Nikon Imaging
Japan
At the heart of the image.

ザ・ワークス Vol.36 測光技術

写真の表現力を高めるために欠かすことのできない光のコントロール。多様な光の状況に対応して高い精度を発揮することでフィルムカメラの時代から高い評価を得てきたニコンの測光技術について、開発者の視点からご紹介します。

村松 勝 (むらまつ・まさる)

映像カンパニー歌川研究室所属
1982年入社後、カメラ設計部に配属。以後、カメラの要素技術の開発担当として、測光、AFおよび手ブレ補正関連の技術開発に携わる。プライベートでは、D100、FM2、COOLPIX4200を愛用し、趣味の山登りの際には仲間の写真や風景写真を撮影して楽しんでいる。

精度の高い露出制御を求めて。 常に先端を走り続けるこだわりの技術開発。

ニコンならではの技術を凝縮し、
優れた精度を実現する1005分割
RGBセンサー。

今日は、精度の高さに定評のあるニコンの測光技術についていろいろとうかがえるということですが、まずはその発展の歴史についてお話いただけますか。

「最初の測光システムはニコンF時代の外光式の露出計でしたが、他メーカーのシャッターダイヤルのみに連動したシステムに対し、絞りとシャッター速度の両方に連動するシステムで、使い勝手を追求しました。TTL測光の時代に入ると、天空の影響を受けにくくするため画面中央に感度の山を持ってくる「中央部重点測光」を実現しました。これは他メーカーの追随もあり、一時はTTL測光の定番となっています。ニコンでもF3までこの技術を用いていましたが、更なる精度を求め、画面を5つの領域に分割して測光を行い、それをカメラに搭載したマイクロコンピューターでパターンに分類し、それぞれに最適な露出になるように調整する「5分割測光システム」を世界に先駆け開発。「マルチパターン測光」としてニコンFAに搭載しました。さらにF90では、8分割測光を実現。その後も改良を続け、F5ではついにそれ自体が画像を撮る能力を持ったCCDイメージセンサーを測光素子として採用。「1005分割RGBセンサー」を使用した「3D-RGBマルチパターン測光」へと発展させ、現在に至っています。」

たくさんの独自技術を開発されていますね。なかでも最後にあげられていた「1005分割RGBセンサー」は F5の時代から今まで、フィルム、デジタルを問わず多くの一眼レフカメラに搭載されているということで、かなり長い間ニコンの測光システムの中心を担っているわけですが、その優位性はどこにあるのでしょう?ニコンならではの特徴があれば教えていただきたいのですが。

「まずRGBセンサーということで、光に加え色の情報を検出することができるのが大きな特長です。明るさが同じでも色の状況によって露出というのは変化させる必要があります。例えば、赤っぽい夕方と曇りの日中というのは、明るさが同じになる場合があり得ます。この場合、輝度の情報だけで露出を算出すると計算上は最適な値が同じになってしまうわけです。RGBセンサーを用いることで、そこに色の情報を加えて両者を区別し、それぞれに最適な露出を算出することが可能になります。これはフィルムカメラに限っていえば、ニコンのカメラにしか使われていない技術ですね。次に1005という画面分割のパターンは、他メーカーのカメラに比べて圧倒的に大きな数字です。より細かく被写体の情報をとって精度をあげることが可能です。」

なるほど。色や細かな情報等、より多くの要素を取り入れて測光することで、精度の高さを実現しているのですね?

「その通りです。ただ情報量が多いということは、カメラ本体のCPUの処理能力もより大きくなければならないということになるわけで、そのへんの兼ね合いは常に考えなければなりませんね。行き過ぎると他に犠牲にしなければならないところがでてくるので、例えば画面分割のパターンが細かければ細かい程いいとは一概には言えません。製品全体のバランスを考えると、今の1005分割というのは、かなり理想的な数字になっていますね。」

正解が一つにはなり得ない露出値の算出。 撮影時の印象を正確に再現することを最優先。

測光のアルゴリズムを構築される際には膨大な数の実写データを使用されていると聞いたのですが、実際にはどのような形で開発を進めていらっしゃるのでしょう?

「まずは、いろいろなお客さまの撮影シーンを想定し、撮影を行います。その撮影データを基にそれぞれのシーンに最適な露出を決定することから開発を始めます。露出を様々に変化させて撮影した画像の中から、最適と思える画像をピックアップしていく作業ですね。この作業を想定される様々なシーンで繰り返し、数多くのデータを集めてデータベースを作ります。これが、測光アルゴリズム設計の際の基礎データとなるわけです。試作したシステムをカメラに組み込み、また撮影を行います。今度はそのデータを製品全体の評価を担当するチームとともに吟味して、特にどういったシチュエーションでの露出合わせを重視するか等をマーケティング的な見地も含め検討し、更なるチューニングを行っていきます。そういった意味では、実写データに重点を置いた開発体制といえるかもしれませんね。」

実写データのデータベースは、具体的には何点くらいになりますか?

膨大な数を誇る実写データのデー
タベースが、どんな撮影状況下でも
的確に光を捉える精度の高さを支え
ている。

「常に更新を続けているので、撮りためた写真は数万ショット以上の数になります。ただ、その中から重要なシーンやそうでないシーンを選択してプライオリティーを調整するので、開発に使用するのが具体的に何点というのは示すことはできません。データ蓄積にあたっては、撮影対象になりそうなあらゆるシーンを想定する必要があるので、例えば1005分割センサーの完成までには2年程試写を繰り返しました。地域によって光の角度も違うので、北から南まであちこちの地域に行って写真を撮ります。また世界各地のニコンの現地法人から届く情報を基にして、日本ではなかなか思いつかないようなシチュエーションの写真も撮るようにしています。雪山の撮影等も必要になりますから、体力も結構重要になりますね。」

なるほど。

「ただ、なんだかんだ言っても、お客さまが遭遇するであろう全ての撮影シーンを網羅するということは物理的に不可能です。また、人によって明るさの好みや感じ方も違うので、あまり作り込み過ぎていくと結果的に「大外れ」のシーンもでてきてしまうんですよ。マルチパターン測光の開発にあたって、露出の設定を「見栄えの良い」写真を作るためのものにするか、「撮影時の見たままの印象に近い」写真を作るためのものにするかということで議論を繰り返しましたが、最終的に「撮影時の見たままの印象に近い」露出設定を基本方針にしようという方向で落ち着いたのも、その「大外れ」をなるべく減らすためです。」

見たままの印象に近い絵づくり、というのはニコンらしい選択のように思えます。

「そうかもしれませんね。さらにこのコンセプトには、お客さまが自分の好みに応じてもう少し明るく撮ってみようなどと調整がしやすい、自分なりの絵心を加えやすいという利点もあるんですよ。極端な露出補正を避け、逆光なら逆光らしく、暗いところは暗めに、といった絵づくりを心掛けています。」