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大阪ニコンサロン


第7回三木淳賞受賞作品展・三木淳賞奨励賞展
土屋 育子展 [IMAGES OF TRUST] (三木淳賞)
カモ マサユキ展 [civilized society] (三木淳賞奨励賞)
中嶋 仁司展 [Among the Usual] (三木淳賞奨励賞)
1/26(木)~1/31(火)
10:00~18:00







[IMAGES OF TRUST]

<土屋 育子展内容>
イギリス最北東部の州ノーサンブランドは、北海に面したスコットランドとの国境の地。同州で作者は、21世紀初頭における医療の移り変わりと人々との関係を記録するため、カメラ片手に2年の歳月をかけて、約50ヶ所に点在する医療施設(病院や村の診療所など)を訪問してきた。撮影過程において作者は、医療を提供する側と受ける側の双方から話を聞き信頼を築くことで、彼らの肖像や医療現場での様子を傍観者ではない立場から捉えるよう試みてきた。
さらに作者は、病棟や病室といった看護・介護の現場に密着することで、‘人と人との触れ合い’に着目、医療と人々の関係性について写真を通じ再考察している。モノクロ約35点。



<授賞理由>
作者は東京工芸大学卒業後、渡英しさらなる写真の勉強を続けるうち、英国の女性写真家「ジョー・スペンス」の仕事に深く共鳴し、「フォトセラピー」について考えはじめる。そして、医療の現場を写真を通じて再考察するという目的のため、2001年から03年まで50箇所に及ぶノーサンブリア州の医療施設を訪問し撮影を行った。
いちカメラマンが医療の現場をルポルタージュするというスタイルでいえば、今なにがここで問題になっているのか、あるいは、現場の「状況」といったものを調査分析し、かつ克明に記録していくという方法論がとられることがしばしばだ。彼女もテキストで書いているように、そこでは「むき出しの人間ドラマ」が繰り返されているという事実もある。その結果として「迫真の映像」が描き出す世界は常に私たちにリアリスティックな現在というものを提供してくれる。しかし、彼女の「現場」はまず「トラスト=信頼」という撮影以前の態度表明、リレーションシップからはじまっている。そのせいか、ここに登場する多くの人々、患者も医師も電気係もクリーニングスタッフも等しく平穏な表情を見せている。しかし、現実的には深刻で様々な問題が向こう側に存在しているはずだということも写真はしっかり伝えている。そして、「写真に何ができるのだろうか」という彼女の素朴な反芻は、写真づくりのための写真ではなく、人間が生きていくために写真の力を信じていきたいというまなざしの在りようであり、私たちに大きな勇気を与えてくれる。
個にこだわり、個の連帯の中で「ワタシ」を見いだし、そこから「世界」へと歩みはじめたいという若い人たちの写真行為も正直な方法だ。しかし、ここにきて、「フォトセラピー」をはじめとして、写真で地域社会などにも直接的に関わっていきたいという積極的な意志を示す若い人たちが出てきたことは大きな収穫であろう。土屋育子氏の「IMAGES OF TRUST」を高く評価したい。



  <作者のプロフィール>
土屋 育子(ツチヤ イクコ)
1976年静岡県生まれ。98年東京工芸大学芸術学部映像学科卒業。2000年英国ノッティンガムトレント大学芸術学部写真学科修士課程修了。01~03年英国ノーサンブリア大学JO SPENCE奨学生。現在、同大学博士課程(写真専攻)在学中。02年、英国‘The Jack Jackson Award 2000’‘The Observer Hodge Photographic Awards’受賞





[civilized society]

<カモ マサユキ展>
タイトルの「civilized society」は、日本語で「文明社会」を意味する言葉である。
現在の日本は物にあふれ、世界の中においても豊かな暮らしをしている。しかし現代の日本人は、日々の忙しさや自分自身の様々な事柄に毎日追われていて、他のことに目を向けることができないでいる。
あなたは自分のこと以外に無関心になってはいないだろうか。――
作者は今まで電気がどこから来るのか、また自分の出したゴミがどこへ運ばれるのかなど、考えたこともなかった。しかしそのために犠牲になっているものがあるならば、それを知っておくべきではないだろうかと思う。
私たちは豊かになるために様々な物を造り、世界有数の文明国になることができた。しかし本当にそれでよかったのだろうか。今さら過去をうらやんでも昔に戻ることはできないが、このまま進みつづけた先にはいったい何があるのだろうか。
展示する作品に写し出されている風景は、自然に囲まれ、一見綺麗な雰囲気である。しかしその半面で多くの物たちが犠牲となっている。そして今現在もどこかでこのような風景が生まれ続けている。カラー27点。



<授賞理由>
80年代に日本の写真表現にも強い影響力を持つに至った「NEWCOLOR」。JOHN PFAHLやJOEL STERNFELDなどのアメリカン・ランドスケープを彷彿とさせるものがあり、ある意味で現代の若い写真家の正統的な風景観にもなっている。見方を変えれば、日本の状況そのものが、まさにアメリカ的な風景に近づいてきてしまったことをも意味する。タイトルにこめられた批評性も対象に備わっている情緒性も抑制させつつ、極めて正確なフレームのうちに撮影された力作であり、私たちのすぐ隣にあるところの「環境」への素朴な問いかけとして評価したい。



  <作者のプロフィール>
1981年福岡県生まれ。2000年九州産業大学芸術学部写真学科入学。04年同校卒業。卒業後、六本木スタジオへ入社。





[Among the Usual]

<中嶋 仁司写真展>
作者には、スポットライトを当てられたかのように、その被写体が風景の中で浮かび上がって見えた。日常、それらは人間によってある特定の理由からある特定の名前で呼ばれているが、もしその理由や名前が除かれたならば、いったい何であるのかという疑問にたどりつく。
夜昼問わず、何度も同じ道をドライブしていて、あるふとした瞬間にそれらと巡り会ったというよりは、普段何度も目にしていたけれども、ある時突然、それらの放つ微細なエナジーや、独自の美しさ、奇妙さに気付かされ、作者はシャッターを押した。
それらは、ある特定の場所や特別の人間しか立ち入ることのできない場所にあるのではなく、我々が生活している日常の風景の中にあった。
8×10インチ大型カメラにより3年間アメリカで撮影した作品。今回は、一部の作品をスキャニングし、コンピュータによって処理したプリント制作を試みた。モノクロ30点。



<授賞理由>
典型としての風景を切り取っていく場合、大型カメラで達成される細やかな描写力は、写真群をより等質なものへと、あるいは意味を剥奪させて、私たちの眼前に差し出されていく。中嶋氏の作品はそれを単純な方法論として継承していくものでなく、案外アプリオリな「好奇心」に委ねられ、撮影行為からフィニッシュワークまで、一貫した独自の美学に基づき慎重な作業として進められている。三木淳賞の土屋育子氏と同じように、日本を飛び出し、海外でさらに写真を学び、幾重にも感性や表現試行に磨きをかけていったその成果が見てとれる。オーソドックスながらも完成度の高い作品である。



  <作者のプロフィール>
1977年神奈川県生まれ。99年東京綜合写真専門学校卒業。2003年Ohio Institute of Photography & Technology卒業。
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