Nikon Imaging
Japan
At the heart of the image.

ザ・ワークス Vol.46 ニコンFXフォーマットCMOSセンサー

デジタルカメラは、レンズを通った被写体の光を撮像素子が受け取り、電気信号に変換してメモリカードに記録します。ニコンがデジタル一眼レフカメラ「D3」用に独自に開発した大型撮像素子「FXフォーマットCMOSセンサー」は、豊かな階調表現や高精細な画像など、今までにない高いクオリティの画質を実現しました。その新技術の魅力や誕生秘話などを、開発担当者が紹介します。

武石 雅人(たけいし・まさと)

映像カンパニー 開発本部 第一開発部 第一開発課
1988年入社。当初は、撮像管やCCDを使った産業用のハイビジョンカメラを手掛け、その後、顕微鏡用のデジタルカメラの開発に従事。5年前より、デジタル一眼レフカメラを担当。D3とD700では、入社時より一貫して撮像関係に携わってきた手腕を発揮し、FXフォーマットCMOSセンサー開発に関わった。趣味はバイクで、最近は乗るよりももっぱらマシンいじりが楽しみという、根っからのエンジニア

フィルムサイズの撮像素子を求める声からスタート

D3の発売当初から話題になったFXフォーマットのCMOSセンサーですが、主な特徴を教えてください。

撮像素子を手に、製品化にまつわ
るエピソードを語る武石さん

武石 「外観上は、センサーのサイズが35mm銀塩フィルム並に大きいということです。性能面では、常用最高ISO感度ISO6400を達成した高感度特性、そして9コマ/秒を実現する高速動作。さらに、暗部から明部までなめらかな階調描写を可能にした広いダイナミックレンジ性能。この4点が主な特徴になります。」

どのような状況で誕生したのでしょうか。開発背景を教えてください。

武石 「ニコンではデジタル一眼レフカメラD1発売以来、DXフォーマットのセンサーを搭載してきましたが、35mmの銀塩フィルムと同じようなレンズの画角やボケ味が欲しい、フィルムと同じような感覚で撮りたい、というご要望も頂きまして、いわゆるフルサイズセンサー(FXフォーマットセンサー)の検討が始まりました。」

製品化するにあたってのいきさつはどうでしたか。

武石 「35mmフルサイズの撮像素子が出来たとして、それを搭載したカメラが成り立つのかを最初に検討しました。銀塩フィルムは薄いシート状ですが、撮像素子はICの一種です。ICのパッケージは、厚み、幅、高さ共にフィルム以上の大きさになります。さらに光学ローパスフィルタや赤外カットフィルタなどの光学部品も撮像素子とシャッターの間に入ります。それらをカメラボディ内にきちんと収めなければなりません。撮影レンズからの光が撮像素子の隅々まで届くかなど、細かい所までカメラボディ設計担当やレンズ設計担当と検討を繰り返した結果、可能であることがわかりました。これと同時に撮像素子の仕様検討も進めました。まずはフルサイズと呼べる受光面サイズの検討から始め、記録画素サイズを35mmフィルムとほぼ同じにすることにしました。次に画像性能の見積もりを十分に行い、フルサイズセンサーのメリットを高感度側に振ることで、D3のコンセプトと一致させた、という経緯があります。」

それはどのようなコンセプトだったのでしょうか。

武石 「D3のターゲット層である、プロやハイアマチュアの方々のためにどの様な機材を提供すべきかを検討した結果、1台でどんなシーンでも使えることが重要であると考えました。1200万画素あれば、ほとんどの場面で対応できます。さらに、スポーツや報道、動物の生態写真など、高感度・高感連写性能が要求される場面も重視しました。これらを総合的に検討し、FXフォーマット、1200万画素、ISO6400というバランスにいたっています。」

徹底した高性能へのこだわりを元に、マイクロレンズの工夫で集光性を大幅に向上

画素のサイズを大きくして1200万画素にした、という部分において、はじめから目標値はあったのでしょうか。

武石 「撮像素子を大きくすることで2つの方向性が生まれます。高感度化と高画素化です。 D3に搭載することが決まった際に、D3のコンセプトとマッチするのは高感度特性の方だという結論に到達し、D300で使用しているDXフォーマットと同じ1200万画素を採用しました。 」

高画素化せずに画素サイズを大きくしたという所で、意外な方向にきたなと感じたのですが。

武石 「一眼レフデジタルカメラでもコンパクトデジタルカメラでもそうですが、画素数はどこまで必要なのか?という声は社内からもユーザーからもありました。画素数を多くすればするほど画像ファイル容量が増大し、コンピューター処理への負担が増してきます。画素数競争はどこまで続くのか?といった疑問の声に対しての1200万画素というのが、ニコンの出した1つの答えです。これは、A4見開きで印刷に充分耐えうる画素数なのです。 」

DXフォーマットとFXフォーマットの違いはどんな所でしょうか。

DXフォーマット(右)と比較すると、FXフォーマ
ットの大きさが歴然

武石 「DXフォーマットセンサーとFXフォーマットセンサーでは、基本構造や読み出し方式に差はありません。しかし、センサーの大きさによる設計の自由度の違いがあります。もしDXとFXが同じ画素数であれば、FXは画素サイズを大きくできる。画素サイズが大きければ、光をたくさん集め、電気信号として溜めることができるので、感度やダイナミックレンジの拡大には有利です。あるいは、DXとFXで画素サイズを同じにすれば、画素数を増やして、より高い解像度を得ることができます。つまり、将来的には高解像の方にふることも可能なわけです。こう言うと、FXが万能のように聞こえるかもしれませんが、コストと性能、カメラサイズのバランスを考えると、DXフォーマットの方が有利な面もあります。」

FXの方が自由度は高く、可能性が広いということですね。その分技術的に大変だった部分もあると思うのですが。

武石 「センサーが大きくなった分、撮影レンズからの光を画面周辺の画素へ効率よく集めることが難しくなります。センサー周辺には、DXの場合に比べ、大きく傾いた光が入ってきます。撮影レンズからの傾いた光を無駄なく集めるための設計、シミュレーション、実験を繰り返し行いました。 」

具体的にはどのような技術で解決していったのでしょうか。

武石 「画素1つ1つに載せられるマイクロレンズとフォトダイオードの位置関係を工夫して、撮影レンズから傾いた光が入ってきてもフォトダイオード上に集光できるようにしています。フォトダイオードは光を電気信号として蓄える働きをしますので、センサー周辺部でも効率よく集光することが重要になります。具体的には、マイクロレンズとフォトダイオードの中心位置の関係、センサーチップ薄型化による距離関係の最適化です。また、ギャップレスマイクロレンズとインナーレンズを採用し、センサーに対してまっすぐに入射する光も斜めから入射する光も、最小のロスでフォトダイオードに導いています。これらの技術によって、周辺部でも光軸の角度の影響を受けないように仕上げています。 」