第62回ニッコールフォトコンテスト

講評

第1部 モノクローム

「モノクローム」は「単彩画」・「単色画」のことで、写真の世界では「モノクロ写真」と呼ぶことはご存知の通りです。ただ、白と黒だけではありません。その間には限りない濃淡のグレー(階調)が存在するのです。このグレーが「モノクローム」にとって、いかに重要かということもみなさんご存知だと思います。今回の応募作品を拝見して、まず感じたことが「グレーが美しい」ということでした。デジタルが主流になり始めたころは、まだプリンターを使いこなせていないと感じていました。しかし、機器の性能向上と選択肢が増えた出力用紙の効果が相まって、プリントの質が大変高くなったように思います。バライタ印画紙でプリントしたような深みがあり、格調高いものやテーマに合った用紙を選択して作品をより高めようとする熱心な応募者も多く見受けられました。総じて、作品の技術的なレベルはとても向上しました。もちろん応募数では第2 部カラー部門ほどではありませんが、内容はけっして劣ってはいません。むしろ人間の「生きる」ことをテーマにした深い内容の作品が多く見られたことも「モノクローム」ならではと思いました。

さて、第62回を迎えた今年のニッコール大賞に輝いたのは、荒井俊明さんの「里暦」です。孤立した崖の上の小さな集落の物語です。祖先が耕した地を受け継いで生きてきた人びとの営みが4枚組から感じとれます。愛情に満ちた作者のまなざしにとても好感が持てました。心温まるドキュメントです。なお、作者は昨年のモノクローム部門推選「里池」に続いての大賞です。推選、青木竹二郎さんの「川遊びの少年」は、会報フォトコンテストで1席に輝いた作品で、1枚写真としての迫力とモノクロームのディテールの豊かな表現力で、色あせない魅力があります。シャッターチャンスを活かした撮影テクニックと、完璧なプリント技術が完成度を高めています。準推選、渡部鉅太郎さんの「あつい日」は、まったく違う時に撮った写真を3枚組にすることで、新たなイメージの広がりを模索した作品です。組み方として、やや奇をてらった感じを受けますが、結果として、その大胆さが功を奏しています。特選、川上真さんの「片腕のDEMINER」は、カンボジアで地雷除去作業をする片腕の男性が主人公の作品です。4枚組の語り口は静かですが、戦争がまだ終わっていない悲惨な現実を伝える強い意志が感じられました。このようなことが二度と繰り返されないことを祈るばかりです。同じく特選、野呂彰さんの「光景」と山田康さんの「覗き」は組写真が多い中で、共に単写真の強さと存在感を発揮しています。

完結された作品には、ユーモアと写真の面白さを改めて教えられました。ほかの入賞作品も力作ぞろいで、デジタルカラー全盛の今日において、あえてモノクロームで表現しようとする強者たちの情熱と気迫を感じました。やはり今回の作品も組写真が多いという印象を受けましたが、1枚写真の強さを感じられる優れた作品も少なくありませんでした。それぞれの地道な制作意欲が滲み出ていて、本当の「写真力」を見せられた思いです。写真は日常生活に密着していて、ほとんどの人がカメラを持っている時代です。その中で、表現することの喜びを知っているみなさんなのですから、これからも写真をやり続けましょう。来年も期待しています。

講評 ハナブサ・リュウ

第2部 カラー

昨年の授賞式のパーティーで「また来年もこの会場で会えるようがんばりましょうね!」と、笑顔で握手し別れる受賞者のみなさまのうれしそうな姿が脳裏に焼き付いています。写真愛好家なら誰もが憧れるニッコールフォトコンテストの受賞者が今年も決まりました。

今年度のニッコールフォトコンテスト第2部のカラーには20,911枚の応募があり、今年も4部門の中でもっとも多くの作品が集まりました。色の表現や過剰なシャープネスの問題などを注意していた時代が遠い昔のように感じられるほど、近年のカメラ及びプリンター、そしてソフトウエアの新たな開発により、プリントの仕上がりが大幅に安定してきていることを実感します。

しかし機器の進歩に頼る以前に、撮影者として抱いておかなければならないことがあります。それはフィルムカメラにおいても同じことではありますが、何をどう表現したいのかという意思をもって撮影に挑むことです。

この度ニッコール大賞に輝いた塚本達男さんの作品「開発の波」は、佐賀県のある山を走っている時に見つけた光景だそうですが、切り崩された土盛りの上に孤独に建つ一軒家が、現実の姿なのか作られた光景なのか? いつの時代なのか? と審査員全員の目を止め関心が集まるに至った印象強い作品でした。よく見ると、昔風に洗濯物が干されていたり、傍らには鯉のぼりがあげられていたり……。そして写っている人物もレトロなスタイルです。 これは演出だろうか? 例え演出にしても、削られた土地のダイナミックな様とその上にある最後に残された一軒家に寄せる思いは、他人であるわれわれにもいろいろな感情を掻き立たせる力がありました。最後まで土地を売らずに一人住んでいたおじいさんが亡くなり、娘さんが悩んだ末に処分を決められ壊されてしまう前日に撮影されたという、作品の背後にはそのようなドラマがあったそうです。時代の流れとはいえ土地が削られ新たな住宅地が生まれて行くその中で、「季」の記録と、そこに至るまでの家族の心情を1 枚の作品にとじ込めた他に類を見ない力作でした。

そして組写真の応募数は例年同様増加傾向にあります。組写真は小規模な写真展のようなものです。1枚よりもコンセプトや物語性が表現しやすいという利点もありますが、組み方を誤ると他の作品の魅力までも落としかねませんので慎重に構成をしていく必要があります。

推選に選ばれた管野千代子さんの作品「バングラディッシュの子供達」は、そこで暮らす子供達の表情や暮らしを自然体でとらえています。準推選の柴田祥さんの「ありがとう、あけぼの」は、冬という季節が持つ臨場感にドラマが加わり切なさが心に響いてきます。同じく準推薦の元海千紗さんの「新たな一員」はお子様誕生の喜びを家族という世界観の中で、幸せを感じながらカメラで記録する ことの大切さを感じる作品です。その他にもさまざまな力作が選ばれました。

また、カメラの機能がアップしつつ軽量化になっていることは歳を重ねる者にとってはたいへんありがたいことでもあります。軽量化によりストレスを軽減し撮影に集中し、より素晴らしい作品を作ってゆくことができればと願います。それでは次回もぜひ会場でお会いしましょう!

講評 織作 峰子

第3部 ネイチャー

今年4月からニッコールクラブの顧問に就任いたしました。今回初めてニッコールフォトコンテストの審査をさせていただきました。4部門とも見応えある作品ばかりでした。審査には何日もかかり、賞を決めるにあたっては白熱した意見が交わされました。そんな過程で各賞の選ばれたことを記しておきます。

たくさんの美しい作品、力強い作品に出会うことができて、審査の日々は毎日が幸せでした。応募してきたみなさんのヤッタ! という手応えがビシビシと伝わってきました。「いいな」「うらやましいな」「自分もこんな写真を撮ってみたい」と、みなさんが思える作品が並んでいると思います。

ネイチャーとひとまとめになっていますが、生き物、風景などさまざまなシーンが含まれています。確かなテクニックと豊かな感性で完成され、作者にしか撮れない作品が残りました。何日も待って、何回も通って作り上げた作品です。どの作品からも強いメッセージ、またオーラのような心地よい波が打ち寄せてくるようです。

写真って、こんなに面白いのかと改めて思いました。カメラ機材もどんどん進化しています。昨日まで、上手く撮れなかったものが、このカメラなら、こんなに撮れるのだ! という技術の進歩も目覚ましいものがあります。

もちろん、カメラがいいだけで、いい写真が撮れるわけではありません。豊かな感性があって初めて成り立つのが写真の世界です。 

ニッコール大賞の上田正洋さんの「知床の海に魚影踊る」も何日も待って、ようやくモノにした1枚です。感度を上げ、速いシャッターと絞り込みにより、バックの国後島までハッキリ写し出しています。完璧といえる条件に恵まれ、透明な波の中にサケ、マス類が手に取るように写り、一瞬を永遠に閉じ込めています。

秋山ゆき子さんの「生存競争」は都内で撮られたオオタカの生態ですが、しぐさや鳥の目線がハッキリとしており作者の被写体への愛情が伝わってくる秀作です。

今井寛治さんの「クジラの棲むところ」は、深いブルーの世界に巨大なクジラが迫ってくる雄大な作品です。ドキドキしました。

瀬戸口義継さんの「乱舞」はデジタルならではの作品です。十数枚もの写真をコンポジット合成しています。星や蛍の撮影に有効なテクニックですが、目に見えない夢の世界を写し出しています。

柳瀬真さんの「風の日」。1本の桜を主人公に四季を通じたドラマとして描いています。作者の情熱が伝わってきます。吉田捷男さんの「海からの贈り物」はキタキツネの息遣いが聞こえてきそうなシャープさが魅力です。

ほのぼのとした気持ちになったり、緊張感を感じたり、オッーと感動したり、エッと驚いたりワクワクさせてくれる作品がズラリと並びました。じっくりと味わってください。

講評 三好 和義

第4部 U-31

今年度の第4 部U-31部門の審査は写真家・小林紀晴さんをゲストにお迎えして行なわれました。部門応募総数は8,834点。ここでもWeb応募作品が着実に増えているのはもちろんですが、高校生のみなさんの参加も年を追うごとに活発になってきているという経緯があります。そこではむしろ「プリント」が重要な役割を果たし、積極的なビジュアル・コミュニケーションが友人たちを通して行なわれてきているのではないでしょうか。第4部の面白いところは、そうした若いみなさんたちの写真を楽しむ全体像が豊かに広がっていることを直接感じさせる点です。

しかし、競い合うということを意識し過ぎてしまうせいか、今回の応募作品を俯瞰しますと、破綻のない(あるいは無難な)絵づくりに終始したものも多く、こちらを激しく揺さぶってくるような切々とした作品や、写真とはなにかといった命題を想起させるような、純粋で意欲的な試みの作品が目に飛び込んでくる機会が少なかったともいえます。技術的な及第点は大事なのですが、表現というものの「教科書」はないのですから、もっと大胆に、自由に写真と格闘してもらいたいと思います。

さて、そうはいってもさすがに入賞作品はそれぞれ個性的で、しっかり写真に取り組んでいることが認められるものばかりです。

まずニッコール大賞に選ばれた山畑俊樹さんの「西岸地区」は、ヨルダン川西岸地区でイスラエルによる封鎖や分断で土地を奪われ、武力行使の末に傷つき苦しんでいるパレスチナ人たちの悲しみが抑制されたフレーミングの中に浮かび上がってくる作品です。ここまで切り詰めた撮り方は現地の日常をしっかり理解し見ているからにほかなりません。「世界」と対峙していく若者のさらなる視点が ここから期待できます。

推選の比嘉緩奈さんの「僕らのまち」も風土に根ざした愛着あるショットの連なり。高校写真部での活躍が卒業後にさっそく開花した点をうれしく思います。

そして準推選の林愛美さんの「春風少女」はまさにその現役高校生の写真への夢を、効果的なブレや直感的な色調として美しくまとめています。

また特選の大嶽更紗さんの「ぼく、たもつ。64歳。」は普段のウサギさんへの愛おしさを、四季を通して美しく描いています。一方で桑田有理さんの「これからも」と深野達也さんの「春めく里」は、家族や隣人へのやさしいまなざしを素朴なシャッターに託しています。他者とどのように向き合うかという、カメラを持つ私たちの基本を思わせます。

そのほか、今回も入賞作品は圧倒的に組写真が多いのですが、デジタルカメラの特性をうまく利用したユニークな単写真も何枚か選に入っています。若いみなさんたちにとって、単写真は広告表現に近いかもしれませんが、「1枚で決める! 」というのもなかなか緊張感のある表現世界です。そこからは、自分は今なにを見つめているのか?という問いかけも生まれるはず。のびのびと斬新に、来年はもっともっと大暴れしてみましょう。

講評 大西 みつぐ