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vol.6 プロの常識を変える・Nikon D3S

かつてない超高感度性能の実用性。

D3からわずか1年。D3Sがさらなる進化を遂げました。
新機能として、イメージセンサークリーニング機能もさることながら、ISO12800も常用可能という超高感度に注目している方が多いのではないでしょうか。
今回のインタビューは、すでにD3Sを主力機として使用されているフォトグラファー・瀬戸秀美氏。
長年、厳しい撮影環境の中でダンサーを撮り続けている舞台写真の第一人者が、高感度性能をはじめとするD3Sの総合的な能力をどう評価しているのか。新しいズームレンズやテレコンバーターの性能などとあわせ、お話をうかがいました。

1.シビアな状況でこそ、はっきりとわかる性能差。

写真家にもカメラにも厳しい撮影環境。

舞台写真というと、写真家の仕事の中でも特殊な部類に入るかと思われます。まず舞台写真を撮る上で、いつも意識していることは何でしょう?

我々の仕事の大原則は、「動けない」「お客さんの邪魔になってはいけない」。あくまで中心はダンサー達と高いお金を払って見に来るお客さんですから、その邪魔にならないよう、撮影をしなければなりません。
そのため撮影を行う時は、客席の一番後ろのブースから撮る事が多いですね。
客席レベルの場所から撮る事もありますが、そんな時は例えばブースの横など、できるだけお客さんからは見えない位置で、音に気を配りながら撮影しています。

瀬戸 秀美氏
ブース内の様子。
客席の様子。写真中央部に撮影用のブースが見える。

ブースといっても、舞台までかなり距離があるようですし、決して撮影しやすそうには見えませんが。

そうですね。ひとつには、ブースのガラスをはさんで撮らねばならないという問題。そこでまず悪条件が生じます。良質なガラスならまだしも、ガラスに色が入っている物や、鉄線が入っている事もありますし、ガラス自体がゆがんでいて、そのためにピントが合わなかったという話も聞きました。
ブースも決して広くはなく、自由にカメラを動かすどころか、レンズ交換すらままならない事があります。
そもそも劇場という空間自体、光量が少ない事も多く、さらに混合光線で、様々な色の照明が切り替わったり混ざったり…。ダンサー達の動きは激しく、気を抜こうものならすぐにフレームアウトしてしまう、かなり厳しい撮影環境と言えるのではないでしょうか。

超高感度でノイズレス。常識を超えたD3S。

Nikon D3
AF-S VR Zoom-Nikkor ED 70-200mm F2.8G(IF)
ISO 800 1/250秒 F3.2

そのような状況を前提に撮るには、知識、経験、技術、様々な能力が求められますね。カメラにももちろんシビアな性能が要求される事と思います。ところで瀬戸さんは、D3からのニコンユーザーとの事ですが、長年使い慣れたメーカーからD3に切り替えたポイントは何だったのでしょう?

理由はいくつかありますが、まずD3の高感度性能とフォーカス性能でしょうね。
D3になってニコンは大きく変わりました。ノイズは一昔前に比べると、ちょっと現実的でないくらいに無くなりましたよ。

我々は特殊な仕事をしています。そのため、どうしてもカメラの性能に依存しなければならない部分も生じてきます。ですからトータル的に高い性能のカメラでなければ、仕事に支障をきたす事になります。その点でD3は、「このカメラやレンズは、我々のために作ったのか?」と思うほどの出来映えでした。それで決めました。

高感度撮影画像の印刷サンプルを見せて,説明される瀬戸氏。

D3Sになって、さらに高感度の性能がアップしましたよね。私の常用感度はISO3200~6400ではないでしょうか。劇場内では平均ISO1600あたりで使っています。フィルム時代からはおよそ考えられない事ですよ。それでいて、これほどノイズも無く、色も滑らか。相当技術的には進みましたね。

Nikon D3S
AF-S NIKKOR 70-200mm F2.8G ED VR Ⅱ
ISO 1600 1/200秒 F2.8
Nikon D3S
AF-S VR Zoom-Nikkor ED 200-400mm F4G(IF)
ISO 3200 1/250秒 F4.5
Nikon D3S
AF-S VR Zoom-Nikkor ED 200-400mm F4G(IF)
ISO 3200 1/200秒 F4
Nikon D3S
AF-S VR Zoom-Nikkor ED 200-400mm F4G(IF)
ISO 6400 1/250秒 F4

ISO 12800を使用した事はありますか?

シャッター速度を優先した場合、使う事はあります。暗い状況で、どうしても一定の速度で切らねばならない事もありますから。そんな時でも安心出来るんですよね、このノイズの無さは。
私は普段の仕事では、AF-S NIKKOR 400mm F2.8G ED VRを使っています。このレンズなら大抵の状況を押さえる事はできます。でも、焦点距離と被写体とのサイズの問題があります。撮影しながら動く事ができないので、被写体をちょうど良いサイズに撮るためにはAF-S VR Zoom-Nikkor ED 200-400mmF4G(IF)で、ズーミングしながら撮る必要もあるわけです。高感度でもノイズが少ないおかげで、大変心地よく撮影出来ています。

Nikon D3S
AF-S VR Zoom-Nikkor ED 200-400mmF4G(IF)
ISO 12800 1/200秒 F4
ISO設定表示画面。
「Hi 3」(ISO102400相当)まで増感可能。

高感度になった分、シャッタースピードも上げられるのでは?

ジャンプしたところを空中で止めなければなりませんから、ある程度のシャッタースピードが絶対に必要です。でも私は最高速で1/250以上は切らない事をモットーにしていて、その分絞りで調整するようにしています。例えば1/500あたりで撮った方が綺麗に止まるのかもしれないし、この高感度なら可能かも知れませんが、これはフィルム時代から身に付いているこだわりなんですね。
あまり光量の無いところで速いシャッター速度で撮ると、悪いレンズを使っている時のように周辺部が暗くなる傾向があって、決して良くない。
舞台は非常に限られた空間です。瞬間のスピードはあるけれど、動きやスピードには限度がある。それに良いダンサーはジャンプした瞬間でも止まっていますから、その瞬間を逃さなければ、1/250でも十分撮れるのです。
それから、舞台を連写で撮影する人もいますが、我々のように舞台を専門にしている人は、本当に納めたいシーンは1ショットでしか撮っていません。一瞬一瞬に集中し、必要最小限のシャッタースピードで、一番美しい姿を狙う。そんな撮り方をしています。

Nikon D3S
AF-S VR Zoom-Nikkor ED 200-400mm F4G(IF)
ISO 3200 1/200秒 F4
Nikon D3S
AF-S NIKKOR 400mm F2.8G ED VR
ISO 400 1/250秒 F3.2
Nikon D3S
AF-S VR Zoom-Nikkor ED 200-400mmF4G(IF)
ISO 800 1/250秒 F4

オートホワイトバランスでもまかせられる、高い基本性能。

瀬戸 秀美氏
Nikon D3S
AF-S VR Zoom-Nikkor ED 200-400mm F4G(IF)
ISO 1600 1/250秒 F4

先ほど様々な照明の話が出てきましたが、D3Sのホワイトバランスはかなり調整されるのですか?

写真家にとってライティングは基本中の基本ですが、舞台の場合は自分でコントロールする事ができません。どんな条件でも撮らなければならない。
ですからライティングは、逆にこれまでさほど問題にした事はありません。基本的に色の再現を目指していないのです。
最近のカメラは微妙に色温度を調整して実際の色を再現しようとする傾向にありますが、舞台写真においては実際の舞台の色の再現よりも、その空間の雰囲気を捉える事が重要となります。ですから私は、ホワイトバランスはD3Sにまかせています。それでも基本的に、許容範囲の色が出ています。それだけカメラが良くなったという事なのでしょうね。

青色系,光源下でのホワイトバランス比較。

ところで、このD3S。D3からずいぶん色が変わっています。舞台ではよく使われる青系統の光の色が以前はグリーンっぽくなっていたのですが、ずいぶん改良されました。さらに白も抜けるようにもなりました。
色に関しては、肌色がきちんと出ているとか、基本的な点が押さえられれば「良し」としています。もしクライアント側で、より実際の色に近づけたいと考えた時は、印刷の方でそのように調整してもらっています。
人工光源で、いろんな光が混ざっているような状態ですから、ひとつの色を再現しようとすれば、別の色は捨てる事になってしまう。そんな事をしたら、かえってカラーバランスは崩れるでしょう。調整出来る時もありますが、結局、あまりいじらない方が良かったりしますよ。

それでも、問題があるときはありませんか?

どうしてもダメな時はケルビン値で調整します。ところがケルビン値で設定しても単色じゃありませんからね。混合光線にはケルビン値調整はあまり効きません。
そもそも舞台撮影の場合はじっくり色を作るとか調整するとか、そんな時間は全く無いんです。人によっては「リハーサルの時に確認すればいいのでは?」と言う人もいますが、本番で照明の出力を変えられると、それだけでケルビン値が変わります。そんな部分まで神経を使うのは、逆に現実的ではありません。D3Sならオートホワイトバランスまかせでも十分に撮れます。
もうちょっと欲を言うと、ブルーの色がさらに抜けると理想的なんですが…。でも舞台撮影ではそれを言い出すと、きりがないかも知れませんね。
ちなみにタングステン光は、ニコンは非常に実物に近い色合いが出ます。これには私は今までさんざん苦労していました。

Nikon D3S
AF-S VR Zoom-Nikkor ED 200-400mm F4G(IF)
ISO 1600 1/250秒 F4
Nikon D3S
AF-S NIKKOR 70-200mm F2.8G ED VR Ⅱ
ISO 1600 1/250秒 F2.8
Nikon D3S
AF-S VR Zoom-Nikkor ED 200-400mm F4G(IF)
ISO 800 1/250秒 F4

瀬戸 秀美氏

いちいち神経を使わなくても、綺麗に撮れるのは大きい事ですよね。

それはもう、舞台に集中出来るわけだから、オートまかせに出来るのはありがたいですよ。
ケルビン値設定して、またテストして、なんてやっていると、最低でも4~5分かかるので、重要なシーンも撮り損ねてしまいます。
デジタルになってから、我々は本当に助かっていますよ。例えばポジの頃は、舞台撮影に4台カメラを用意していました。2台はデイライトフィルム、もう2台はタングステンタイプを入れていたんです。そしてフィルムが切れたらボディごと取り替えるという…。それがデジタルになってからは1台で済んでいます。まして今はオートでの撮影が中心ですから、その分舞台に集中出来ます。

左:Nikon D3S AF-Sレリーズ優先。
右:Nikon D3 AF-C レリーズ優先。
クロスセンサー位置。

オートフォーカスに関してはいかがでしょう?

D3の時は、オートフォーカスの速度がちょっと遅かったように感じました。ロックするスピードに関しても。AF-Sで撮っていると間に合わなかったので、AF-Cでずっとピントを合わせた状態のまま追いかけていって、チャンスがきたらシャッターを切るというスタイルで撮っていました。
D3SになってからはAF-Sで撮っていますが、ジャンプシーンなどもほぼ止めて撮影出来ています。ただフォーカススピードに関しては、もう少し期待したいかな?これで速くなったら無敵じゃない?(笑)スピードのある被写体を連写とAF-Cで撮っている多くの方には、ほとんど問題ないとは思いますけれど…。
また、今のニコンのオートフォーカスは、中央の縦3列のクロスセンサーの精度は非常に高いのですが、そこから外れるとちょっと精度が甘くなる気がします。そのあたりが課題でしょう。我々の仕事には、よりスピーディで正確なフォーカス合わせが求められます。そもそも、常に長いレンズを使わなければならないため、通常以上にスピードが必要なのです。

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