第69回ニッコールフォトコンテスト

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第1部 モノクローム

ニッコール大賞
推選・U-31賞
特選
入選
応募点数 6,640点
講評 ハナブサ・リュウ

講評 ハナブサ・リュウ

新しい発見や工夫が凝らされている作品

 コロナ禍で、写真が撮りにくい状況が延々と続いています。そんな中で行われた、第69回ニッコールフォトコンテストですが、例年に劣らず、素晴らしい作品が揃いました。撮りためていた写真を掘り起こして構成した作品や自粛生活から生まれた身近な作品など、それぞれ新しい発見や工夫が凝らされている作品が目立ちました。また、長い間撮り続けてきたテーマを思い切ってまとめたような、重みのある作品に多く出会ったことは大きな喜びでした。
 ニッコール大賞は、「ある日の島」室田あいさん。琵琶湖に浮かぶ沖島で撮影された、会報263号のフォトコンテストで1席に輝いたノミネート作品です。数多くのコンテストで頻繁に登場するとても人気のある題材の島ですが、年月をかけて撮影された深みがあります。さまざまな表情を島で生活しているかのような視点、まるで黒子、いや透明人間になって撮っているように感じられます。何も特別なことがない、日常そのものの〝ある日〞の断面が素直にとらえられているのです。粘りに粘って完成した4枚組の表現というべき作品、30年も通い詰めた成果が結集した感があります。作者の努力に敬意を表します。
 推選は、「移動」広瀬泰雅さん。宮崎県の都井岬で撮影した作品。広々とした海を臨む風景の中で、放牧馬のゆったりとした時間を、大きなスケール感を持って表現した、とても気持ちが良い作品です。シルエットになって連なる馬たちの背後の光が美しく、モノクロームならではの表現が生きています。組写真の入賞が多い中で、単写真の素晴らしさを見せてくれました。そして、23歳という若さの広瀬さんは、U-31賞も合わせて受賞されました。
 特選は、「郷愁」宮田憲雄さん。郷愁を求めて周辺の町や村を廻り、イメージを作り上げて構成した4枚組です。年月をかけたことで、妥協がない、まさに心象風景の完成形のような作品です。同じく特選「悲驚」藤﨑優子さん。2018年7月に京都府北部で起こった豪雨による水害のドキュメントです。気候変動の影響といわれている自然災害の恐ろしさを静かに、そして丁寧に表現しています。何処でも身近に起こる可能性をまざまざと思い知らされ、改めて環境問題を考えさせられる作品です。特選「農夫」外石富男さん。新潟県津南町の農家の方に前年に撮った写真を届けに行き、再び撮影した作品です。入れ子のような手法はよくありますが、お爺さんの満面の笑顔の素晴らしさが作品の決め手になりました。
 入選もまた力作揃いでした。気になった作品は、「老人と海」番匠健太さん。モノクロームの魅力を最大限に引き出しているような、作者の美学を感じる美しい老人と海の物語です。「未来に向って」杉山弘美さん。単写真の魅力を存分に味合わせてくれる完成度の高い作品です。「まなざしの向こうがわ」堀内明宏さん。見守る優しさと共に、記録・記憶としての写真の大切さをしみじみと感じました。「修理作業」𠮷田美和子さん。正面から撮る、正統的なドキュメント手法で威風堂々とした作品です。「年頭拝み」小西弘子さん。ストレートな表現にとても強さがあり、緊張した空気感がよく伝わってきました。
 今回も、素晴らしい作品の数々に圧倒されました。まだまだ、予断を許さない状況が続くと思いますが、それでも写真は撮れる、ということを教えられた思いがしました。次回も期待しています。