第69回ニッコールフォトコンテスト

受賞作品

第1部 モノクローム

ニッコール大賞 「ある日の島」

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第2部 カラー

ニッコール大賞 「kaguyahime」

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第3部 ネイチャー

ニッコール大賞 「呼吸」

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第4部 TopEye&Kids

ニッコール大賞・長岡賞 「Spring Song」

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総評 小林 紀晴

「いま、ここ」を撮ることの意味

 第69回ニッコールフォトコンテテストはニッコールクラブ アドバイザーの5名に加えて、ゲストに日本大学藝術学部写真学科教授の秋元貴美子氏とカメラ雑誌『CAPA』の菅原隆治編集長を迎え、厳正なる審査を2日間に渡り行いました。
 今回、審査を行う中で私の頭の片隅にあったことは昨年の春先から突然に始まったコロナ禍の影響を応募作品がどのように受けているのか、という思いでした。写真を撮る行為はほとんどの場合、撮影者の能動的な動きによって成立します。さらに被写体の存在が必要です。だからこそ、写真を撮ることは具体的に「いま、ここ」を切り取ることになります。つまりカメラを持った者は必ず「いま、ここ」に居る必要があります。このようなメディアは実はほかにはそう多くありません。だからこそ、現代を映す鏡、窓といった役割を持たされる宿命にあります。昨年もコロナ禍の中にありました。ただ、応募締め切りの時期を考えると、それ以前に撮られたものも多くあったと記憶しています。コロナ禍以前と以後が混じり合った混沌の回だったといえるでしょう。そして今回のコンテストは完全にその渦中にあるといえます。
 誰もが実感されているように写真を撮る上で困難な場面が増えました。自由、気ままにどこかに出かけていくことも、誰かと対面で向かい合うことも簡単ではなくなってしまいました。逆境の時といってもいいかもしれません。ただ、その中にあっても、たくさんの素晴らしい作品を拝見できたことは、審査員の一人として大変喜ばしいことでした。
 こんなときに「写真に何ができるのか?」と声高に語ることにはほとんど意味がないでしょう。それ以前にみずからの胸に手をあて、「何が撮りたいのか?」「何を撮るべきなのか?」といった原点を静かに考える必要があると感じています。例えば、私も足繁く通って撮影していた日本の祭り。今それらを撮ることは容易ではありません。行われなかったり縮小されていたりすることが多いからです。かつての姿をとらえた写真を目にするとき、ある種の望郷の念を抱いている自分に驚きます。世界が以前とは明らかに違って感じられます。そんなことを考えながら、今回審査を進めさせていただきました。
 作品から感じ、また気づいたことは多くあります。悲しみから派生した美しさ、日常が平凡であることの素晴らしさ、ある方が撮影メモに記入した「一人で山へ入ることが多くなった」という一文の意味、海外旅行で撮影された平凡な風景に抱く憧憬、スナップショットとお祭りの写真の減少、心の内面に寄り添った作品が増える傾向について……一方でネイチャー写真は変わることなく健在であると再認識。
 個人的には16歳の高校生が撮影した「Spring Song」と題された一枚の作品が深く心に訴えかけてきました。空が晴れている、若者が跳ねている、笑っている、歌っている。ただそれだけなのに、どうしてこんなにも輝いて映るのだろうか。ただ生きていることの尊さと、未来が描かれているからに違いありません。「何を撮るべきなのか?」それに対する答えを聞いた気がしました。

審査員

ニッコールクラブ顧問 大西 みつぐ、小林 紀晴、佐藤 倫子、ハナブサ・リュウ、三好 和義
ゲスト審査員 写真家・日大芸術学部教授 秋元 貴美子
(株)ワン・パブリッシング「CAPA」編集部 菅原 隆治