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第44回(2019年度) 伊奈信男賞
岩根 愛「KIPUKA」

受賞作品内容

裸足で立ち、太鼓を打つと、その鼓動は体幹から土へと響きわたる。
繰り返す鼓動に肉体をまかせ踊り続けると、
心臓は掴まれ、やがて自我は剥がれ落ち、
土から目覚めた、自分に連なるものに呑み込まれ、一体となる。

福島からハワイへ、
その唄が渡ってから1世紀を過ぎて、
同じ唄が避難者とともに、故郷を追われた。

―――KIPUKA
溶岩流の焼け跡の植物、再生の源となる「新しい命の場所」を意味するハワイ語、
この言葉をずっと頼りに、私はハワイと福島への旅を続けた。

日系移民が築いたサトウキビ畑の町はあとかたもなく消え、
福島第1原発付近から住人が消えた。
消失と喪失の繰り返しの中で生き続ける唄は、
生き残った私たちの命の種子のように、
ふるさとを離れても再び広がり、
黒い大地を森にする。
(岩根 愛)

授賞理由

岩根愛さんは2006年頃から「ハワイにおける日系文化」に強い関心を抱き、撮影・取材を続けてきた。その過程で、日系移民たちが毎年夏に開催するBon Dance(盆踊り)で唄い踊られるのが、相馬盆唄を元歌にした「フクシマオンド」であることを知り、東日本大震災後に福島県三春町にも撮影の拠点を置くようになった。こうして、ハワイと福島との人的、文化的交流をテーマとする、スケールの大きなドキュメンタリー写真のプロジェクト「KIPUKA」が少しずつ形をとっていった。

10年以上の期間をかけた労作である「KIPUKA」は、2018年10月~11月に銀座ニコンサロンで、11月~12月には大阪ニコンサロンで展示され、同名の写真集も青幻舎から刊行された。ニコンサロンの展示会場は、ハワイと福島の盆踊りの踊り手たちをクローズアップで捉えた写真群を中心とする二つのパートに分けられ、その間を「サーカットカメラ」という360度の大画面を撮影できるパノラマカメラによる、ハワイと福島のモノクロームの風景写真で繋いでいた。その緊密に練り上げられた会場構成によって、岩根さんが溶岩の焼け跡に生えた植物を意味するという「KIPUKA」という言葉に託した、ハワイ日系移民の苦難の歴史を見つめつつ、福島の再生を願う思いがしっかりと伝わってきた。

「KIPUKA」はニコンサロンでの展示の年間最優秀作にふさわしい質と内容を備えており、岩根さんの写真家としての活動の節目となる仕事である。今後もさらに精進を重ね、素晴らしい作品を発表されることを期待したい。

(選評・飯沢 耕太郎)

プロフィール

岩根 愛(イワネ アイ)

1975年東京都生まれ。写真家。

2006年以降、ハワイの日系文化を注視し、福島との関連をテーマに12年をかけて撮影。初の写真集『KIPUKA』で第44回木村伊兵衛写真賞受賞。著書に『キプカへの旅』(太田出版)『ハワイ島の ボンダンス』(福音館)など。

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