Nikon Imaging
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vol.18 重ねた歴史と先端技術の結晶。NIKKORレンズ

3. 新800mmに感じた、ニコンへの期待。

すべてにおいて最高水準の800mm。

最後に新しい800mm f/5.6についてもお聞かせ下さい。

普段我々が主に使っているのは、500mmや600mmのレンズです。しかし撮影していると足りないと感じるケースもたびたびあります。そんな時はテレコンバーターを付けて撮影するのですが、今度は画質の面で妥協を迫られ…。やはり鳥や飛行機を撮る人にとって、800mmは誰もが欲しいレンズですよね。

使ってみていかがでしたか?

一言で言うと、「最高」です。
画質にはまさに「これが欲しかったんだ」というレベルのものです。例えば周辺光量、開放のキレ味、テレコンバーターを付けた時の画質。今まで望遠レンズを使っていて感じた不満点は、全くありません。
レンズ構成も贅沢で、蛍石レンズとEDレンズをそれぞれ2枚ずつ、もちろんナノクリスタルコートも採用されていますから、高画質であることも納得できますね。

Nikon D7100
f5.6 1/2000秒 ISO200
左写真のAの部分。
全体像をモニターで見る限りでは、黒い点にしか見えない翼の上の模様。拡大すると文字であることがわかる。
※クリックすると100%表示でご覧頂けます。
専用テレコンバーター。

さらにこのレンズには、1.25倍のテレコンバーターが付属すると聞きました。

今回の800mm用に調整された専用テレコンバーターが付いているのですが、驚くことにこのテレコンバーターを付けても画質が落ちないんですよ。
800mmにプラス200mmで、実質1000mmのレンズとしても使えることになります。
D800に付けてDXフォーマットの画角で撮れば1500mm、もしD7100に付けて1.3xクロップを使えば2000mm相当の画が撮れます。
それから、テレコンバーターを付けるとF値は7.1になるのですが、D7100も含め現在ニコンの上位機種はf/8でもAFが効きますから、2000mmでAF対応のレンズになるわけです。2000mmというと、月を画面一杯に写せます。その月の前を飛行機が通過するような写真なども撮れることでしょう。

※「1.3×クロップ」についてはこちらをご覧下さい。

以前は800mm以上の望遠撮影はどのようにされていましたか?

例えば昔は500mmにテレコンバーターを2つ付け1000mm超のレンズとして無理やり撮るなど、ほとんど「賭け」のような撮り方をしたこともありました(笑)。
このレンズであれば、超望遠かつ高画質な写真がそのままで撮れます。このような撮り方ができるレンズは初めてかと思いますよ。これで本当に安定した超望遠撮影ができるのではないでしょうか。

このような長いレンズで飛行機を撮影する時は、どのように撮られていますか?

飛行機は手持ちが基本。三脚固定ではとても追いきれませんので、腕と顔でカメラを固定し、腰を中心に回転をして撮影します。
レンズメーカー各社とも、どうやら手持ちの時も三脚座を持つことを想定しているようなのですが、それよりもこのようにレンズの先を指で押さえた方が持ちやすいのです。

これだけの長いレンズ、手持ちだとかなりブレそうな気がしますが…。

もちろん気をつけねばなりませんが、新しいレンズには様々な工夫が見られます。
まず、持ちやすさが改良されています。レンズの先の部分がゴム状になっており、これで滑らずに支えられます。写真家のことをよくわかっているなと感心しました。
それからこのレンズに使われている蛍石レンズは、色収差補正力に優れている他に、軽量であることも大きな特長です。バランスの良い快適な撮影に寄与しています。
もちろんVRの性能も、かなり向上しています。
ところでブレを防ぐという点では、三脚座も改善され、厚みが増して固定力が上がりました。望遠レンズの失敗はほとんどブレが原因です。その点でさらに安心して使えるようになっています。願わくは、もう少し早く三脚座の改善を図って欲しかったのですが…。

鳥などの描写はいかがですか?

これはあくまで私の印象ですが、写りがいくらか繊細になった気がします。
今までは、飛行機などの機械ものは硬質な感じがして好きだったのですが、鳥を撮ると羽毛の一本一本の描写が若干太いように感じていたのです。でもこの800mmは、非常に自然な印象で撮れる気がします。
とにかく高画質と優れた操作性を兼ね備えた、大幅にリニューアルされたレンズだと感じました。この方向性をぜひ推し進めて欲しいと思います。
検討されている方には、ぜひお勧めしたいです。

Nikon D7100
f8 1/250秒 ISO400
左写真のAの部分。
テレコンバーターを付け、1000mmの状態で、D7100にて撮影。劣化もなく、細かな羽毛の状態まで描写されている。
※クリックすると100%表示でご覧頂けます。

鳥や飛行機を撮影するポイント。

野鳥を撮影する上で重要となるポイントは何でしょうか?

まず近づくことが難しい。距離をどのように詰めるのかが問題ですね。
そのためには鳥の生態を知ることです。公園などで、人に慣れた身近に生息する鳥達を観察することから始めてみるのも良いかもしれません。とにかく追うと逃げますから、逆に動きを読んでとまりそうな木の周辺で待って撮る方が良いでしょう。
それから、動きが速いので連写をしたくなるのですが、結局何が撮りたいのかはっきりしない写真になりがちです。頭の中で最終的な画をきちんと描き、その画を撮るために行動や光を読みながら先に動く。そのように撮ると、短めのレンズでも捉えることができたりします。
加えてレンズは、ズームであればできるだけテレ側の性能の良いものをお勧めしたいですね。

Nikon D800E
f6.7 1/500秒 ISO400
500mm f4に1.4倍テレコンバーターを付け、さらに1.2xクロップをして、840mm相当の画角で撮影。

このカワセミもそのように撮られたのでしょうか?

距離は10m弱ほど。かなり至近距離から撮りました。ただここまで近づくのは非常に難しい。ですから「500mmを使ってもこのくらいの大きさにしか撮れないの?」と言われるくらい、野鳥撮影の世界では500mmは短いのです。するとやはりそれ以上の、800mmなどのレンズが欲しくなるんですよね。
カワセミを撮る時もとまってから反応していたのでは、なかなか良い構図にはなりません。カワセミがよく見られる場所で、とまりそうな木を事前に2~3本見つけておきます。カワセミがいたら、飛び回っている様子から次の動きを予測し、先回りをしてポイントにとまるのを待つのです。
こちらの写真、羽毛の一本一本まで解像してくれているでしょう。良いレンズでないとここまで質感は出ません。

飛行機の場合はいかがですか?

飛行機の撮影も、事前に入念な調査が必要です。
撮影のロケーションはもちろん、運航スケジュール、風向き、天候などを調べた上で、最終的な画を想像し撮影に臨みます。自衛隊の航空祭などであれば、リハーサルから見て撮るべきポイントを探っておきます。
また、こちらもやはり先読みが重要。ズームレンズを使用するなら、ズーミングを先送りしておいて、画角を決めて撮るとフレーミングが安定します。

ニコンへの要望と今後の活動。

今後のニコンへの要望などはありますか。

DXのフラッグシップ機が欲しいですね。以前お借りしたD300Sの使いやすさが大変気に入っていて、ニコンに変えたのはその点もありました。D7100も良いカメラですが、私のような仕事に使用するにはバッファが足りないとか、超望遠レンズを付けて使うには軽量すぎてバランスが少し良くないといった不満もあります。
例えば今行っているインタビュー撮影などに使うなら、D7100は性能も軽さも申し分ないでしょう。でも、超望遠撮影ではわずかな構図のズレも問題になりますので…。ブレの要因としては、ミラーショックも大きいですね。特にスローシャッターの時にかなり目立ちます。できれば一眼レフにも電子シャッターを搭載してもらえると大変助かります。
その点ではNikon 1はミラーショックがありませんから、手軽な野鳥撮影には意外と良かったりします。せっかくこのような技術があるのですからぜひ一眼レフにも搭載して、極力ブレを抑えた望遠撮影ができるようにして欲しいですね。

逆に変えて欲しくない点などはありますか?

撮影する時、ユーザーが主に触れるのはファインダーとシャッターボタンですよね。ニコンのカメラは、その性能がとても良い。ファインダーがクリア。シャッターの感触も非常にわかりやすい。フラッグシップだけは非常に良くても、それ以外の機種に問題を感じたメーカーもあります。「今切れるぞ」という瞬間がはっきりしなかったり、またピントの山もわかりにくかったり…。人間が触れる部分に妥協しないというのは、ニコンの製品の良さだと思います。

“Jetscape”
Nikon D7100
AF-S NIKKOR 800mm f/5.6E FL ED VR
f5.6 1/500秒
1.3xクロップで撮影。
“Jetscape”
Nikon D800E
AF-S NIKKOR 500mm f/4G ED VR
f4 1/1000秒 ISO800
1.2xクロップで撮影。
“Birdscape”
Nikon D7100
AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR
f6.7 1/750秒

今後、何かお考えの活動はありますか?

何か特別に目新しいものというより、今現在自分の中にあるテーマの更なる追求でしょうか。
例えば「Jetscape(ジェット・スケープ)」。
真ん中の写真はイギリスで撮影しました。谷の中をレーダーに捕まらないように飛ぶ訓練中の写真です。この写真の特長は、メインの飛行機に加え、周囲の山も写っているという点です。このように飛行機と周りの景色を一緒に写しこんだ写真を、私は「Jetscape」と呼んでいます。
鉄道写真では、電車よりも周囲の状況を大きく入れた作品をよく見かけますが、飛行機でそのような写真はあまりありませんよね。飛行機はたいてい地上から撮るので、多くの場合背景が空になり、どのような土地の上を飛んでいるのか写真を見る人にはわかりません。
そこで意識的に、このように飛行機を見下ろせる場所などから、飛行機と地上の様子を収められる構図で撮影をしています。私が初めて戦闘機を見たのは、子供の頃にボーイスカウトで山道を歩いている時でした。山間を飛ぶ訓練中の飛行機にたまたま遭遇したのですが、今もその時の感動を追い求めている気がします。
また鳥でも同じように、鳥と生息環境を一緒に写す「Birdscape(バード・スケープ)」も撮っています。
仕事が詰まっていると自分の作品作りに費やせる時間がどうしても少なくなりがちですが、今後もこの2つのテーマで撮影を続け、何かの形でまとめたいと思っています。

インタビューを終えて・・・

「撮影は狩りに似ていると思う」と語る中野さん。激しく移動する野鳥や飛行機は、シャッターチャンスの少ない、失敗が許されない被写体です。インタビューの間、始終穏やかに話されていた中野さんも、撮影の現場では被写体を確実に仕留める狩人の顔に変わるのかもしれません。
そんな中野さんが、一瞬を的確に、しかも美しく捉えるカメラとして選んだのがニコンでした。これからも進化を続けるニコンのカメラとレンズで、ご自身の表現をさらに追求されていくことでしょう。

プロフィール

中野 耕志 氏

中野 耕志 なかの こうじ

1972年生まれ。東京農業大学農学部林学科卒業。野鳥や飛行機など、空を飛ぶものの撮影を得意とし、雑誌や広告などを中心に作品を発表する。
野鳥のいる風景“Birdscape”と飛行機のいる風景“Jetscape”を2大テーマに、国内外を飛び回る。D7100のカタログ撮影を担当した。社団法人日本写真家協会(JPS)会員。

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