第66回ニッコールフォトコンテスト

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第1部 モノクローム

ニッコール大賞・長岡賞
推選
準推選
特選
準特選
応募点数 8,543点
講評 小林 紀晴

講評 小林 紀晴

作者と鑑賞者の無言のコミュニケーション

 モノクローム部門は毎年のことですが、ベテランの方の応募が多いのが特徴です。今年も同様に長きにわたり撮影を続けてこられた方々の力作を拝見することができました。
 その一方でここ数年の特徴として、若い方々の優れた作品が増えている点が挙げられます。デジタル化が進んだことにより、フィルム時代とは違った形で新たなモノクロームの世界と出会う機会が増えたからでしょう。フィルムがなくなりつつある今、かつてのモノクロームの世界がその伝統を引き継ぎつつ、姿を変えながら、確実に継承されていることを嬉しく思います。
 厳正なる審査の結果、ニッコール大賞には宮崎 豊さんの「ハプニング」が選ばれました。祭りの際、突然、馬が暴れた場面を撮ったスナップショットです。タイトルの通り、まさに「ハプニング」が見事にとらえられています。とっさの撮影ながらも、構図がしっかりしていることに驚かされます。ヒヤヒヤさせられる場面ですが、見方を変えると躍動的ともいえます。それでいてなぜか画面全体が静止しているように感じられます。馬も、馬の綱を持っている人もピタリと止まって見えます。背景はビルですが、その存在もとても重要な要素となっています。現代と古代、日常と非日常といった対比がより強調されました。
 推選は村上𠮷秋さんの「里から」という組写真です。岩手県奥州市。ここは山間の集落でしょうか。3枚と少ない組みですが、それ以上の広がりを感じさせる作品です。世代、時間、季節、場所、人の交流といったものを強く感じます。生命力も同時に感じさせてくれます。これらのことは、冬に撮られたことと深く関係しているはずです。季節として停滞しているかのようなときに、だからこそ逆に命がまざまざと浮き立ってくるからです。
 準推選に選ばれたのは、福岡育代さんの「夜の片隅」。先ほどの村上さんとは対照的に、都会の街角です。JR中野駅周辺とのことですが、人の気持ちが街の片隅に濃厚に集まってきたように感じられました。魂の叫びとでもいいましょうか、そんなものたちが見事に活写されています。
 ほかにも素晴らしい作品が多くありました。中でも上位に入賞した作品は、どれも人の感情、意思といったものを強く感じさせてくれるものが目立ちました。さらに、温かな目線で人やその地域をめでているのが印象的でした。
 人が身近な人や動物、ものに寄り添いながら生きていくことは、人間の営みにおいて古代から変わらない根源的なことなのでしょう。色のないモノクロームで撮影することで、そのことがより強調され、見る者にもさまざまな感情を喚起させます。撮る者と鑑賞する者の無言のコミュニケーション、それがモノクローム写真の魅力であり、奥深さなのかもしれません。そのことを今回、すべての作品を拝見する中で強く感じました。