Nikon Imaging
Japan
At the heart of the image.

ザ・ワークス Vol.39 クールピクスSシリーズの新デザイン

スタイリッシュで高級感あふれるデザインが市場で評判のクールピクスSシリーズ。流れるようなフォルムが特徴の「ウェーブサーフェスデザイン」をはじめとする独自の工夫が様々に盛り込まれたスリムボディーの魅力を、Sシリーズの立ち上げ時から開発に携わるインダストリアルデザイナーの視点でご紹介します。

橋本 信雄 (はしもと・のぶお)

映像カンパニー
デザイン部プロダクトデザイン課
1988年入社。プロダクトデザイナーとして、コンパクトカメラ、一眼レフカメラ、双眼鏡、野外観察用顕微鏡「ファーブル」シリーズなどを手がける。現在は、主にクールピクスSシリーズのデザインを担当。「商品企画の段階から携わった『ファーブル』」の経験がSシリーズの立ち上げに活かされた」と語るように、単なる美しさにとどまらず市場の動向を視野に入れたデザイン開発を身上とする。プライベートでは、フライフィッシングとジャズを楽しむ。

価値基軸をデザインにおいた、新発想のクールピクス。デザイナーの熱意が、プロジェクトを動かした。

橋本さんがデザインを担当されているクールピクスSシリーズは、最初のS1発売時に従来のクールピクスシリーズとは外観のイメージが全く違うとういことで話題になりましたね。まずは、そのような新しい方向性のデザインを打ち出すことになった経緯をお話しいただけますか?

「Sシリーズ導入以前は、クールピクスのデザインというと「ナイスグリップ」のフォルムがブランドの顔として市場に定着していました。ニコンは元来一眼レフカメラのイメージが強いこともあり、撮りやすさ・持ちやすさを印象づける「ナイスグリップ」で他社との差別化を図っていこうという流れが続いていたのですが、ファッショナブルでスリムなカメラやカメラ付き携帯電話が市場に普及してくるにつれ、カメラというものに対する新しい価値観が特にデジタルの市場において生まれつつあるのが感じられるようになりました。デジタルカメラを扱っていく以上、ニコンとしてもその動きに対応していく必要があるのではないかという思いが強くなり、小型でファッショナブルなカメラのデザインを社内で色々提案しはじめたのが、開発のきっかけとなりました。」

Sシリーズ開発の原点となった提案
モデルとスケッチ画

デザイン主導でプロジェクトがはじまったということですか?

「そうですね。社内の人たちを動かすために最初はいくつかの提案モデルをつくりました。極端に小ささを重視したデザインを作ってみたり。ただ、いくらデザインの提案のためとは言っても、やみくもに形だけを追求していたのでは人は動いてくれません。先ほどの小ささを重視したデザインを例にすると、「この大きさにするために光学系はこうしたらどうだ。」というような技術的な面まで視野に入れたアプローチをしていくことで、技術者たちを巻き込んでプロジェクトをスタートさせることが出来ました。」

なるほど。

「さらに、最初から製品の「世界観」を強く意識していました。ニコンと言うとどうしても「頑丈」、「プロ向き」というイメージが強く、ファッショナブルからはほど遠い感じがしてしまうため、新しい世界観をどう打ち出していくかということをマーケッターたちと知恵を絞りました。例えばインテリアブランドとのコラボを想定したイメージパネル作成もそのひとつです。」

クールピクスのロゴも新しくなりましたね。

「従来とは違う新しいクールピクスを作るんだという気持ちが強く、最初はニコンのブランド名をボディーに出すのを止めようと提案しましたが、これはさすがに却下されました。話し合いをしていく中で、資産であるブランド名のニコンは大切にしようという方向で落ち着きましたが、クールピクスのロゴだけはシャープな印象の細い文字に変えました。」

進化を続けるSシリーズ。最新の「ウェーブサーフェスデザイン」のテーマは、美しさと機能性の両立。

現在ではSシリーズのデザインは、S5から導入された「ウェーブサーフェスデザイン」に代表されるようになっていますが、この「ウェーブサーフェスデザイン」はどのように生まれたのですか?

「Sシリーズ立ち上げ時の他社のカメラデザインには、「メカっぽい」、「シャープ」といったキーワードでくくれるものが多く見られました。それに対し、S1は「温かさ」、「かわいさ」、「手のひらへのなじみやすさ」、「柔らかさ」、「優しさ」などを追求し、独自性を打ち出そうとしています。S5導入にあたってデザインの新奇性が必要であると考え、S1で追求したSシリーズのアイデンティティーは残しながら成長を感じさせる雰囲気を醸し出すにはどうしたらいいかということで色々考えました。」

具体的にはどのような特徴があるのでしょう?

「例えば、「優しさ」を「エレガント」に昇華させるためには、などいくつかテーマを決めていくうちに、直線的なS1のフォルムをベースに見直してみようということになり、デザインに取りかかりました。スリムで直線的なそれまでの形状は、携帯性の点では良いのですが、撮影時には滑りやすく持ちづらいというデメリットがありました。解決策として一番に思い付くのはグリップをつけるということですが、それではシンプルで柔らかな形状というSシリーズの特徴が消えてしまう。シンプルなフォルムはそのままに何とか持ちやすさを実現できないかと思いながら手持ちの資料を引っくり返していたところ、S1の開発よりもさらに前に自分が書いたラフスケッチに、持ち手の部分を流線状にすることで滑りにくく、ホールド性を考慮したデザインが見つかりました。それを元に現在の「ウェーブサーフェスデザイン」が生まれたのですが、「シンプルで持ちやすいデザインというのがいつも自分の頭の片隅にあったんだなぁ」とスケッチを見つけた時には感慨深かったですね。」

ラフスケッチを描いたり、デザインを生み出したりといった過程において、インスピレーションの源になるのはどういうものが多いですか?

「家具をはじめとするインテリア関係のものは良く参考にしますね。例えば、純粋な美しさを追求した椅子には、その美しさが形として現れながら、なおかつとても座りやすいものが多い。そういったものに惹かれます。」

シンプルで美しいフォルムと手に
なじみ快適に撮影できる操作性
の両立を追求したウェーブ
サーフェスデザイン。

Sシリーズのデザインコンセプト自体が従来のクールピクスとは一線を画すファッショナブルさの追求、というお話も先ほどありましたが、「ウェーブサーフェスデザイン」の開発にあたっても、カメラっぽさの排除ということは意識されていたのでしょうか?

「携帯電話で写真や動画を見るという行為が普及したことで、カメラの持つ役割にも、従来の「撮る」に加え、「画像・映像の持ち運び」という要素がプラスされました。そういった時代の流れを考え、「撮る」ことを最優先としたこれまでのいわゆる「カメラらしい」デザインにとらわれる必然性はないのではないか、というところから生まれたのがSシリーズです。その発展形である「ウェーブサーフェスデザイン」の開発においても、カメラっぽくない新しいテイストということは意識しました。」

ただやはりカメラである以上、「撮る」機能の充実も求められるわけですよね。そういった機能性・使い勝手の良さとデザインとしての美しさを両立していくためには、いろいろなご苦労があるのではないですか?

「当然、考慮しなければならないことはたくさんあります。「ウェーブサーフェスデザイン」でいうと、フォルムとしてはできるだけ薄くしたいという思いがまず最初にありました。でも実際には、レンズの鏡筒の長さと液晶の厚さを合わせた厚みというのは必ず確保されなければならない。自ずと制限がでてきてしまうわけです。そこから試行錯誤を繰り返すうちに、レンズと液晶が重なっていない部分についてはもう少し薄くできるのではないかというアイディアが浮かんできて、これはグリップを滑らなくするための流線型というコンセプトにもマッチするぞ、と。そこで、今度はその薄さを実現するための技術的な施策を設計者と一緒に考えるという長いプロセスが、デザインの完成までには必要でした。」