Nikon Imaging
Japan
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vol.10 写真だから伝えられるメッセージ。

3. ニコンに望むこと。人々に望むこと。

動画とネットで、新たな情報発信。

ところですでにD7000をお使いとのことですが、動画機能などは試されましたか?

もちろん使ってみましたよ。D5000の動画機能は、撮影時間が短かったり、と不満もありました。でもD7000では随分改良されていますね。動画も20分撮れますし。もちろん映像のクオリティも高い。
映像を構成する1枚1枚の画の質は、やはりスチルカメラが優れていますよね。ビデオもどんどんこちらに近づいてきて、近い将来それぞれの利点を併せ持つ融合型になっていくのでしょう。

今後スチルだけではなく、こういった動画機能なども活用した情報発信などもお考えですか。

もちろんです。私はすでにYouTubeなどで動画も配信しています。これはもう個人で世界に情報発信できるテレビ局を持っているようなものですね。
今、世界の各地で革命的な運動が起きていますが、これにもインターネットを使った個人の情報発信が、大きく影響していると言われていますよね。今はそういう時代。だから私もこれまで撮影してきた写真、動画、あるいは知り得た知識を、複合的にどんどん発信していけたらと思っています。
以前動画は専用のビデオムービーを使って撮っていましたが、最近ではかなりデジタルカメラの動画機能に移行してきました。デジタルカメラ1台で済めばそれにこしたことはありませんし、色んなレンズが使えるので、イメージに近い画作りができていいですよね。これからもっと、デジタルカメラでの動画撮影も勉強したいと思います。

ニコンへの要望。

ニコンのカメラやサービスに対する要望はありますか?

まずはレンズですね。単焦点の、いわゆる超望遠と言われるレンズで、もっと被写体に寄れないかなと。500mmや600mmのレンズですと、最も寄れるのが4mくらいだったように思いますが、これをなんとか1m程に…。このようなレンズなら、今まで見たことがない画が撮れると思うんです。都市に住む昆虫などを撮るとき、例えばアップで寄った昆虫の背景に都市のビル群がきっちり写り込んでいる、などという写真が撮れるはずです。もちろん多少暗くなっても構いませんから、実現してほしいですね。

28-300mmの新しいレンズでしたら、最短50cmまで寄れますよ。

それは一度試してみたいなぁ。
超望遠とマクロの組み合わせは、スポーツなどにも使えると思うんですよね。カメラの近くに寄ってきた選手と観客席の人たちを同時にきっちりカメラに収める、そんな画づくりなんてどうでしょう?
離れた動物を写すとき、急に寄ってきた動物を写すとき、それをひとつのレンズでできるといいですよね。

南極にて。

NPSなどに対する要望はいかがでしょうか?

私は仕事柄、世界各地へ出かけるわけですが、できれば日本のNPSから目的地のNPSに対し、レンタル機材を予約しておいてもらえると大変助かります。
最近は航空券が安くなった代わりに、持ち込み機材の運賃はかなり高くなりましたよね。いろいろなレンズを持って行きたくても重量制限があり、重量オーバーの代金をまともに払っていると何十万円という運賃を取られかねません。そうすると、機材に制約が出てしまう。
それに運賃だけならまだしも、現地に着いたら荷物がなくなっていった、などということが起これば、全く仕事になりません。そのような点からも世界的なネットワークを使って、予約サービスを強化してもらえると助かります。
あるいはニコンの商品を取り扱っているという、店舗情報だけでもいいですよね。NPSのサイトに店舗情報を掲載しておいてもらえれば、タイトなスケジュールの中、現地でニコン製品を探して無駄に動き回らなくても済みます。レンタルはできなくても、緊急の場合は買ったっていい。せめて現地の代理店の電話番号だけでもサイトには載せてもらえるよう、ぜひ検討して下さい。

これからの活動と人々に伝えたいこと。

今年はどのような活動を予定されていますか。

まず、出版社二社から児童書を出す予定です。野生生物の可愛さを伝えながら、最後に環境についても触れようかと思っています。
それから、「南極100年展」に出品します。南極点に人間が立ってから100年を記念しての展覧会です。南極というとアムンゼンやスコットが世界的には有名ですが、日本人では白瀬矗(のぶ)という人がほぼ同時期に南極に到達しているんですね。白瀬さんの南極探検隊が記録した当時の写真と、私が近年撮影した写真を展示し、100年前に比べてこんなに南極が変わってしまったということを伝えたいと思い、展覧会を行うことになりました。
日本は鎖国をしていましたから、歴史的にもいわゆる大探検家という人はほとんどいなかったように思います。そんな中で木造の小さな船に乗り南極大陸へ向かった白瀬さんの偉業はもっとクローズアップされていいと考えています。
また夏頃に講談社からは、「ザ・ペンギンズ」という本を出す予定です。地球上のいろいろなペンギンとその生態を紹介し、そこからまた環境を見直そうという内容の写真集になる予定です。

コモド島にて。
コスタリカにて。

これから自然や動物の写真を撮りたいと思っていらっしゃる方々に、写真の楽しみ方についてアドバイスをいただけますか。

今まであまり自然や動植物の写真を撮ったことのない方であれば、撮り方のコツなどよりも、「この動物や植物が好きだ」という想いを大切にして撮るのが良いのではないでしょうか。
それから、写真の楽しさは、単に撮影するということだけにとどまりません。例えば以前、アゴヒゲアザラシのタマちゃんブームがありましたよね。その頃私も北極に行ってアザラシの写真を撮ったりもしたのですが、ふとこれまで日本の本州にアザラシが現れたことがなかったのか気になり始めたんです。そこで調べたところ、江戸時代の文献に愛知県にアザラシが現れた記録がありました。やはりアザラシ見たさに人々が集まり、屋台も出て、たいそう賑わったそうです。そんなことがわかると、また楽しくなりますよね。
撮った写真をもとに、色々と調べていくとたくさんの切り口が見えてきます。その延長で環境にも興味を持ってもらえたら、私も嬉しいです。

普段の活動を通じて、何かメッセージがあればお願いします。

グレートバリアリーフやガラパゴスの自然破壊は、ほんの一例。今、地球全域が危機的状況にあります。普段の生活の中では実感しにくいかもしれませんが、早急に対処しなければならない重大な問題です。
例えば、世界の人々が日本人のような食生活をするようになったら、地球が2~3個必要になると言われています。これからさらに人口が増え、人々が皆豊かな生活を望んだら、そのとき食料はどのように確保すればよいでしょう?自分たちの目先の利害だけでなく、将来のために何ができるのか、一人ひとりが今一度生活を見直すところから考えていくべきです。
100年ほど前には、生き物は年間せいぜい1種類ほどしか絶滅していませんでした。今、年間約4万種の生き物が絶滅していると言われています。でも、このように空気を吸っていること自体、植物のおかげですよね。毎日何かを食べていますが、これもすべて他の生き物です。病気になった時に飲む薬も、他の動植物からとったもの。
人間は、他の生き物たちに生かされているのです。しかし、私たちはそのことを忘れがち。いずれ必ず、人間にしっぺ返しが来るはず。生き物たちを絶滅に追いやり、後で「あの生き物さえ絶滅していなければ助かったのに」などということが起こりえます。
私はカメラを使って、今のこのような地球の状況を、世界中に発信していければと思っています。

インタビューを終えて・・・

事務所にうかがってまず驚いたのが、このインタビューのためにご用意いただいた、懐かしいニコンのラインナップ(別の場所にもまだまだお持ちとのこと)。
そしてもう一つは、藤原さんから語られる、想像を絶する自然破壊のスピード。
「とても穏やかで柔和な方」といった印象の藤原さんでしたが、いざ環境の話題になると、口調が一気に熱を帯び…。拝見した作品からも自然への愛情と明日の地球を憂う気持ちが伝わって、気がつくとお話に引き込まれていました。
インタビューを行いながら「写真は世界の共通言語」であることを再認識するとともに、画作りに対する藤原さんならではこだわりはこのような想いにあるのかと、あらためてクリエイティブの原点をみた気がしました。

プロフィール

藤原 幸一氏

藤原 幸一 ふじわら こういち

情熱の冒険生物学者
ネイチャーズ・プラネット代表。ガラパゴス自然保護基金(GCFJ)代表。日本テレビ『天才!志村どうぶつ園』監修および『世界一受けたい授業』生物先生。学習院女子大学非常勤講師。

秋田県生まれ。日本とオーストラリアの大学・大学院で生物学を専攻し、生物の生態や環境問題に視点をおいた生物フォトジャーナリストとして南極、北極、アフリカ、熱帯アジア、オセアニア、南米などで取材を続けている。

写真集および書籍

『南極がこわれる』『ガラパゴスがこわれる』
『ペンギンの歩く街』『マダガスカルがこわれる』(以上、ポプラ社)
『タマちゃんうまるる』『地球の声がきこえる』(以上、講談社)
『沈みゆく方舟ガラパゴス』(講談社+α文庫)
『ペンギンガイドブック』(阪急コミュニケーションズ)
『fine海へ行こう』『ガラパゴス博物学』『クジラ物語』『イルカ物語』(DATAHOUSE)
『地球のしあわせ』(日本出版社)
『だ~れだ?』(新日本出版社)
『森の声がきこえますか』(PHP研究所)
など多数。

主な雑誌掲載媒体

雑誌:『Newton』、『DAYS JAPAN』、『ソトコト』、『週刊現代』、『FRIDAY』、『アサヒカメラ』、『アサヒグラフ』、『SAPIO』など多数。
週刊誌連載:『読売ウィークリー』、『週刊朝日』
新聞連載:『読売新聞』、『朝日新聞』

主なコマーシャル媒体

日本:『EPSON』(ポスター)、『CASIO』(Mobile Navigatorパンフカバーフォト)、『AXA生命』(ポスター)、『商船三井』(大型ディスプレー)、『大同生命』(ポスター)、『ダイキン』(室内ディスプレー)、『エイベックス』(CDジャケット)、『日本ハム』(ポスター)など。
フランス:『プジョー』(ポスター)、『EUTELSAT』(ポスター)など。
イギリス:『Unilever』(雑誌・表紙)、『BT Infinity Quarter』(DM)など。
ドイツ:『Europa Verlag』(雑誌・表紙)、『M.E.C.H. GmbH』(広告)など。
アメリカ:『San Diego Union Tribune』(大型ディスプレー)、『JOHN RYAN COMPANY』(ポスター)など。

ギャラリー

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