Nikon Imaging
Japan
At the heart of the image.

ザ・ワークス Vol.32 Nikon F6

2004年秋、待望の新機種が登場した。その名は、Nikon F6。カメラファンの話題をさらうこと間違いなしのフィルム一眼レフフラッグシップモデル。そのF6開発の裏話などについて語ってもらった。

池野智久 (いけの・ともひさ)

精密機械の設計士を夢見て、1980年に(株)ニコンに入社。カメラ設計部第二設計課に配属される。
「入社当時、開発が進められていたのが Nikon EM で、それを手伝ったのが最初の仕事ですね。その後、初めて図面をひいたのがNikon FG です」。以来、FG20、F-401、F-601、F70、F5、F3H、F100と、一貫してフィルム一眼レフの開発に携わる。
好きなカメラは、F100、F3。「普段の撮影には、F100を使っています。F3は、触っているだけでおもしろいカメラですね」。F6開発後の現在は、第二設計部第一設計課で交換レンズの開発に携わっている。

「ここで終わり」ではなく「ここから先へ」いま、フィルム一眼レフの最高級機種に挑む

いよいよFシリーズ最新作、F6が登場しました。
F5の発売から8年が経ち、その後デジタルカメラの急激な普及という、市場の大きな変化がありました。そのようなデジタル化をどのようにとらえ、F6をどのように方向付けしたのでしょうか。

ニコンの新しいフラッグシップ機F6は、カメラファンが望
む全ての機能・性能を実現した究極の一眼レフカメラ。

「はい、開発上とても考えたポイントでした。というのも、F6の開発を始めた頃、既にデジタルカメラはすでに普及が始まっていましたし、現在既に、報道関係を中心にほとんどがデジタルカメラに移行しています。
 ニコンは『報道関係者に支持が厚い』といわれますが、速報性が求められる報道写真では、デジタルの伸長も早かったですね。もちろんニコンも、プロユースを想定したデジタル一眼レフカメラ「Dシリーズ」など、プロ向けのブランドを着実に育ててきました。
 その中で、ニコンのフィルムフラッグシップ機であるF一桁シリーズに、何が求められているかを、改めて考える必要がありました」

デジタルではなくフィルムを選ぶ、そのメリットはどこにあり、F6に何を求めたのでしょう?

「うーん。実は、開発段階でもデジタルカメラとフィルムカメラのメリット、デメリットをきちんと検証してみたのですが、どちらが優れているかという事を突詰める事にあまり意義が無くなっている事が分かりました。
 開発上の基本構想を検討していた頃は、デジタルカメラにはタイムラグという問題がありました。しかし技術の向上で間違いなく解決できる見通しもありました。従ってデジタルのデメリットをフィルムで補うというアプローチは、全く成り立たないわけです。
 一方、デジタルがどんなに普及しても、フィルムを使い続けてくださる方がいる。それは、たとえば芸術を志向するフォトグラファーの方やハイエンドユーザーの方などという事も分かっていました。
 そこで、改めてフィルム一眼レフの魅力とは何か、と考えると、それは『一枚の価値』なのではないかと思います」

一枚の価値、ですか?

「はい。乱暴な言い方になりますが、デジタルカメラはフィルム枚数という制約がないので、何枚でも撮影ができます。迷ってもとりあえずシャッターを切って、おさえておけばいい」

そういう気軽さが、デジタルカメラにはありますね。

「そうです。だからこそ逆に、一枚をじっくり撮りたい、一枚一枚を大切に、フィルムに焼き付けていきたい、という願いが生まれるのではないかと思います」

なるほど。

「そこでF6は、『一枚一枚を大切に撮りたい』というお客様に満足していただく、ということを第一に考えました。
 そのためには、『いい写真が撮れる』というだけでは、不十分です。使っていて気持ちよいカメラ、ツールとしても完成度が高く、撮影に関わるフィーリング等、すべてにおいて最高のカメラを目指すことになったのです」

最高のカメラ、とは、究極の目標ですね。

「そうです。高速・高性能のF5がすでにあるわけですが、F5以上にお客様の要望を満たすものへ行こうという気持ちが常にありました。
 F5の開発テーマは、“スピードと高性能”でした。F5の機能に加え、F6でさらに目指したのは“切れ味と実用性”です」

F6の開発テーマは「切れ味」究極の使い心地を追求

“切れ味”とは、具体的にはどのようなことですか?

「人間の五感のうち、カメラの操作には、視覚、触覚、聴覚の三つが関係します。カメラの“切れ味”は、この三つの感覚でとらえるものです。
 視覚でいえば、単純に、外観のデザインという点もありますし、ファインダーの見やすさがあげられます。
 触覚はホールディング感や操作性、聴覚には、シャッター音や作動音などがあります。三つの感覚に快適な操作性。それを複合したものを“切れ味”と表現しました」

ツールとしての快適さをとことん追求したということですね。

カメラの重みが均一に手にかかるようにデザインされた
F6のグリップ。ユーザーの快適性を追い求める姿勢が
細部にまで活かされている。

「はい。たとえば、グリップ一つとっても、手になじむ、滑らないというだけでなく、長時間持っていても疲れない設計をゼロから取組みました。  設計やデータだけでは、分からないことがたくさんありました。何度も何度も試作を重ね、デザイナーとも話し合いをし、握り心地を吟味してきました。最終的に納得のグリップと操作感に仕上がったと思っています」

カメラを構えてみると、軽く感じますね?

「そう、それがF6のグリップの肝なんです。
 実は、F6は、バッテリーパックを付けると、F5とほぼ同じ質量になるのですが体感的にF5より軽く感じるという評価を得ています。
 それは、指先だけでカメラを支えるのではなく、指と手のひら全体で、カメラを支えられる感覚を目指したからです。とくに、長焦点のレンズを付けると、カメラの重心が偏りますよね。そのときにも、たとえば親指に力がかかるということをなくして、均一にカメラの重みが手にかかることを考えました」

きめ細やかな心配りですね。

一つ一つの部品の素材にいたるまで細部を吟味しな
がら選定し、全体的なサイズダウンを実現。

「そうですね。とにかく、ハードに使用しても疲れない、快適さ、ということを重視しました。
 また、F6では、たびたび触れるダイヤルやボタンの外周にもわざわざゴムを巻いています。これも、操作時の快適性を心がけてのことです」

全体的には、F5より、かなり小型化しましたよね?

「これでもか、これでもか、と小さくしましたね(笑)。  カメラは、モーターとシャッターの大きさで、おおよその大きさが決まってしまうので、とにかくそこに、効率的に詰めた、という感じです。だから、内部はかなりギチギチに詰まっていますよ。  また、F6では、従来使われていた素材を根本から見直しを行いました。部品を一つとっても、『これでいい』と甘んじることなく、『もっといいものはないか』『もっと先へ行こう』という事で、細部を吟味しました。  これも、長い開発期間があったからこそ、腰を据えて出来たことですね。ですから、開発当初の試作品と、実際にできあがった製品を改めて比較すると、ずいぶん違う形になりました」