが、カメラのデザインとなると、社内的な注目度も高いですから、いろいろな人が様々な意見を持っているんですね。もちろん、デザインによって感覚的な好き嫌いはあります。しかしそれ以上に、人によって“ニコンのカメラの方向性”というビジョンの違いがあるんです」

ビジョンの違いというと。

「たとえば、“斬新性が必要だ”とか“オーソドックスなスタイルで落ち着いた雰囲気で行こう”という方針など、デザインにはいろいろな方向性があります。これは単なる趣味の問題ではなくポリシーの問題なので、こっちがいいとかあっちがいいとか、一概には言えないわけです。それをどうやって、自分なりに考えたベストな方向にもっていけるかが非常に難しいですね。デザイナーの腕の見せ所かもしれません」

小林さん自身は、ニコンのカメラのデザインについて、どういうふうに考えていますか?。

「私は、自分がすごく保守的だと思っています。例えば以前に担当したCOOLPIXの銘板などに遊び心を取り入れたりとか、ちょっとおしゃれなところを忍ばせることは好きなんですが、それはあくまでもベースはしっかりしている、という前提があってのことです。

 当社のカメラは機能や性能には十分な評価をいただいておりますので、その中身にふさわしいデザインが求められます。ですから、常にその製品コンセプトに見合ったデザインを心がけています。もちろんその過程では、設計者に無理なお願いをすることもあります。0.1mmの寸法変更でもめることもありますし、わずかな色の違いでNGを出すこともたまには(笑)あります。ただ、それらは、カメラを手にとっていただいたお客様に満足していただくためのこだわりと割り切っています。

 面白さ、奇抜さだけを求めたり流行に流されるのではなく、継続性がありながら、確実に一歩一歩進んでニコンデザインの流れが作れたらいいなと思います。うさぎさんではなく、かめさんなんです。でも、これからはもっと足の速いかめさんを目指したいとも思っています」

一番重要なのはチームワーク 「お客様の期待を裏切らないカメラを作ります」

「まずいっしょに仕事をするスタッフ
に認められるデザインを作りたい」

COOLPIX5000を振り返ってみて、どうですか?

「これは、COOLPIX5000に限らないことですけれども、製品開発にはチームワークが最も大事だと毎回実感しています。

 デザイン部内のデザイナー同士だけでなく、企画や設計のメンバー、外部のスタッフなどの協力なくしては新しいデザインはできません。とくに、デジタルカメラの開発は、ある意味で技術と時間との勝負といえますので、限られた時間の中で最良のものを作るためには、開発スタッフ同士の連係が重要です。その点で、今回のCOOLPIX5000は皆さんに苦労していただいたおかげで当初のモックアップにかなり近いかたちで製品化することができたと思います」

最後にデザインで常に心掛けていることなどはありますか?

「こういう言い方が適切かどうかは分かりませんが、地に足のついたデザインを心掛けています。当り前のことですが、間違いなく使えること、持ちやすいこと、使いやすいこと。それから必要以上にサイズを大きくしないこと。持ち運びしやすいこと。そして外観的な美しさ、かっこよさ、触ったり使ったりしたときの心地よい感触。さらにできればプラスαの付加価値。などでしょうか。

 それに、私自身サラリーマンですので、ひと月に自由に使えるお金というのは限られています(笑)。カメラを買ってくださる方も、大部分の方が自分と同じ立場の方だと思っています。カメラは決して安い買い物ではありませんし、お客様が真剣に選びに選んだ末にお買い求めになるものだと思います。大事に使って、大切な思い出や家族の写真を撮るものです。だからこそ、これからも常に価値を認めていただけるものにしなくてはと心掛け、デザインしていきたいと思っています」

ニコンイメージングプレミアム会員
ニコンイメージング会員

このアカウントでは一部サービスがご利用になれません。ログインID統合のお手続きをお願いいたします。
ログインID統合手続きはこちら