第69回ニッコールフォトコンテスト

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第2部 カラー

ニッコール大賞
推選
特選
入選
応募点数 12,233点
講評 大西 みつぐ

講評 大西 みつぐ

「カジュアル」な感覚でカメラと関わる

 あらためて、このニッコールフォトコンテストを審査させていただき思ったことは、いかに多種多様な作品に恵まれているかということです。毎年何回か地方での写真審査に赴きますが、どうしても皆さんのとらえる被写体が類型化せざるを得ません。特にカラー作品となりますと、「華やかさ」や「形」を強調するだけの作品も多く見られます。もちろんそれはそれで良いのですが、少し不満も残ります。もっと普通の日常、みなさんが生活している場からの素朴な視点を発揮してほしいと思うこともしばしばです。しかし、ニッコールフォトコンテストには逆にそれが前面に押し出された作品がたくさん応募されてきます。これが大きな特徴です。
 例えば入選作品の題名からでも分かります。中村光雄さんの「緊急事態」、求磨川貞喜さんの「そう、君は強くなった。」、井上美穂さんの「お引越し」、中道ちあきさんの「九十才、日々あるがままに」など、それぞれの日々にカメラが無理なく関わって、それをリズムのようにして暮らしていらっしゃることが伝わってきます。簡単にいえば、とても「カジュアル」な感覚なのです(絵柄がということではありません)。 みなさんが写真を撮ることの喜びが素直な作品として反映されていることは、写真というメディアの至福であるといえそうです。
 そうした中、ニッコール大賞は吉村俊祐さんの「Kaguyahime」が選出されました。一見しますと、テクニカルな作品に思えますが、写真絵本のような素朴な構成で大人のお伽話を楽しんでいらっしゃる。お嬢さんを画面に登場させていると思えます。深い青色だけでイメージ豊かなファンタジー世界を大胆に描ききっています。それらは一昨年の作品の延長でもあり、地元の延岡市でコツコツと素朴に写真に取り組んでいる様子が伺えます。
 もちろん活力を与えてくれるような作品も入賞しています。推選・東輝さんの「今日も朝が来た」の撮影時期はコロナ禍以前ですが、私たちはこうした隣近所のなんでもない風景に支えられて生きてきていること、その尊さを教えられます。相楽執一さんの「神出鬼没」は溢れ出る春の喜びが、広がりと奥行きを伴った画面に見事に表現されています。またコロナ禍直前にミャンマーで写された特選の髙柳光希さんの「日常」も、人々の消息を気にさせる適度な距離感が効いているようです。一方で、特選の島岡章一さんの「鹿の村」はコロナ禍のため一人で村に入りながらも、動物と人間が共存する風土をしっかり確かめつつ正確なシャッターで記録として残しています。
 入賞入選の作品全般にいえることですが、カメラ設定からプリントワークまでを一つの流れ(フローチャート)としてしっかり自己管理されているように思えました。日々の修練はやはり大事なのです。しかしながら、コロナ禍がまだまだ続いていきますと、生活のリズムをいかにとるのかということが第一の課題となってきます。まずは健康に留意し、「写真を撮る」というみなさんならではの大きな支えを無理なく活かしていくことで、きっと光明が見えてくるのではないでしょうか。大賞作品「Kaguyahime」の先にそれが瞬いているように思えてなりません。
 来年のコンテストは70回目を迎えます。希望こそが力なり! 日々の素朴で切実な風景や出来事などを自らの感性を信じつつ撮り続けてみましょう。