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talk! talk! talk! NPO法人パラフォト代表・佐々木延江さん


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障害者スポーツの楽しさ、面白さ その感動を伝えるには写真が一番

大回転 女子座位/優勝、大日方邦子選手 撮影:堀切功
大回転 女子座位/優勝、大日方邦子選手
撮影:堀切功

佐々木さんが障害者スポーツについて一番伝えたいこととは何ですか?

障害者であれ非障害者であれ、スポーツはなかなかに楽しく、面白く、やる人も観る人も成長し、お互いのためになるものなんじゃないかということです。「障害者スポーツ」というと、「パラリンピック」だけ、もしくは、障害者のふれあいスポーツ大会などのレクリエーション、またはリハビリの延長のように思われているかもしれませんが、じつにいろいろな関わり方があるんです。競技の世界でトップのレベルになると、もう本当にプロフェッショナルというか、ハイレベルな戦いをしているんです。驚きや感動、興奮があって、とても魅力的なんです。
でも、興味のない人に面白いから見てと言っても、関心のないものに関心を持てと言ってもなかなか難しいですよね。そういった人にこそ振り向いてもらいたい。そのために一番効果的なのが写真だと思っているんです。

写真ですか?

ジャイアントスラローム男子立位/スタート直前の東海将彦選手 撮影:堀切功
ジャイアントスラローム男子立位
/スタート直前の東海将彦選手
撮影:堀切功

障害者スポーツは人間そのものの生き方や可能性にさまざまな投げかけをしてくれるモチーフです。そこに感動し、そのまま伝えてくれるカメラマンとその写真の力が重要だと思うんです。押し付けがましくなく、見た人に感動を与えてくれるものだと思います。そこから自然に興味を持ってもらえたらと思うんです。そういう思いも込めて、サイトにはたくさんの写真を掲載していますし、パラリンピックの期間中、配信された写真がリアルタイムで増えていく写真展なども行いました。今回は全国9か所で行いました。現地からインターネットで各写真展会場へ作品データを送り、会場ではそれをダウンロードし、写真用の高解像度プリンターでその都度出力してパネルに貼り展示します。各会場では、写真展会場そのものがパラリンピックの応援イベントとして話題を呼ぶような工夫をしていましたので、会場ごとに違った形で競技の魅力が空間に表現されていました。
実は私自身、1枚の写真の魅力で障害者スポーツを好きになったんですよ。もともと、障害者スポーツを知るどころかスポーツの楽しささえ知らなかったんです。体育の授業が憂鬱なタイプで(笑)。ちょうど長野オリンピックの前、仕事で行政の広報誌を作っていまして、その取材で長野パラリンピックのアルペン代表選手と会う機会があったんです。

その頃パラリンピックについては?

まったく知らない状態で、“会わなくちゃいけない”くらいの気持ちでした。1本足のスキーヤーだと聞いて障害のことばかりが頭を悩ませてしまって、どう接していいのか、何を聞いて良いのかわからない状態でした。どうしよう、どうしようってとても緊張していたら、選手が「僕が滑っている写真を見ますか?」と言ってくださったんです。それが青い空に白い雪、1本足で滑っているもので。その写真を見たときに、「あ、この人はスポーツ選手なんだ」って気づいて、取材を進めることができたんです。

その写真が魅力的だったんですね。

はい。リハビリでも健康やレクリエーションのための一環でもなくて、一流のスポーツ選手が競技をしている姿だと思ったんです。レベルが高いものだとすぐにわかりました。とにかく魅力的で……まぁ要するに、とてもカッコよかったんですね(笑)。私はそれから障害者スポーツに興味を持つようになったんです。

ソルトレークシティからトリノへ 日本チームの大躍進!

クロスカントリー10kmクラシカル/脇腹を押さえ苦痛の表情を見せる新田選手 撮影:大石智久
クロスカントリー10kmクラシカル/脇腹を押さえ
苦痛の表情を見せる新田選手
撮影:大石智久

トリノでは今年、多くのメダルを獲得し、日本人選手の活躍が目立っていましたね。

ソルトレークシティでの失敗を見てきましたから、本当にうれしいですね。日本が強くなった、そう肌で感じた大会でした。
特に今回は、ルールが変わってよりメダルを取るのが難しくなったんです。前回まではひとつの種目でも障害の度合いによってクラスごとに分かれていて、それぞれクラスごとにメダルがありました。アルペンなら20クラスくらいに分かれていて、たとえば今回メダルを取った大日向選手が出ていたクラスは4人が出て、そのうち3人がメダルを取っていた状況ですから手放しで喜んでいいのか疑問でした。でも今回からは分かれるのは3クラスだけ、あとはそれぞれの障害のハンデを計算してタイムが出るようになったんです。メダルの数がぐんと減った中でこの成績ですから、すごい成長だと思います。

ソルトレークシティでは銅3個だったメダルが、トリノでは金メダル2個を含む合計9個を取りました。

バイアスロン/優勝、小林深雪とガイドの小林卓司 撮影:大石智久
バイアスロン/優勝、小林深雪と
ガイドの小林卓司
撮影:大石智久

ええ、ソルトレークシティからの4年、チーム一丸となってトリノにかけてきましたからね。選手が滑り終わると、電光掲示板にパッとタイムが出るんです。上位6位の選手までが表示されるようになっているんですが、たいてい上位にくるのはアメリカ、ドイツ、オーストラリアの選手なんです。それなのに今回は、そこに“Japan”が1人、2人と入ってくる。メダル獲得数もそうですが、上位にこれだけの日本人が入るなんてありえなかったんですよ。表示されるたびにわーっと歓声が上がって、ドキドキしてうれしくて、本当に楽しかったですね!
これまでは選手がミックスゾーン(取材エリア)に来ても、成績がふるわず落ち込む姿にどう声をかけようかなんて気を使ってしまうほどだったのだけど、今回は失敗した選手も堂々とインタビューに答えてくれました。自分のミスについてもきちんと分析していたりと、本当に成長しているなと思いました。

日本チームはなぜそこまで成長したのでしょうか?

大きく変わったのは練習環境だと思います。ただがむしゃらに練習するのではなく、科学的にトレーニングしたり、フィジカル、メンタル面でもトレーナーがついたり、弱かったメンタル面を強化したりと練習体制が大きく変わりました。練習場所についても、たとえばこれまでアルペンの練習場所が国内にはなく、大会でぶっつけ本番ということもあったのですが、今は長野のスキー場であるていどの練習ができるようになったのです。もちろん、スキーなどは自然が相手のスポーツなので、これで十分という状況はまだまだえられませんが、長野、ソルトレークの時期から比べると大変な進歩だったようです。また、国内で練習できない競技でも、ワールドカップなど国際大会に出場する機会が増えたことで、それが練習にもなっているんです。
国際大会に出るために選手やコーチの所属している会社が協力的だったり、少しずつですがスポンサーがついたりしている現状もあります。そういった環境全てが選手に自信を与えたと思います。現地での選手の様子から、今回はそういう気持ちの強さが見てとれました。

アイススレッジホッケードイツ戦/上原大祐選手 撮影:吉村もと
アイススレッジホッケードイツ戦/上原大祐選手
撮影:吉村もと

逆に、これまでそういった環境が揃っていなかったということが驚きです。

そうですね。でも、良くなったと言っても選手活動を続けるための活動費のほとんどは選手の負担でまかなわれているんです。オリンピック選手でも、日本で活動を続けるには自己負担が大きいことは言われていますが、障害者の競技で日本代表を続けていくためには1人年間約300万円の活動費が選手の負担になります。この現状では、これからも上り調子で続けていけるかというとそれは全く厳しい状況です。特に冬の競技は始めるのも続けるのも難しく、障害者クラスの選手の人口は驚くほど少ないんです。今回メダルを獲得した選手はたまたま飛び抜けた才能を持っていたり、チームの環境づくりに対する意識の高い人だったのですが、その次に続く選手が育っていないのが現状です。世界のレベルが高くなっていく中で、次の大会で世界レベルにいけるかどうかは難しいところです。
パラフォトの取材でもそうした選手の活動を知らせています。また、パラリンピックでは海外のライバル選手の活動などを知ることもできます。こうしたパラフォトの活動が、競技環境をレベルアップしていくことに少しでもつながればと考えています。

アイススレッジホッケースウェーデン戦/パックを奪い合う遠藤隆行選手 撮影:吉村もと
アイススレッジホッケースウェーデン戦/パックを
奪い合う遠藤隆行選手 撮影:吉村もと

なるほど。資金面などでも、もっともっと援助の手が必要なのでしょうね。

それだけが原因というわけでもないとは思いますが、それが大きいかもしれませんね。とにかく今は、障害者のやるスポーツとして見るのではなく、ひとつのスポーツとして全体的にもっと注目を集めていくことが大事だと思っています。魅力を感じてもらい、認知度や人気が高まることがその先につながっていくのではと思っています。

多くの人に楽しさを知ってもらうために 障害者スポーツを伝え続ける

佐々木さんは写真を撮ることはないのですか?

少しは撮りますが、基本的に競技中はプロ(アマチュアも含め、写真専門のスタッフ)におまかせしています。ただニュースを伝えるのではなく良さや面白さを伝えるためには、やはり一定以上のクオリティが必要ですから。今回私は、セストリエールのアルペンスキーの会場で取材をしていたのですが、選手がミックスゾーンに来たときどんな表情をしているか、それはいつも撮っていました。その表情で選手がどんな滑りをしたか、満足しているのかどうかがよくわかるんです。それに、ミックスゾーンは記者席のようなもので基本的にフォトグラファーは来ませんから、ここで撮った写真がゲレンデの中腹やゴール付近で撮っているフォトグラファーの参考にもなると考えました。いろいろなシーンがありますから、できるだけ競技以外のシーンも紹介したいと思っています。いろいろな角度からパラリンピックをみてもらいたいと思います。

NPO法人パラフォト代表・佐々木延江さん

では今回の取材を通して、特に印象に残っている出来事はありますか?

そうですね……ツバルから参加したボランティアのライターが、華やかな開会式を見て空しくなったという記事を書いていたんです。ツバルは金銭的に苦しい環境にあって、障害を持っている人がスポーツをするなんて夢のような話です。それなのに、トリノではお金を持っているごく一部の人たちが参加している華やかな大会が行われていて、これが障害を持つ全ての人たちのスポーツイベントだと言わんばかりの状況に疎外感を感じた。でも、その開会式で両腕のないダンサーが素晴らしいパフォーマンスで踊るのを見たり、各国の選手が聖火を渡し合っているのを見るうちに、この場があるからこそ次のステップへ進むことができる人がいる、それを知らせるためにこの場所があるのだと思い、前向きな気持ちになったというような内容でした。

パラリンピックに出ている人は決して楽な道を歩んでいるわけではなく、大変な努力を重ねた結果そこにいるのでしょうね。

そうですね。パラリンピックは障害があれば出られるというものではありません。障害を負ってからトレーニングを積んで選手としてトップに立つというプロセスを考えると、もしかしたら障害のない人よりも厳しい部分があるかもしれませんね。世界のスポーツイベントを通して、そういった部分、トップに至るまでの部分もできるだけ伝えていけたらいいなと思います。

今後もパラフォトならではの目線で、世界の障害者スポーツを伝えていってください。

はい。オリンピックに比べてまだまだ注目度が低いですし、その存在自体を知らない人も多くいます。障害を持つ人自身も、その家族も、スポーツができるんだということを知らない人がいるかもしれません。私が写真で知らない世界を知ることができたように、もっと多くの人に知ってもらいたいし一般のスポーツとなんら変わらない楽しさや魅力があるということを写真を通して伝えていきたいと思います。そして、これを続けていくことが大切だと思っています。

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