第67回ニッコールフォトコンテスト

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第1部 モノクローム

ニッコール大賞
推選
特選
入選・U-31賞
入選
応募点数 8,816点
講評 ハナブサ・リュウ

講評 ハナブサ・リュウ

普遍的で充実した内容の作品

 フォトコンテストの理想的な結果を求めるとすれば、ベテランと新人。組写真と単写真。クラシックな表現と実験的な新しい表現など、バラエティ豊かで相反する作品が入り乱れ、波乱に満ちた展開が期待されます。しかし、こればかりは毎回のことながら、ふたを開けてみないとわらないのが現実です。今回の結果とすれば、例年のごとく、ベテランの作品が目立ちました。また力強い組写真も多く、上位を占めるという、いわば順当な結果になりました。しかし、決して結果に満足していないというわけではありません。SNS上をにぎわすような、ソフトを乱用した人目を引くだけの派手な写真や表面的な見せかけだけのうわついた写真が台頭するのではなく、普遍的で充実した内容のある作品が、認められた結果です。第67回を迎えたニッコールフォトコンテスト、第1部モノクロームの存在意義がしっかり果たせたと感じています。
 輝くニッコール大賞は、荒井俊明さんの「おふくろ」です。荒井さんは第1部モノクロームで、3度目となるニッコール大賞を受賞。さらに第62回ニッコールフォトコンテストでは、長岡賞を受賞された大ベテランです。4枚組の作品は、もう歩けなくなった91歳になる母親にできるだけ寄り添って、今の「おふくろ」への思いを表現しようとしています。すでに他界した父親の肖像や母親が大好きだった、戦地で散った兄の写真を写すことで、少しでも母親に近づこうとする姿勢が見えます。愛情はもちろん、尊敬、感謝、そして、後悔の念が表れています。年を重ねた誰しもが持ち得る、親子関係の何ともいえない情のようなもの、そして、人生の尊さを感じずにはいられません。
 推選を受賞した室田あいさんの「人馬一体」は、ダイナミックな画面構成で、上げ馬神事の人と馬との関わりがよく表現されています。しかし、やや説明的要素が目立つことが惜しまれます。
 特選、山崎秀司さん「田んぼの学校」はのどかな風景の中で、子どもたちの生き生きとした姿を見せてくれます。ただ一つ残念なのは、タイトルにもある「田んぼ」が見えないことです。たむらけんじさんの「旅の終わり」は、旅と人生を重ね合わせた心象風景として、とても魂のこもった表現の強さを感じます。水野伸治さんの「温泉旅館」は、会報フォトコンテストで1席に輝き、ノミネートされた作品です。単写真としての密度の高さと、隅々まで計算された画面づくりの完成度の高さは、天下一品です。丁寧に作品を仕上げる誠意も伝わってきました。
 入選、池厚一郎さんの「黒の旋律」は黒と白のコントラストが美しく、鋭い眼差しで都会のシャープな世界を表現しています。野澤正樹さんの「二十歳の日」は息子さんの20歳の日に、生まれたときの写真を入れ子のように持たせて、記念写真のように撮影しています。そこから見えるのは、親と子の微妙な心のゆらぎや1人の人間として、大きく育った息子への寡黙なメッセージのようです。髙柳光希さんの「Daily life」は、キューバでのスナップショットで、日常をテーマにした作品です。夕方の斜陽のとらえ方が見事で、ディテールの表現や仕上げのプリントの美しさが光っています。24歳の髙柳さんは、U-31賞とのダブル受賞になりました。
 残念ながら、すべての作品の選評は書けませんが、他の入選作品もすべて力作ぞろいでした。来年の応募作品にも期待したいと思います。ぜひ、ご応募ください。お待ちしています。