Nikon Imaging
Japan
At the heart of the image.

ザ・ワークス Vol.29 LBCAST

2003年7月、ニコンはCCDともCMOSとも異なるイメージセンサーを発表した。フラッグシップモデル NikonD2Hにも搭載される高速、省電力、低ノイズを実現した“LBCAST”。まったく新しいコンセプトをもつデバイス“LBCAST”の誕生にいたるまでのエピソードを、デバイス開発者が語ります。

磯貝忠男 (いそがい・ただお)

CORE TECHNOLOGY CENTER, PHOTONICS TECHNOLOGY GROUP
愛用のカメラはニコンFE。「私はフィルムカメラですが、子どもはクールピクスを使っています。使わせてもらうと、やはり便利ですね」

鈴木智 (すずき・さとし)

CORE TECHNOLOGY CENTER, PHOTONICS TECHNOLOGY GROUP
趣味はテニス、水泳、ランニングなど。「ランニングをすると、考え事にも集中できるし、頭の疲れがとれるのでいいですね。LBCASTのためにもだいぶ走りました(笑)」。最近はハーブの栽培にも凝っていて、日常的にハーブを楽しんでいるそう。

ニコンが独自に開発したイメージセンサー「LBCAST」は従来のセンサーに比べ高速、省電力、低ノイズを実現!

2003年7月に発表されたイメージセンサー“LBCAST”。まずは、どういうものなのか教えてください。

磯貝「イメージセンサー“LBCAST”は、ニコンが独自に開発した、従来のCCD(電荷結合素子)やCMOS(相補型金属酸化膜半導体)の利点を合わせ持った、まったく新しい撮像素子です」

従来のCCDに代わる、撮影画像を処理するためのデバイスということですか。

磯貝「はい、その通りです。“LBCAST”搭載第1弾機種は、フラッグシップモデルである“D2H”になります」

最初の10年は、文字通り「暗中模索」の時期「CCDを超える素子を作る」という意気込み

磯貝さん、鈴木さんのお二人は、ずっとこれらの開発に携わってきたのですか?

磯貝「はい。入社以来、ずっとデバイスの試作開発に携わってきました。イメージセンサーに本格的に関わり始めたのも、もう大分前の事ですね」

鈴木「私も入社後、イメージセンサー一筋ですね。入社してすぐに試作研究に入れたという感じで、とてもラッキーでした(笑)」

磯貝「これまでイメージセンサー研究のためさまざまな事を経験してきました。今から思うと、 “LBCAST”開発に向けた準備期間として、相当な年数を費やしてきました。いったいこれから先に何ができるのか、何が求められているのかを探る、文字通り、暗中模索の時代でしたね。たぶん研究を始めた当時は、社内でも、何をやっているのか分からない、とても注目度が低い部署だったと思いますよ(笑)。試行錯誤の中、イメージセンサーの開発という目標が形になりはじめ、ようやく“D2H”に搭載するところまで来たのです」

“LBCAST”の技術的な優位点とは、ずばり何ですか?

磯貝「従来のセンサーに比べて、省電力、ダークノイズ(撮影時に撮像素子から発生する熱により、画像がざらついて見える現象)の低減を実現しました。また、画像データの読み込み速度が速く、感度や明暗、色などの再現性も、従来センサーより向上しています」

従来、デジタルカメラなどに使われる撮像素子としてはCCDやCMOSが搭載されていますよね。それにかわるまったく新しいイメージセンサーとして、“LBCAST”が登場したわけですね。

磯貝「はい。今までCCDとCMOSを比べたときに、概して低ノイズといった面ではCCD、省電力性、起動時間の短さという面ではCMOSのほうに軍配があがってきました。しかし“LBCAST”は、CCDやCMOSとは違った撮像素子で、低ノイズ、省電力、高速といった両者の利点を兼ね備えたイメージセンサーを実現したのです」

どういう経緯で、自社開発のイメージセンサーを作ろうということになったのですか?

磯貝「長い研究の成果により、デバイスはある程度自社で作れるようになっていました。技術的な裏づけができましたが、その後、これからニコン内で何を作っていこうか、という協議が始まったわけです。その時“撮像素子をなんとしても調達したい”というニコン映像カンパニーからの強いニーズがありました。当時、撮像素子がコスト面で折り合わず、カメラの値段より撮像素子1個の値段が高いという非常に厳しい状況でした。将来的なニーズが分かっている以上、コスト面での課題は、クリアすべき必須事項といえました」

そこでCCDの開発という方向にいかなかったのは、どうしてですか?

磯貝「正直申し上げまして、ニコンはCCDという点では後発組ですので、それを後から追いかけていって、めざましい成功をおさめるというのは難しいと思っていました。そこでCCDとは違ったアプローチから、CCD以上の結果が出せるような素子の開発を、当初から狙っていたのです」

とすると、LBCAST考案のバックボーンには、CMOSがあったんですか?

磯貝「はい。今までCCDとCMOSを比べたときに、概して低ノイズといった面ではCCD、省電力性、起動時間の短さという面ではCMOSのほうに軍配があがってきました。しかし“LBCAST”は、CCDやCMOSとは違った撮像素子で、低ノイズ、省電力、高速といった両者の利点を兼ね備えたイメージセンサーを実現したのです」

注)増幅型センサー=一つひとつの画素に増幅器(トランジスタ)があり、それぞれの信号を個別に増幅したうえで、配線を通じて画像処理システムへと送り出す方式のセンサー。X-Yアドレス方式と呼ばれる。

鈴木「LBCASTの周辺回路にはCMOSを使っています。しかしこれは、CMOSの流れを受けて作ったわけではありません。新しい撮像素子を作るうえで、“LBCAST”の性能をうまく出すために必要なのは何かと考えた末に、CMOSにたどり着いたという結果です。ですから、CMOSありきというわけではないんです」

そうですか。では、最初はまったくのゼロからのスタートだったんですね。

磯貝「そうですね。ほんとうに、手探り状態からのスタートです。そもそも、我々の部署の母体は研究所ですから、最初から“新しいことをやってみよう”という精神がありました。自由な発想から開発を始められたので、研究者としてはとても恵まれた環境だったと思います。最初から“こういうスペックを出そう”という目的があったわけではなく、作っていくものの性能を見ながら、次第にスキルアップしていけました」