Nikon Imaging
Japan
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vol.12 しあわせな気持ちにさせる、名畑流・子ども撮影術。

3. 作家としての想い。子ども写真への想い。

確かなものづくりとユーザー本位の姿勢に好感。

名畑文巨氏
AF-S NIKKOR 85mm f/1.4G

名畑さんは初めからニコンのカメラをお使いですか?

最初は他社のカメラでした。ニコンを使い始めたのはF4の頃からですね。
ちょうどカメラはAFへ移行する時期。F4はニコンがAFを搭載した、最初のフラッグシップ機だったんです。カメラを始めた頃は、ニコンのカメラは私には高価で手が出ませんでした。でもプロとして新たにAF機を買うのであれば、やはりプロユーザーに信頼の高いニコンを、と思ったのです。
デジタルカメラはD200からです。慣れるまで大変でしたが、撮った写真がその場ですぐに確認できるというのは、一度経験したらもう戻れないですよね。
その後D2XS、D3と使用してきました。実はD200の後他社のFマウントを使用したカメラを使った時期もあったのですが、D80をベースにしたニコンFマウント機でしたから、あらためて専用レンズを買う必要はありませんでした。

ニコンに変えてからは、基本的にはずっとニコンだったわけですね?

そうですね。もちろん、すでに良いレンズを揃えていたということもあります。特に85mm F1.4が非常に気に入っていて。「ポートレートレンズ」という別名のとおり、人物の背景がとても美しくボケたので、かなり使い込んでいましたよ。
フィルムの頃、曇天など暗い状況では、高感度フイルムを使うか明るいレンズを使うか、どちらかしか選択肢がありませんでした。感度をあげるとどうしても粒子が目立ちますから、それよりも明るいレンズをということで、135mm F2と一緒に、ローンで買いました(笑)。

他社への移行を考えられたことはありますか?

いいえ、それは考えませんでした。ニコンは、目新しさや派手さより、しっかりとしたものづくりをしている。そのことに対し信頼感を持っています。撮影中に雨や雪に見舞われることがあっても、確実に動いていましたし…。安心して仕事に集中できていますよ。
またMFからAF移行時もマウントの互換性に配慮するなど、以前からのユーザーも大切にしているというか。そういった会社としてのポリシーにも大変好感がもてました。
使っていて、よかったと思いますね。

大きく引き伸ばしても美しい、ニコンのカメラとレンズ。

名畑文巨氏
D3X
コーティングサンプル(ガラス14枚)
左:28面中26面にナノクリスタルコートをコーティング。
右:28面コーティングなしのサンプル。

現在カメラは何をお使いですか?

主にD3、D300S、D7000で、メインはやはりD3です。D2のときは正直不満も多かったのですが(笑)、D3はいまだ快適に使えています。待った甲斐があったとしみじみ思うほど、劇的に性能がアップしていました。
もっとも、最初に買ったのはD300。D3はD300と同じ1200万画素でしたから、「同じ画素数ならD300でもいいだろう」と思ったのです。しかしその後あらためてD3を手に入れてみて、あまりの違いに驚きましたね。

どういった点が違ったのでしょう?

あるとき、D3で撮った写真がポスターに採用されたのですが、横位置で撮った写真を縦にトリミングしてB1出力しても、思いのほか綺麗に出たんです。あらためて画素数の違いがカメラの善し悪しでないことを実感しました。
最近のカメラはみな画素数が多いですよね。でも単純に画素数を上げると、どうしても輝度ノイズが目立つようになる。特にサイズの小さな撮像素子であればなおさらです。しかしD3クラスのCMOSで撮った写真なら、1200万画素とはいえ、多少大きめの印刷物にも使えます。
もっとも、その後D3X使ってみて、さらに進化した画質の良さに再度驚きましたけれども(笑)。それにD3Xは2450万画素ですし。作品がカレンダーやポスターに採用されるケースの多い私としては、やはり大きく引き伸ばしたり、横で撮ったものを縦に切りとったりしても、画質の劣化を心配する必要がないのはありがたいですよ。

レンズはどのようなものをお使いですか?

まず、ナノクリスタルレンズは基本。D2の時代、実は周囲には他社のカメラを使い始めた人もいたのです。でもD3とナノクリスタルレンズを使ってみて、あらためてずっとニコンユーザーを続けて良かったと実感しました。 (笑)
単焦点は24mmと、先程お話した85mmを主に使用。ズームレンズは14-24mm、70-200mmなどを使っています。広角だと周囲の状況も写し込めますし、躍動感も出るんですね。望遠では圧縮効果で躍動感は薄れますが、そのかわり背景をぼかして主役である子どもを強調した撮り方ができます。

他にカメラ自体でよく使う機能などはありますか?

子どもは動き回りますから、コンティニュアスAFなどはよく使いますね。一旦ロックした被写体の動きを追従してくれる3Dトラッキングも時々使います。ただ、複数の子どもが走っているときは、どの子を追うか迷うときがありますので…。基本的には、とにかく枚数を撮るということになりますが。
撮影時は、あまりあれこれと機能を切り替えません。それよりもRAWで撮影し、パソコン上でイメージに近づけています。比較的コントラスト強め、彩度高めで現像することが多いでしょうか。

逆光時は影になる顔に露出を合わせるので、背景は明るく描写され、幸せ感が出る。
逆光時の、髪や身体のラインに現れるハイライトが、親子の幸せ感を強調する。

RAW現像によって爽やかさやハツラツとした印象が表現されているのですね。

鮮やかな色の傾向だということは、よく言われます。
逆光で撮ると、どうしても背景の白飛びが不安になりますよね。逆光で撮影する場合は、少しアンダー気味に撮って、あとで起こすということをやっています。

ニコンへの要望などはありますか?

ライブビューのレスポンスを高めてほしいですね。例えば、ファインダー用の撮像素子をもう一つ付けるとか。動き回る子どもなど、じっくりとファインダーを覗きながら撮影できないケースも多いので、ライブビューで決定的瞬間をとらえられるのが理想です。以前に比べ、カメラ自体の機動性は非常に高くなっていますから、ライブビューの進化にも期待しています。
それから可能かどうかわかりませんが、より機能を絞った、特定の使い方に特化したカメラがあると良いと思います。最初に就職した会社では、子ども撮影用に独自のカメラを開発していました。連続して撮影するために映画のフィルムのような長巻きのフィルムを装着する大きなマガジンラックを備えていたり、70-200mmの二眼式だったり。シャッターもリモートレリーズで、子どもをあやしながら撮影できたりしました。プリントした背景のスクリーンを交換しながら、5分で5~10カットも撮れましたよ。
例えば、良い子ども写真を撮れるパパママ用カメラなどどうでしょう?複雑な設定はできないかわりに、レスポンスよくポンポン撮れるとか。初心者に優しく、製造コストも下げられて良いんじゃないですか?
とにかくニコンのカメラは機能が多いですね。逆に覚えるのが大変。D3はすでに2年使っていますが、最近初めて知った機能もあるくらいで…(笑)。

進むべき方向が見えた、アメリカでの発表。

昨年は国内外で個展を開かれていますね。

国内では東京、大阪。国外ではニューヨークで。ずいぶん前に小さな個展を開いたことはあったのですが、昨年は少し規模の大きな展覧会を行ってみました。
そもそものきっかけは、その前の年(2009年)に「APAアワード(社団法人日本広告写真家協会公募)」の写真部門で最高賞の「文部科学大臣賞」を受賞したことでした。ただ、作品が思わぬ形で注目を浴びたということにも、後押しされましたね。

ニューヨーク展オープニングレセプション風景。撮影:読売新聞 河村道浩氏(右下の写真2点含む)。
会場風景。

それはどういうことでしょう?

「Battle of the Natsu-yasumi」の一連の写真をホームページで公開し、しばらくたってからのこと。ある日、海外から急激なアクセスがあったのです。しかも特定の国からだけではなく、世界各国から。そこでリンク先を調べたところ、行き着いたのは、日本独自のカルチャーや面白いヴィジュアルを紹介するアメリカのサイトでした。そのサイトを見た様ざまな国の人たちが、さらに自分のブログなどにリンクを貼って…、という形で広まっていったようです。
日本独自の金魚すくいのようなモチーフも、日本以外で受け入れられるのだと新鮮な驚きがありました。それならば海外でもチャレンジしたいと思い、ニューヨークに下見に行ったのです。

会場風景。

ニューヨークには、つてがあったのですか?

以前mixi で知り合ったイラストレーターの友達がいたので、現地では彼女にギャラリーを案内してもらいました。でも私が「ニューヨークで個展をやりたい」と言ったら、「ニューヨークは日本とは違います」とたしなめられて…。つまり、ニューヨークのギャラリーはあくまでアート作品を売るための場であって、単に作品を発表する場ではないというわけです。
「Battle of the Natsu-yasumi」は今回の公募展でアートとして認められたものの、これまで撮りためてきた子どもたちの写真の多くは、一般的なニューヨークのギャラリーで展示されているような現代アートとは方向性が違うと、私自身感じていました。そんな理由から、この街で個展を開くのはまだ先のことかと、一時は見送ることも考えていたのです。

ではどのように開催に至ったのですか?

ニューヨークには日本文化を紹介する団体があり、そのようなコンセプトにマッチした作品の展覧会も主催しているという話を聞いたのです。早速掛け合ったところ、そのうちの一つである「日本クラブ」が興味を示してくれました。
これまで書道や陶芸など、日本の独自性の強い作品展示が続いていたため、日本人の子ども写真も面白いと思ってくれたようです。審査はあったのですが、APAアワードで大賞を取っているということもあり、無事にパス。個展開催の運びとなりました。
実際、やってみてよかったです。

名畑文巨氏

それはどういう点でですか?

あちらには作品をきちんと鑑賞するという土壌がありますね。訪れる方は皆さんじっくり見てくれました。見たあとも、感想を聞かせてくれますし…。文化の違いを感じました。
最初はやはり不安でしたよ。アメリカの方にしたら「外国の子どもの写真」ではないですか。興味を持ってもらえるか疑問だったのです。でもそれは杞憂でしたね。
多くの方から「ポジティブなエネルギーを感じた」といった言葉をもらいました。このままずっと会場にいたいぐらいだ、などと話しかけてくれる人もいて…。
元警察官という方は、なんと3日も続けて来廊してくれたのです。ニュージャージーにお住まいとのことでしたから、ニューヨークとの行き来にはずいぶん時間がかかったはずなのですが…。理由をたずねると「警察官時代は、毎日ネガティブな状況に身を置かねばならなかった。次第に気持ちも荒んで、結局辞めてしまった。でもここへ来て、とても幸せな気持ちになれた」とおっしゃっていました。

名畑さんの作品から放たれた子どもたちのエネルギーは、万国共通だったというわけですね。

あらためて自分の方向性が、より明確になった気がします。世界で自分がどのような位置にいるのか、ずっと知りたかったのです。異文化の中で展覧会をやってみて、自分の作品が純粋に作品としてどのように受けとられるのか。それがわかることによって、次のステップも見えてくると考えていましたから…。
今回の「The Art of Photography Show 2011」の入賞もそうですが、実際にそれがはっきりしました。大きな収穫を得た気がします。

作品の力と子どもたちのエネルギーで、社会を変えたい。

名畑文巨氏

これまでの作家としての方向性は正しかったことが証明されましたね。

私が作家活動を始めたとき、「子ども写真だけでよく仕事になりますね」というようなことを頻繁に言われました。その当時は「子どもを被写体に作品を撮る」といったことが、まだ十分に理解されていなかったのですね。女性写真、風景写真はジャンルとして確立していましたが、子ども写真はジャンル自体なかったというか…。でも誰に何を言われても「これがいい」と思い続けてきたことで、価値観を創れてきたのかなと思います。ニューヨークで評価の声をもらったことからも、「作品としての子ども写真」が人々に受け入れられるものだと実感しました。
今までの子ども写真というと、「かわいい」「癒される」といった印象ばかりでしたが、私が伝えたいのは「エネルギー」なんです。子どものポジティブなエネルギー。それが見た人に伝わることで、その人も元気になる。そんなイメージで作品制作に向かっています。

名畑さんの作品の中の子どもは、「全身生命力」というか。確かに見ているこちらの気分も晴れやかになる気がします。

皆さんがそのように感じてくれると嬉しいですね。そんな気持ちの輪が広がってくれることが、理想です。
世の中には、子どもをうとましい存在とかしか感じていない人がいます。そんな人たちが起こす、子どもが被害者になる事件が日々報道されていますよね。私の作品が、このような社会を変える一助になればと思っています。
私は大阪の池田市に住んでいます。覚えている方も多いでしょう、以前池田市の小学校で起こった痛ましい事件。その犠牲になった子どもの一人が、私と同じマンションに住んでいたのです。モデルにスカウトしたいと思っていた、かわいい子でした。自分の憂さ晴らしに子どもを傷つける人々。そんな人の心を、作品で動かすことができれば…。あの事件をきっかけに、そんな想いがさらに強くなりました。
それも私の大きな目標の一つです。

インタビューを終えて・・・

自ら編み出したという撮影方法の数々。そして、子ども写真にかける想い。お話をうかがいながら、名畑さんの作品の魅力は経験と愛情に裏打ちされたものなのだと、あらためて気付かされました。
そして、デジタルメディアの積極的な活用法も興味深かったことの一つ。モデルの募集をはじめ、情報収集、広報、コミュニケーションなど、対面による人とのつながりだけでは成し得ないことを、ネットを利用しスピーディに実現されています。現像や補正のオペレーションだけでなく、いかにパソコンやインターネットを作家の視点から活かせるか。デジタル時代の写真家の、新しいワークスタイルを見た気がしました。

プロフィール

名畑文巨氏

名畑 文巨 なばた ふみお

大阪府池田市在住。
外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年子供撮影に携わり「あやして撮る技術」を修得。子どもといて感じる幸せの感情をテーマに独自の子供写真の世界を表現している。企業カレンダーなどの広告や雑誌などに作品を発表。

(社)日本写真家協会 (JPS) 会員、
(社)日本広告写真家協会 (APA) 会員
ニコンカレッジ特別講師

受賞歴
The Art of Photography Show 2011(USA) 奨励賞
APAアワード2009日本広告写真家協会公募展 文部科学大臣賞
APAアワード 広告作品部門入選4回、JPS展(日本写真家協会展)入選

個展
2010年 "Be Loved" The Joy of Children in Japan
・ニューヨーク、The Nippon Gallery at The Nippon Club
(後援:在ニューヨーク日本国総領事館、社団法人日本広告写真家協会)

・ 東京・大阪、富士フイルムフォトサロン

主な雑誌掲載媒体
連載:「デジタルカメラマガジン」「ひかりのくに絵本だより」 「別冊PHP」
グラビア、記事:「デジタルカメラマガジン」「フォトテクニック デジタル」他多数。

主な広告媒体
明治安田生命カレンダー(2001、05~12)、田辺三菱製薬カレンダー(2001、02、03、05、08、11、12)、富士フイルムカレンダー(2010~12)、中央労働災害防止協会ポスター、かんぽ生命ポスター、JTBポスター、ニコンD5100カタログ、「こども写真を撮ろう!」ニコンD5100小冊子、山崎製パンTVCM、大塚食品WEBサイトトップページ、NECライティングWEBサイトトップページ、北海道東川町WEBサイトトップページ、他多数。

※最新のブラウザでご覧いただくことをお奨めいたします。

ギャラリー

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