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第八十二夜 AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm f/3.5-5.6G(IF)

究極の高倍率ズームを求めて
AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm f/3.5-5.6G(IF)

今夜は、D70Sの時代に登場したDXのベストセラーレンズAF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm f/3.5-5.6G(IF)をみてゆこう。

大下孝一

高倍率ズームの理想形を求めて

高倍率ズームの源流は、第六十二夜に紹介したZoom-Nikkor Auto 50-300mm F4.5(1967年発売)と、佐藤さんが第四十七夜で紹介したAI Zoom-Nikkor 35-200mm F3.5-4.5S(1985年発売)にさかのぼる。その後、他社からは28-200mmという通常の撮影領域をほぼカバーするレンズが登場し、ニコンでもこれに対抗するべく、AI AF Zoom-Nikkor 24-120mm F3.5-5.6D IFが誕生したことは第五十八夜で紹介したとおりである。こうして高倍率ズームは、24-120mmで採用されたIFフォーカス方式によって、最大の欠点であった最短撮影距離の遠さが解消され、様々なシーンで使える万能レンズとなったのである。その後も標準ズームの高倍率化は進み、28-300mmというズーム比10倍を超えるレンズまで登場した。

しかし理想のズームになるにはもう一つ足りない要素があった。手振れ補正である。

ご存じの通り、手振れは望遠撮影になるほど目立つもので、手振れを防ぐためには(1/焦点距離)より早いシャッタースピードで撮影することが必要といわれていた。つまり200mmの焦点距離なら1/200s、300mmの焦点距離なら1/300sより高速のシャッターを切らねばならない。それでは晴天の日中以外で、望遠側の焦点距離が手持ち撮影で使えなくなってしまう。だからといって三脚での撮影スタイルでは、高倍率ズームの軽快さが失われてしまうだろう。

スチルカメラの分野で、ニコンはいち早くこの手振れ補正技術の開発に取り組み、1994年にニコンズーム700VRという、スチルカメラでは世界初となる手振れ補正VRを搭載したコンパクトカメラを発売、次いで2000年にAI AF VR Zoom-Nikkor ED 80-400mm F4.5-5.6Dを発売している。この手振れ補正技術を高倍率ズームにも搭載し、SWM(Silent Wave Motor)フォーカスの「全部入り」高倍率ズームの理想形をつくろう。こうして開発がスタートしたのがこのレンズなのである。

AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm f/3.5-5.6G(IF)

光学設計は、光学検討リーダーの芝山敦史さんと、設計・製品立上げを担当する設計リーダーの鈴木剛司さん、設計実務を担当する伊藤智希さんの3名体制で2003年の夏ごろスタートした。1990年代までは、光学設計者が設計から製品立ち上げまで1人で担当するのが普通だったが、この頃から複数の設計者で複数の製品を担当するスタイルが生まれてきた。芝山さんは、交換レンズでは第十八夜に紹介したAF Zoom-Micro Nikkor ED 70-180mm F4.5-5.6Dの設計をはじめ、先ほど紹介したニコンズーム700VRなどのコンパクトカメラ、デジタルカメラCOOLPIX900の撮影レンズなどカメラ分野で多彩なレンズ設計を手掛けられた方である。設計リーダーの鈴木さんは、元々テレビカメラ用レンズの設計者としてスタートし、交換レンズの設計、半導体露光装置用レンズの設計、栃木ニコンでの製品立ち上げなど多くの職場を歴任され、最近まで私の上司をされていた方である。伊藤さんは当時若手設計者で、彼のデビュー作となったレンズでもある。ニコンでは「一番難しいレンズを若手に任せる」という伝統があるが、このレンズもその好例である。

設計目標として、標準ズーム18-55mmと望遠ズーム55-200mmの焦点距離を1本でカバーする高性能高倍率ズームであること、気軽に持ち運べるサイズと質量であり手頃な価格であること、強力な手振れ補正とSWMを内蔵することが挙げられ、フィルムカメラ用として評判の高かったAF-S VR Zoom-Nikkor 24-120mm f/3.5-5.6G IF EDと同等のサイズと価格を目指すことが決められた。設計にはおよそ半年かかり、年が明けた2004年春から試作にとりかかった。ところが試作では中々性能が出ず、鏡筒の調整に時間を要したため、完成して試作の評価が完了したのはその年の年末になろうとする頃であった。この性能が出なかった理由は、高倍率ズームゆえの敏感度の高さだった。しかし設計リーダーの鈴木さんは粘り強く、試作での不具合を量産試作に反映し、製品の完成度を高めていった。ここで製品立ち上げの大きな力となったのが、鈴木さんが元いた職場である半導体露光装置用レンズの波動光学による収差計測技術だった。光には直進するという粒子的な性質に加えて波動的な性質をもっており、理想レンズを通った光は球面波となって、像面に向かって収斂してゆく。しかしここにレンズ面精度の悪化やレンズの位置のずれが加わると、この光の波面に乱れが生じ結像性能が悪化する。この波面の乱れを計測する装置を開発し、レンズの調整を行うことで、安定した性能が達成できたのである。こうした苦心の末量産工場であるニコンタイランドへのラインの設置を行い、2005年の12月にようやく発売となったのである。そしてこの波面計測技術はその後の製品にも生かされ、ニッコールレンズの生産に貢献している。

このレンズの断面図を図1に掲げる。

図1 AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm f/3.5-5.6G (IF) レンズ断面図

このレンズは、凸のパワーを持つ1群と、凹のパワーをもつ2群と、凸のパワーをもつ3群と、同じく凸のパワーをもつ4群からなる4群ズームレンズである。設計初期段階で5群以上のズームタイプも検討した上で、この4群タイプに落ち着いたという。それは、群が多くなると、その群を移動させるためのカム筒が増えたり、広角端や望遠端で、群の間隔を確保する必要が出てくるため、かえってレンズが大きくなってしまうためであった。そして、懸案の手振れ補正は、3群後方の接合レンズを光軸と垂直方向にシフトさせることで実現している。この手振れ補正レンズも、検討の末このレンズに決められている。その決め手になったのが、広角レンズで発生するパースペクティブによる周辺の像ブレ抑制であった。

手振れは主に縦方向と横方向にカメラとレンズがチルトすることによって発生する。このカメラのチルトによって、広角系のレンズではチルトした方向に先すぼまりになるパースペクティブが発生し、被写体の歪みが発生するのである。画面周辺でも手振れを抑制するには、この周辺の歪みを逆補正するように、レンズのシフトで歪みを発生させる必要がある。この周辺像ブレ抑制にもっと効果的だったのが、3群後方の接合レンズだったのである。しかしこのレンズをシフトさせると全体に結像性能が低下する問題があった。そこでこのレンズを非球面化することで、手振れ補正時の結像性能劣化を抑えているのである。

実際このレンズを構えてファインダーを覗き、故意に少しレンズを揺らしてブレを発生させても、像の揺れはファインダー上でほとんどわからず、被写体がスクリーンに貼りついたように見える。18mmの広角から200mmの望遠まで高い性能をもつことに加え、この高い手振れ補正の効果がこのレンズの大きな魅力となっている。こうして目標通りAF-S 24-120mmと変わらないサイズの18-200mmが誕生したのである。

レンズの描写

それではいつものように実写でレンズの描写をみてゆこう。今回の作例では、このレンズ購入当時にD50やD40で撮られたものと、最近D3300で撮影したものが混在している。D50・D40は600万画素、D3300は2400万画素と解像度に違いがある点をご了承いただきたい。

作例1

D50 AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm f/3.5-5.6G(IF)
焦点距離:18mm
絞り:F3.5
シャッタースピード:1/13S
ISO:1600
カメラ内現像

作例2

D3300 AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm f/3.5-5.6G(IF)
焦点距離:18mm
絞り:F8
シャッタースピード:1/125S
ISO:100
NX Studioにて現像

作例1は、広角端18mm開放で撮った夜景の写真である。このレンズの特徴は何といっても強力な手振れ補正機能(VR)だ。この作例は購入して間のないころ試し撮りがてら撮影したもので、D50の優秀な高感度性能も相まって、手持ち撮影でもブレのない見事な写りをみせてくれた。このレンズがあれば何でも撮れる!という印象を決定づけた思い出深い写真である。また絞り開放でありながら、周辺光量も豊富にあり、サジタルコマフレアも目立たないことがおわかりいただけるだろう。一方周辺の黄色い電飾に着目すると、赤と黄色に分離しており、少し倍率色収差が残存していることがおわかりいただけるだろうか。

作例2も広角端18mmで撮影した遠景写真である。D3300を使い絞りF8に絞り込んでいる。広角端ではたる型歪曲収差があるはずだが、ちょうど画面端に長い直線物がないためそれほど目立ってはいない。また作例1で指摘した倍率色は、画面周辺の手すりなどに顕著に現れている。D3300では歪曲収差と倍率色収差はカメラ内で補正することができるのだが、今夜の作例ではすべて補正せずに現像している。

作例3

D3300 AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm f/3.5-5.6G(IF)
焦点距離:24mm
絞り:F4.5
シャッタースピード:1/500S
ISO:100
NX Studioにて現像

作例4

D3300 AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm f/3.5-5.6G(IF)
焦点距離:35mm
絞り:F8
シャッタースピード:1/400S
ISO:100
NX Studioにて現像

作例3は、D3300にて焦点距離24mm絞りF4.5で撮影した。24mmはこのレンズの焦点距離域で最も歪曲が小さくバランスのとれた性能をもっている。1m未満の近距離撮影だが、被写体の花はすっきり描写されている。ただ、画面周辺でコマフレアが出ているため、画面周辺の花や葉は少しフレアっぽい描写になっている。またこのコマフレアの影響で、背景のボケにエッジが出るため、ボケ味にはやや癖がある。

作例4はD3300で撮影した焦点距離35mm、絞りF8の遠景に近い写真である。35mmの描写も24mmの描写とほぼ同様だが、24mmから35mmの間で歪曲収差が大きく変動して、35mmで糸巻き型歪曲が最大となる。35mmから望遠端まで糸巻き型の歪曲は継続するが、画角が狭くなる効果もあって徐々に小さくなってゆくのである。この歪曲収差の影響は建物1Fのレンガや窓枠の歪みにみてとれる。気になる場合は、カメラのメニューで「自動ゆがみ補正」をONにしていただきたい。また作例2の画面周辺で見られたフレアも、F8に絞りこんでいるため、全面シャープですっきりした描写である。

作例5

D3300 AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm f/3.5-5.6G(IF)
焦点距離:56mm
絞り:F5
シャッタースピード:1/1000S
ISO:100
NX Studioにて現像

作例6

D3300 AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm f/3.5-5.6G(IF)
焦点距離:95mm
絞り:F5.3
シャッタースピード:1/500S
ISO:100
NX Studioにて現像

作例5は、D3300、焦点距離56mm、絞りF5で撮影したハスの花である。この焦点距離になると周辺のコマフレアも減少するため、被写体のハスの花もシャープに、また後ボケも柔らかくなっている。

作例6は、焦点距離95mm、絞りF5.3で撮影したオニユリの花である。100mm前後の焦点距離では、またコマ収差が目立つようになるため、また画面右下の花や画面上部のつぼみなどが少しフレアがかっている。100m前後は最も軸上色収差や倍率色収差が小さく抑えられているため、色づきは感じられない。

作例7

D3300 AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm f/3.5-5.6G(IF)
焦点距離:135mm
絞り:F5.6
シャッタースピード:1/250S
ISO:200
NX Studioにて現像

作例8

D40 AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm f/3.5-5.6G(IF)
焦点距離:200mm
絞り:F5.6
シャッタースピード:1/200S
ISO:200
カメラ内現像

作例7は、D3300にて焦点距離135mm、絞りF5.6で撮影したヤマユリである。このレンズは焦点距離70mmより望遠側では、近距離になるにしたがって球面収差が補正不足になり、周辺の像面が遠側に変動する傾向が顕著にあらわれる。そのため、より遠い距離で撮影した作例6にくらべ、全体に描写がソフトになった印象を受ける。また、望遠側はEDレンズの効果もあり、軸上色収差、倍率色収差とも小さいのだが、近距離になるにしたがって倍率色収差が現れてくるため、画面上部の花びらのエッジに青いふちどりが出ている。

作例8はD40を使って望遠端200mm、絞りF5.6で撮影したカンヒザクラとメジロである。メジロはスズメよりも小さい小型の鳥だが、早春には梅や早咲きの桜の蜜を求めて近くまでやってきてくれるので、このレンズの望遠側でもかなり大きく撮影することができる。本格的な野鳥撮影には、フルサイズ換算で400mm~600mmが欲しいところだが、換算300mmのこのレンズでも、冬に公園にやってくるカモやカモメなど、被写体になってくれる野鳥も多い。普通の標準ズームでは味わえない高倍率ズームの醍醐味といえるだろう。

作例9

D3300 AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm f/3.5-5.6G(IF)
焦点距離:200mm
絞り:F5.6
シャッタースピード:/200S
ISO:200
NX Studioにて現像

作例9は、同じく望遠端200mm開放、ほぼ最至近で撮影したバジルの花である。作例7で説明した通り、望遠側の最至近では球面収差が補正不足になるため、画面中心の花にもフレアのヴェールがとりまいている。よりシャープに撮影したい場合は、F11まで絞り込んで撮影することをおすすめする。また倍率色収差に起因する色ずれもみられるが、普通に撮影した画像では、自動で倍率色補正がかかるため、それほど目立つことはないだろう。

旅行に最適な万能レンズ

2005年12月に発売されたこのレンズは、予想を上回るほど爆発的にヒットした。それは発売当初、ニコンタイランドの生産だけでは大量のバックオーダーを捌ききれず、急遽栃木ニコンでも組み立てを行ったほどであった。私も愛用のD50用にと製品発表されてすぐ予約をしたが、手元に届いたのは年末のことだった。そして使い始めてその使い心地のよさにすっかり魅了されたのである。広角27mmから望遠300mmとほしいアングルをほぼカバーするズーム比と、強力な手振れ補正によって、何でも手持ちでバシャバシャ撮れる万能レンズで、長らくDXカメラのメインレンズとして大活躍してくれた。実に使っていて楽しいレンズである。このレンズを使うまでは、旅行用には、28mmから100mm相当のレンズがあれば十分と思っていたが、旅先で見かけた珍しい鳥や動物、手の届かないところに咲く花など、300mmの望遠があると俄然写真のバリエーションが広がるのである。

このレンズは発売から4年後、2009年にズームロックスイッチを付加したAF-S DX NIKKOR 18-200mm f/3.5-5.6G ED VRIIに生まれ変わり愛用されつづけた。そして理想を追い求める設計者の想いは、AF-S DX NIKKOR 18-300mm f/3.5-5.6G ED VR(2012年発売)、AF-S DX NIKKOR 18-300mm f/3.5-6.3G ED VR(2014年発売)へと受け継がれていったのである。

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