Nikon Imaging
Japan
At the heart of the image.

ザ・ワークス Vol.38 手ブレ補正(VR: Vibration Reduction)技術

デジタルカメラの高性能化が進むにつれて、注目度が高まっている手ブレ補正機能。ニコンは1994年にいち早く独自の手ブレ補正技術であるVR(Vibration Reduction)機能を搭載した35mmフィルムコンパクトカメラを発売し、長年にわたり市場での高い評価を得て来ました。VR技術の開発に携わる技術者へのインタビューを通して、その高性能と信頼性の秘密に迫ります。

臼井 一利 (うすい・かずとし)

映像カンパニー開発統括部第二開発部第三開発課
1989年入社後、情報機器事業室に配属。光磁気ディスクの開発に5年程携わる。映像カンパニーに異動後は、手ブレ補正技術の開発一筋。既に12年を数える。プライベートではVR搭載レンズを使って、愛犬の撮影を楽しんでいる。趣味はパラグライダー。

世界に先駆け、手ブレ補正機能を銀塩カメラに搭載。使い勝手の良さを追求し、築かれた進化の歴史。

数々の進化の歴史を経て開発され
た最新のVR搭載レンズたち。

今日は、手ブレ補正機能に関するニコンの取り組みについていろいろお話をうかがえるということですが、まずはニコン独自のVR機能の仕組みを簡単にご説明いただけますか?

「はい、まず手ブレといわれるものはカメラに加わる揺れ、振動により、露光中にフィルムまたはCCDなどの撮像素子上で像が移動し、不鮮明な画像になってしまう現象です。ニコンでは、ピッチング(上下)方向とヨーイング(左右)方向のブレをレンズ内の二つのセンサーを用いて検知し、高速演算することで、露光時のブレの方向と大きさを検出。その結果を用いてブレ補正光学系をリニアモーターで駆動し、リアルタイムで像の動きを軽減する光学式手ブレ補正機構を採用しています。」

最近、デジタルカメラの広告等でよく目にするようになってきた機能ですが、ニコンではフィルムカメラの時代からVR機能を搭載した製品を発売していますよね?

「ニコンの製品で最初に手ブレ補正機能を搭載した機種は、1994年発売のNikonズーム700VR QDという35mmフィルムコンパクトカメラです。光学式手ブレ補正を採用した銀塩カメラとしては世界初ということで、当時は話題になりました。 ビデオカメラで手ブレ補正をうたった製品はすでに市場にもありましたが、銀塩カメラとしてはかなり画期的な取り組みだったと思います。次にこの機能を搭載した製品が、2000年発売の一眼レフ用交換レンズ、AI AF VR Zoom-Nikkor ED 80-400mm F4.5-5.6Dになります。シャッターボタン半押し中から手ブレ補正の機能が作動しているモードと、露光中のみ機能が作動するモードの2種あるところが、現在のニコンのVR搭載製品との大きな違いになります。」

現在はそういった切り替えのモードがないということですか?

「そうですね。実は、手ブレ補正機能を搭載しているコンパクトタイプのデジタルカメラにおいては現在でもこのモードの分け方が一般的なのですが、ニコンでは、ファインダーで防振効果が得られないのは不便だという考え方から、この機種以降に発売された製品では、全て半押し中から手ブレ補正の機能を作動させるように設計しています。そして、AF-S VR Zoom-Nikkor ED 70-200mm F2.8G (IF)からは、車上撮影時などの手ブレ軽減に有効な「アクティブモード」というモードを採用しました。その後、三脚ブレの補正モードを搭載したAF-S VR Zoom-Nikkor ED 200-400mm F4G (IF)、デジタル一眼レフカメラ専用のAF-S DX VR Zoom Nikkor ED 18-200mm F3.5-5.6G (IF) などを含む数々の交換レンズにVR機能を搭載しています。AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm F3.5-5.6G (IF) では、性能をさらに進化させた次世代手ブレ補正VRIIを採用してシャッタースピード約4段分の手ブレ補正効果の実現に、世界で初めて成功しました。」

単なる手ブレ補正にとどまらず、フォトグラファーの意図を活かすことを重視。独自の技術にこめられた開発者のこだわり。

Nikonズーム700VR QDの発売から10年あまりで、既にいろいろな進化を辿って来たという印象ですが、この手ブレ補正技術に関してのニコンならではのこだわり等あれば教えてください。

「まずは、半押し中と露光中でブレの補正方法を変えていることがあげられます。さらに露光前に一旦レンズをセンタリングすることで補正効果を強めるというのも、他社には見られない独自の方式です。この2点は、ニコンの交換レンズとして初めて手ブレ補正機能を搭載したAI AF VR Zoom-Nikkor ED 80-400mm F4.5-5.6Dから変わらない、ニコンのVR機構の大きな特長です。」

その特長はフォトグラファーにとってどんなメリットになるのでしょうか?

シャッタースピード約4段分という手ブレ軽減効果を実現
する次世代手ブレ補正機構VRII。安定した性能の一端
を担うのが新採用のデバイス。

「写真の仕上がりに影響を及ぼすのは露光中の手ブレ補正です。ただこの露光中の補正に最適な方式を半押しの際の補正にも適用しようとすると、ファインダーから見える画像に影響が出てしまう。ファインダー上の画像が不自然になり、被写体が捉えにくくなってしまうのです。いくら仕上がりが良くても撮影時にストレスが感じられるようであれば、フォトグラファーにとって使い勝手が良いとは言えないのではないか、というのがニコンの考え方です。仕上がり時のみでなく、ファインダーを通して見た時にも自然に画像を捉えられるようにしたいという思いから、半押し時、露光時、それぞれに最適な補正方式を開発し、それを組み合わせました。」

なるほど。撮影時に仕上がりの写真のイメージをきちんと持てるかは、フォトグラファーにとってとても重要ですからね。

「そうですね。さらに、フォトグラファーの意図をできるだけ写真に反映していくための工夫もいろいろしているんですよ。流し撮りなどカメラの動きを検知して様々な判断を下しながら、状況に応じた細かい補正を行っています。」

現在ではVRIIという機構を採用してさらに性能も進化しているとうかがっていますが、具体的にはどういった進歩があるのでしょう?

「カメラの揺れに対する周波数帯域の低限を大きく広げたことにより、シャッタースピードをかなり遅く設定している場合でも防振効果が得られるようになりました。約4段分の手ブレ軽減効果ということで、ほとんどの撮影条件がカバーできていると思います。開発時のテスト撮影では、日がすっかり落ちてからでなければ約4段分の効果測定ができず、夜中にかけて撮影を繰り返す日々がしばらく続きました。」

進化を実現できた大きな要因というのはどこにありますか?

「一番大きく変わったのはセンサーですね。非常に安定した性能で遅い動きまで逃さず感知する、振動子に水晶を使ったデバイスをVRIIから採用しました。ただ、まったく新しいデバイスを搭載し、安定した性能を実現するにはいろいろと苦労もありました。」