Nikon Imaging
Japan
At the heart of the image.

ザ・ワークス Vol.35 米国PMDA「2006 Technical Achievement Award」

1939年に設立されたPMDAは、カメラメーカーや販売会社などから構成される米国での写真業界活動の中心的役割を担う団体で、毎年、映像関連製品・サービス・活動に関する幅広い分野において優れた業績、貢献を果たした人物を選出し表彰しています。同団体が選出する2006年度の「Technical Achievement Award(テクニカルアチーブメント・アワード)」を受賞した映像カンパニーの富野副プレジデントの想いに迫ってみました。

富野直樹 (とみの・なおき)

常務取締役兼上席執行役員
映像カンパニー副プレジデント
1975年入社後、カメラ事業部カメラ設計部に配属。水中カメラ「NIKONOS-IVA」などの設計を担当した後、一眼レフカメラ「F301」、「F501」の設計に携わる。チーフ設計者を務めた「F801」は、当時AF一眼レフカメラ技術の最高峰との評価を受け、その後のニコンの一眼レフカメラの標準となった。1980年代後半から90年代後半にかけてAPS規格化の5社プロジェクトにおいて大きな役割を果たした後、D1開発のプロジェクトリーダーに任命され、以後、D2X、D2H、D100、D70そしてD200と、デジタルカメラの歴史を切り拓いた数々の名機を手がけている。

デジタル時代の本格的幕開けを実現したD1。 2.5年というスピード開発を支えたのは、良き仲間たち。

2006年2月、フロリダにて開催された授賞式。

このたびはPMDAのご受賞、おめでとうございます! まずは、受賞にあたっての想いをお聞かせいただけますか?

「端的に言えば、非常に嬉しいの一言ですね。技術者として、自分の今まで一生懸命やってきたことが世間的に評価されたということがとにかく嬉しい。と同時に、良く言われるせりふではありますが『代表でいただく』という意識ももちろん強いです。自分を活かしてくれた周囲の人々、会社など様々な条件が整わなければこうした賞はいただけなかったわけで、非常に良い仲間たちに恵まれたことを感謝しています。」

ニコンという会社にとっても、大きな意味を持つ受賞ではないかと思いますが、いかがでしょうか?

「一つの大きな節目と言えるでしょうね。そういう意味でも本当にありがたく思っています。」

今回の受賞は、D1をはじめとする数々のカメラの開発を通じ、日進月歩のデジタルカメラの世界に富野副プレジデントが果たしてきた功績への評価だということですが、開発を担当された中で特に印象に残っているカメラというのはありますか?

「1975年に入社してすぐに担当となった「NIKONOS」、そして設計の担当として最後に携わった「F801」も思い入れの強いカメラですが、やはりD1は開発に非常に苦労したこともあり、僕にとっては一番思い入れの深いカメラですね。80年代後半から10年ほどAPSの規格化のプロジェクトに取り組んでいたのですが、その活動がほぼ終了した96年に、「2年でフラッグシップにふさわしいカメラを作る」という発足したばかりのプロジェクトチームのリーダーに任命されたのです。当時、カメラのデジタル化が進み、ニコンは最高級一眼レフカメラのデジタル化の追求を急がねばならぬという危機感を強く感じていたため、このプロジェクトは当時の小野社長、吉田副社長、靍田専務の直轄ということになったのですが、「カメラの神様」とまで呼ばれた小野社長、ステッパーを世界の新規事業として立ち上げた吉田副社長、光学技術の権威である靍田専務という錚々たるメンバーが直属の上司ですからね。まさに武者震いを覚えました。」

2年というのは、また随分短い期間ですね。

「そうでしょう。僕も実は3年間にしてほしいとお願いをしたのですが、「デジタルの時代は待ってくれない」と小野社長に言われました。ただ一眼レフを手がけるにはやはりそれなりの時間が必要という判断もあり、まずは2年後の98年にコンシューマタイプの COOLPIX900を投入、フラッグシップ一眼レフカメラの発売は3年後ということで発足しました。実際には99年9月発売ということで最終的には開発期間2.5年でした。開発を始めようとしてわかったのですが、デジタルカメラの開発というのは、フィルムカメラの開発と比べ、よその方々といかに一緒にやっていけるかという部分が非常に重要なのです。そこでまず協力してくれるパートナーを見つけるため、1年間で2000社ほどを回りました。」

2000社ですか?

「あのカメラを実現するために必要だった要素は、自分たち1社だけでは到底調達できるものではありませんでした。そこで「こういう製品を作りたい」「お客さまにこういう価値を提供したい」という自分たちの想いをあちらこちらで説明していくことで、志を共にしてくれる仲間のネットワークを広げていくことから開発をはじめたのです。例えばCCDにしても、当初開発のパートナーをお願いしても誰も相手にしてくれなかった。それを自分たちの思う写真文化というところから説明して熱意を感じてもらい、同じ夢に向かっていく気持ちになってもらうところまで持っていったわけです。でもそのプロセスを経たおかげで本当に良いものを作ることができました。」

パートナー企業とも想いが一つになったことで、D1の成功が生まれたのですね?

「まさにその通りです。先ほど「代表でこの賞をいただきます」と言いましたが、それはニコンの代表というだけではなく、他の会社で僕を支えてくれた多くの仲間たちの全ての代表という気持ちを込めています。今回の受賞をきっかけに、さらに多様なパートナーと協業して、より強固なネットワークを築いていけるといいですよね。」

フィルムでもデジタルでもカメラの根幹を支える技術は同じ。 光学技術というニコンのDNAは決して色褪せない。

ニコンの技術力というのは、フィルムカメラの時代から高い評価を得ているわけですが、リーダーとしての目から見てその強みはどういうところにあるのでしょう?

「技術者というのは、何か新製品が出るととにかくまず開けてみるという習性を持っています。その開けられた時に、相手を「こんなことやっているのか、すごいな」とびっくりさせてやりたいという気持ちを持つことが設計者の「意地」だと私は思っているのですが、ニコンではその「意地」がとても強い。設計の職場に入った時、まず設計者一人ひとりのポテンシャルが非常に高いと感じました。何か人と違うところで人に優れているなと思わせたいという志向が、年配の人から若い人にまである。一人ひとりが熱く燃えていますね。ただそれをあまり表に出したがらない傾向がある。表に出すことは技術者として「粋」でないと思っている節がありますね。それだけに個々の力を引き出して、どのように全体としての活性化・連携強化を図っていくかがポイントだと思っています。」

フィルムカメラの時代と比べて、技術開発における志といったところで何か変化はありますか?

「今、カメラの世界で必要とされている技術は3つあると思います。光学技術、モノとしてのカメラを作る技術、そしてデジタル技術です。これらの技術がうまく組み合わさっていくことが重要ですが、フィルムもデジタルもいろいろな技術がコンパクトに凝縮されてカメラが作られているという本質に違いはありません。カメラを作る技術には、機構技術だけではなく材料技術や表面処理技術なども含まれるし、光学技術にはレンズで最良に結像させる技術のほかコーティング技術も含まれます。カメラは光学をはじめとした様々な技術をまとめた博物館なのです。ニコンはそこにこだわってやってきた。それが今花開いていると僕は思っています。デジタルカメラが従前のカメラと異なるところは、自分で画像を作らねばならないところ。ここは新しい技術です。このデジタルに関しては、はじめから多くの技術を持っていたわけではないけれど、開発に取り組む中でノウハウを蓄積し、それをカメラとしてまとめあわせる力を活かしてここまで来られたのではないか、と考えています。」

デジタルカメラにおいて、ニコンが誇る特徴的な技術を挙げるとしたら何になるでしょう?

光学技術というニコンのDNAを極
め、本格デジタル一眼レフカメラの
先駆けとして高い評価を得たD1。

「まず、フィルムの時代から培った、光をうまくとらえる技術ということが挙げられるでしょう。デジタル撮影においても、露出は光をいかにうまく計ってシャッターや絞りをコントロールするかということだし、ピントは光のセンシング技術を使って空間をいかにとらえるかということで、フィルムと大きな差はありません。CCDやCMOSなどの撮像素子で対象物を光として捉えるアナログ技術は、デジタルカメラのコアの部分です。ニコンはその技術を持っていた。もうひとつ、そこに欠かすことができないのが光学技術です。撮像素子は電子デバイスではあるのですが、いくら良い電気的性能の撮像素子を持っていてもそれ単体では必ずしも良いカメラに結びつくとは限りません。撮像素子は、普通、ピクセルと同数の微小レンズレットを備えなければならないし、さらにカラーフィルターやローパスフィルターという光学フィルターも組み込まれていて、様々な光学要素と一体化して初めて役割を果たせる部品です。光学部品ともいえる撮像素子と本体の撮影レンズとの光学的なマッチングがないと良い絵をとれません。光学技術が必要不可欠なのです。光学技術というニコンのDNAは、デジタルカメラにおいても褪せることのない財産なのです。」

競合として、カメラメーカーとエレクトロニクス業界の大手が手を組んだアライアンスも登場していますが、この傾向についてはどのようにお考えですか?

「参入メーカーの増加により、業界全体が活性化し市場が大きくなることは望ましいと考えています。販売競争が厳しくなることは承知の上ですが、光学技術や画作りという専業メーカーとして培ってきた強みは他社が簡単に追随できるものではないという自負を持っていますし、今後もお客さまに喜んでいただける商品作りで、市場でのポジションを強化していきます。」

現在、技術開発の研究費用は年間対売上高比率、約5%とうかがっていますが、このバランスについてはいかがでしょう?

「デジタルになり、開発費用の使い方というのは大分変わってきましたね。電子・電気系統の開発装置が増えたし、ソフトウェアの開発も結構たいへんです。細目が変わってきているので、もう少し余力があっても良いのかなとは思います。」

研究開発の分野が幅広くなってきているということですか?

「そうですね。後、あえて付け加えるならば外の人と連携してやることが増えてきています。そういう中で共同開発したコア技術をいかにうまく自分達なりに発展させ、オリジナリティーを持った製品にしあげていけるかということが一つ大きな課題となります。」