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vol.14 フラッグシップにふさわしい新次元の完成度 - Nikon D4。

大幅に飛躍した表現力と、D4を中心に構築する新ワークフロー。

ついにデビューとなったフラッグシップ機「D4」。D3登場時を知る人からは「大幅なリニューアルがないのでは」という声も聞かれる本機ですが、発売を前に検証を依頼したフォトグラファー・三浦健司氏は、D3Sと比べても明らかな「プロのツールとしての完成度」を高く評価しています。
スペック表の数値からは見えにくい、一新された画像処理エンジンやRGBセンサーの性能が、画像にどのような影響を与えているのか。実写比較も交え、解説していただきました。
また、三浦氏が特に注目したというD4のネットワーク機能。大幅に使いやすくなったワイヤレストランスミッターWT-5との連携が生み出す、「クライアントの信頼を勝ち取る、デジタル時代の新ワークフロー」についてもお話をうかがっています。

1. 数値には見えにくい大幅なブラッシュアップ。

さらに滑らかな階調と低ノイズの高感度性能。

D4

プロフォトグラファー待望のD4がいよいよ発売になりましたね。D3Sの後継機ということで、ニコンユーザーのみならず業界全体が注目していると思います。実際に使用されて感じた、D4の評価をお聞かせいただけますか?

全体感としては、名機として評価の高かったD3シリーズの性能に、さらに磨きがかかった印象です。
まずは感度について、お話ししましょうか。
今回、ISO50相当までの減感とISO204800相当までの増感が可能になりました。高感度側の常用感度はD3Sと変わりませんが、カラーノイズに大きな変化がみられます。
カラーチャートを撮影してみましたが、ISO1600くらいまで、ほとんどざらつきはありません。若干荒れ始めるのは、ISO3200くらいから。しかしこれも問題ないレベルです。D3Sまでは、ISO3200だとシャドー部にノイズが目立ったため私は敬遠していましたが、D4からはISO3200も十分使えると感じました。
ISO6400や12800に上げると、低感度の画像と比べれば、やはり滑らかさは落ちますね。でも「常用」としている通り、確かにISO12800までは問題ない範囲ではないでしょうか。
さすがにISO102400以上にもなると、当然画質の劣化は否めません。それでも、低照度の環境でも撮れるという点では、フォトグラファーにとってはありがたいです。また実用レベルでは、もちろん画像の用途にもよりますが、ISO51200くらいまではなんとか使えるのではと感じました。もっともこのような感度を使うのは、かなり特殊なケースでしょうけれど。

各感度のカラーチャート。(上記の画像はISO100で撮影したもの)。
※クリックすると感度ごとの作例がご覧頂けます。
各感度のカラーチャートの100%拡大。(上記の画像はISO100で撮影したもの)。
※クリックすると感度ごとの作例がご覧頂けます。
三浦健司氏

ISO50

ISO100

ISO200

ISO400

ISO800

ISO1600

ISO3200

ISO6400

ISO12800

ISO25600

ISO51200

ISO102400

ISO204800

ISO50

ISO100

ISO200

ISO400

ISO800

ISO1600

ISO3200

ISO6400

ISO12800

ISO25600

ISO51200

ISO102400

ISO204800

「暗部の色を見る」作例。暗部の色とディテールに注目。(上記の画像はD4で撮影)。

実際に撮影された画像などはありますか?

例えば右の画像は、赤、青、黄、緑の4色に加え、なおかつハイライト部もシャドー部もある状況で撮影した写真です。
その画像をさらに、下の作例A、B、Cで部分的に拡大しました。

一般的に、一番ノイズが出やすく発色が悪い色は、ブルーと言われています。そこでD3Sで撮った画像と比べてみました。ISO6400の段階で、すでに階調表現や色の再現性にかなり差が出ていますよね。(作例B)

またD3Sの画像は、緑の暗部にカラーノイズが発生し本来の色に濁りが生じています。対してD4は、ざらつきはあるもののグリーンが残っています。このくらい色が記録されているなら、多少暗くても明度を上げて彩度を調整してあげれば、ちゃんと色が出てきます。一方D3Sの暗部は、ディテールを出そうと明るくしても質感や色をイメージ通りに補正することはできません。(作例C)

各感度の撮影サンプル。(上記の画像はISO6400で撮影したもの)。
※クリックすると感度ごとの作例がご覧頂けます。
青部の拡大。(上記の画像はISO6400で撮影したもの)。
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緑部の拡大。(上記の画像はISO6400で撮影したもの)。
※クリックすると感度ごとの作例がご覧頂けます。

ISO6400

ISO12800

ISO25600

ISO51200

ISO102400

ISO10204800

ISO6400

ISO12800

ISO25600

ISO51200

ISO102400

ISO10204800

ISO6400

ISO12800

ISO25600

ISO51200

ISO102400

ISO10204800

ISO100で撮影したカラーチャート。

低感度側はいかがですか?

D3Sの常用感度は、ISO200からでした。一応ISO100相当の減感撮影もできましたが、ハイライト部が飛び気味になってしまう特性がみられ、私は使用を避けてました。しかしD4のISO100ではこの傾向はなく、豊かな階調のままISO100で撮影できるようになりました。これでピントの浅い写真に苦労することもなくなります。

ISO100

瞬時のシーン認識で、オートでも適正な露出とWB。

91KピクセルRGBセンサー。
新画像処理エンジン EXPEED 3。

変わったというと、画像処理エンジンもリニューアルしたのですね。

昨年発売のNikon 1にも搭載されていた最新のEXPEED 3がD4にも搭載されています。とはいってもNikon 1と同じものではなく、D4用に作られたものですけどね。EXPEED 3になったことで、複数のタスクを高速処理できるようになりました。先程のような高感度撮影画像のノイズが抑えられているのは、この新エンジンのおかげでもあります。

WBオート。
D4:すっきり  D3S:アンバー気味

RGBセンサーも新しくなったようですね。

D3シリーズの1005分割RGBセンサーから、91KピクセルRGBセンサーに変わりました。約91000ものピクセルがとらえた膨大な画像情報は、高速かつ高精度に解析され、その結果をもとに、瞬時にシーンや被写体に適した露出やホワイトバランスが決められるようです。
たとえば蛍光灯の下、オートで人物を撮るとします。D3Sは輝度の高いところをターゲットにホワイトバランスを調整するようで、人の肌は若干寒色系になりがちです。一方D4は、91KピクセルRGBセンサーによる顔認識によって、肌色を考慮したホワイトバランス値をオートで適用します。これは一眼レフとして画期的なことです。なにせ自動で、好感の持てる自然な肌の色を写すことができるのですから。
かつて(フィルム時代)僕らはこのような場合、CCフィルターを使って補正していましたが、そんなフォトグラファーのノウハウがカメラの中に入ってしまった感じです。オートで撮っても問題ないレベルの色が出るので、特に報道系の、人物取材をバンバンこなさなければいけない人たちには、ありがたいでしょうね。
空の青も綺麗に出るようになりました。D3Sでもかなりすっきりとした青が出ていましたが、D4ではさらにクリアになった印象です。
もちろん露出も同様です。例えばオートの状態で人物を黒バックで撮れば全体的にオーバー気味に、白バックで撮ればアンダー気味になりがちですよね。ですがいずれのシーンでも、人物が自然に見える、かなり適正に近い露出を提示してくれるはずです。これも91KピクセルRGBセンサーのおかげでしょう。
また屋外でも、スピードライトとの併用で、人物の背景のみをアンダーに調整するといったことも可能なので、これまで以上に撮影者が求めるイメージに近い画作りを実現してくれるのではないでしょうか。

WBオート

シャッターチャンスに集中できるカメラ。

こちらは連続写真ですね。

夕暮れ時、ライトをつけながら走ってくる電車を撮ってみました。明るい点光源が手前に近づいてくるというシーンです。
これまでのオートでは、強い光源の移動に合わせて露出が上下してしまうことがありました。D3Sでもライトが中央にくるにつれ写真全体が暗くなり、中央からライトが遠ざかるとまた明るくなる、といったことが起こりました。
ところがD4であれば、オートでも安定した露出で撮影できます。「急に明るい光源が画面に入ってくる」「被写体が非常に速くて、露出を気にする間もなくカメラを振らなければならない」といった場合にも有効だと思います。
普段私たちはマニュアルで撮影することが多いわけですが、今後は積極的にオート撮影もできるようになるでしょう。
例えば絞り優先オートに設定し、あとはカメラまかせで撮影しても、ほとんど問題のないレベルで撮れるのではという気もしています。

D4 明るい点光源  絞り優先オート。
D3S 明るい点光源  絞り優先オート。
三浦健司氏

露出に関しては、HDRという機能もあるようですね。

露出の異なる2枚の画像を、1度に撮影して瞬時に合成し、暗部から明部までのディティールやトーンを同時に再現した画像を生成する機能です。明暗差の激しいシーンでは白とびや黒つぶれがおこりがちですが、この機能を使うことで、階調幅の広い自然な印象の画像になります。
室内でテスト撮影をしてみました。
作例Dが通常の絞り優先オートで撮影した画像です。屋外の景色は明るく描写されているものの、室内は明らかにアンダー気味ですね。
対して作例E、F、GはHDRを使用した画像です。3段階の露出差での撮影が可能なのですが、今回はEV3が最も見た目に近い印象になりました。室内が明るくなったばかりでなく、空の雲の階調までしっかりと表現されています。
このような技術、最近ではコンパクトカメラでもスタンダードな機能として搭載されているものの、例えば窓枠周辺のような、特に輝度差の大きな部分では不自然な合成になりがちです。でもD4では、ナチュラルな画像の生成を実現にする優れたアルゴリズムが採用されているのでしょうね。また、ユーザー自身が境界の滑らかさを調整できるスムージング機能もあり、より撮影者のイメージに合った画作りが可能になっています。
Web系の仕事では制作時間があまりなく、すぐに写真をほしいと言われることも多々ありますが、これなら補正することなくそのまま渡すこともできるのではないでしょうか。特にインテリアなどの撮影に最適かと思います。

露出差を大きく設定するほど、輝度範囲のより広い被写体に対応可能。

1. 絞り優先オートで撮影。
2. HDR(EV1)で撮影。
3. HDR(EV2)で撮影。
4. HDR(EV3)で撮影。

1. 絞り優先オートで撮影。

2. HDR(EV1)で撮影。

3. HDR(EV2)で撮影。

4. HDR(EV3)で撮影。

なんだか至れり尽くせりですね。あまり便利すぎると、フォトグラファーの方の技術が落ちてしまいませんか(笑)。

真面目な話、カメラの操作にかかる負担を極力抑えようとしているのだと思います。つまり、フォトグラファーはシャッターチャンスや構図に集中できるようになるわけです。こういった希望は、フォトグラファーから多く寄せられていたと聞きました。ユーザーの声を積極的に取り入れ、それをできるだけ多くの方にフィードバックしたいというニコンの意向なのではないですか。

総合力が生みだす、新次元の高画質。

新開発のアドバンストマルチCAM3500FXオートフォーカスセンサーモジュール。

他にカメラの基本性能について、変化を感じられた点などありますか?

まずAFの初動が、速くなりました。
さらに3Dトラッキングも、かなり進化しています。D3の時は、被写体の動きを十分に追いきれなかった印象がありました。対してD4は、91KピクセルRGBセンサーの高度な被写体認識により追従性が向上し、小さい被写体への対応も強化されたため、きちんと実用レベルになっていますね。
これまでピント合わせに迷いが生じていたのは、演算処理が十分な速度で行なわれなかったからだと思います。センサーのピクセル数が増えるほど演算量も増すはずですが、91Kピクセルでも迷わずに動くということは、EXPEEDの処理能力が格段にアップしているからなのでしょう。
今後さらに画像処理エンジンの性能が上がると、より細かく速い画像解析が可能になるはずですよね。D4のホワイトバランスや3Dトラッキングの精度には、これからのカメラの進化した姿を垣間見ることができました。数年後、それこそ本当にフォトグラファーは、撮影することのみに集中すればよくなるかもしれません。どのように変わっていくのか、とても楽しみです。

ところで今AFの話が出ましたが、フォーカスポイントはD3Sと同じ51点ですよね?

そうですね。でもフォーカスポイントが増えるということと、正確であるということは別ですよ。肝心なことは、被写体をスピーディーに正しくとらえて、それを制御する技術です。
ポイントの数は変わっていないものの、オートフォーカスセンサーが新しくなっています。使ってみて、D3Sに比べてAFの速さも正確さも明らかに向上していることが実感できました。
カメラの性能を判断する上でまずユーザーが参考にするのは、カタログのスペック表記でしょう。ですが「画素数」の例からもわかるように、スペック一つ一つの数字の高さと撮影結果の良し悪しはイコールでないことは、多くの方がご存知かと思います。
他の例でいえば、さきほどの高感度性能。D4では「常用ISO12800」としています。ISO12800まではいくらかノイズ自体は発生しても、カラーノイズはほとんどなかったですよね。このような状態がニコンの考える「常用」なのでしょう。
実際に他社のカメラの高感度撮影サンプルも見ましたが、D4ほどカラーノイズを抑えることができていたとは、私には思えませんでした。機会がありましたら、皆さんもぜひ撮影結果を見比べてみることおすすめします。

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