Nikon Imaging
Japan
At the heart of the image.

ザ・ワークス Vol.27 栃木ニコン

信頼のニッコールレンズは、どんな人々によって、どんな場所で生まれるのだろう?

ニッコールレンズの生産を行なう栃木ニコンは、栃木県大田原市にある。

今日は工場を直撃し、設計と足並みを揃えて、レンズの開発・製造に携わる二人の技術者に話を聞いた。

福田正明 (ふくだ・まさあき)

(株)栃木ニコン・映像事業部カメラ部カメラ製品技術課所属
1988年入社。1年間精機部門のステッパー立ち上げを行った以降は、一貫して交換レンズ新製品立ち上げに携わる。ニコノスRS、超望遠AF-I、AF-S、AF-S28-70mmF2.8D、AF28-80mmF3.3‐5.6G、AF-S VR 70-200mmF2.8Gなどの開発を経て現在に至る。生産数の極端に少ないもの、極端に多いものとさまざまなレンズを担当。「いずれの製品もニッコールレンズとして特徴のあるものばかりで楽しませて(苦しませて)もらいました」とは本人の弁。これまでレンズ専業メーカーに奪われがちであった標準ズームを取り戻したという点でも、直近の製品であるという点でもAF28-80F3.3‐5.6Gは記憶に残る一本。初めて買った一眼レフカメラは、ニコン初のAF一眼、F501。「最近、D100を買ったんです。やはりD100はいいですね! フィルムカメラでは、フィルムがもったいなくてできなかったような贅沢な実験も、どんどん楽しんでいます」レンズは、20年ほど前に買ったニッコールレンズも、現役で愛用しているそう。「古いレンズが、ずっと壊れもせずに使えていることに、さすがニッコールだと感心しています。お客様の信頼を得るレンズというのは、こういうことをいうのかなと思っています」

高野潤 (たかの・じゅん)

(株)栃木ニコン・映像事業部カメラ部カメラレンズ技術課所属
1986年、日本光学工業株式会社(現株式会社ニコン)に入社。ガラス製造部技術課に配属されて以来、一貫して光学部品の生産技術開発に携わる。一時、石英ガラスの生産技術開発を担当したが、多くは、ガラスモールド非球面レンズの生産技術に関わり、現在に至る。大口径ガラスモールド非球面レンズ(AF28-70F2.8)の開発が思い出深い。最近では、デジタルカメラ用小径レンズの生産技術開発にも傾注。「はじめてニコンのカメラを意識したのは、父が使っていたニコマートFTNですね。もちろんマニュアルカメラで、35mmの単焦点レンズを付けて撮影していました。で、ぼくはそのカメラを借りて、西海岸に新婚旅行に行ったんです。そこで周囲を見てみると、ぼくぐらい大きなカメラを使ってる人って、いないんですよねえ(笑)。みんなコンパクトカメラで。でも、カタリナ島の青い空がとてもきれいに撮れて、感動しました。今でもそのカメラは現役です」

単なる生産工場?と思ったら大間違い 設計部門と足並み揃えて試作をつくる、チャレンジャー

「設計サイドと製造サイドの意見がぶつか
りあって、新しいレンズが生まれて
いくんです」

福田さんと高野さんは、どんな仕事に携わっているんですか?

福田「われわれは二人とも、新製品の試作段階から、量産態勢を取るまでの一連の製造を担当しています。  たとえば、ワークスvol.25にも登場された、“AF-S DX Zoom Nikkor ED 12-24mm F4G(IF)”を設計した佐藤治夫さん、いらっしゃるでしょう。佐藤さんから電話やメールがあるんですね。 “こういうレンズ、作りたいんだけど”と」

ああ、佐藤さんのおっしゃった、"製造サイド"。 その正体が、栃木ニコンなんですね。

福田「そうです(笑)。その佐藤さんなどの設計者から、まあ最初は、頭の中に、モヤモヤーっとあるレンズの要望が伝えられるんです。われわれはそれに対して、製造側から意見を言っていきます」

まだそのときは、明確な製品の形はないわけですね。

福田「ええ、そこから一歩進むと、ラフスケッチのようなものが設計サイドから来まして、実際に試作品を作ってみます。そして、設計通りの精度がでるか設計者と吟味して、何度も試作を重ねます。製品として具体的に話が進むと、量産態勢を整えます。その一連の流れに、われわれは携わっています」

設計側から、無茶なほどハイレベルな要望が来たりしませんか?(笑)

高野「それはもう。いつもいつも、こちらができると考えている、さらに上をいく高精度のレンズを要求されています。常に高いハードルが用意されている感じですね。とにかく出来る限り、求められているものを作る努力をしています。だから毎回、鍛えられていますよ(笑)」

どれだけの機構をレンズに組み込めるかが勝負! 非球面レンズは製品のキーパーツに

「レンズの性能も上げつつ、いろいろな機能
を盛り込むのはなかなか大変です」

ずっとレンズ製造に携わってきたお二人は、最近のニッコールレンズから、どんな感じを受けていますか?

福田「そうですね。私は主にレンズの内部のメカニカルな部分に関わっているのですが、レンズにはどんどん、高倍率のズームが搭載されるようになってきていると思います。 でも、いくら倍率が上がっているとはいっても、人間の使う道具です。人の手の大きさには限りがありますから、道具として扱いやすい大きさに、どれだけ多くの機能が盛り込めるかが勝負になりますね。したがって、昔に比べ多くの部品を組み込むことが必要となり、生産も格段に難しくなってきたと思います」

高野「レンズを小さくするためには、精度を上げながら、レンズ枚数を少なくしていくことが必要なんです。その手段として非球面レンズを使用するケースがとても多くなってきました」

非球面レンズは、表面が球面になっていないレンズですよね? 非球面レンズの歴史自体は、そんなに古くないと聞きましたが?

高野「ええ。非球面レンズは、比較的新しい技術です。非常に難易度の高い加工技術が要求されます」

「手作業でひとつひとつ確実に」が信頼の製品を作る 精度検査の厳しさが、ニッコールレンズの証

目視とコンピュータを使ってのレンズ精度測定検査。
オートフォーカスレンズは、SWM(ニコンが独自に開
発したAF駆動用のレンズ内超音波モーターSilent
Wave Motorの略)などが組み込まれるので測定
も複雑になっている。

まさにひとつひとつ、ていねいに作っているという雰囲気の現場ですね。

福田「はい。ねじのひとつひとつも手で締めていきますからね。感能的な調整を行ないながら仕上げていきますので自動化が難しいところがあります。人の手は偉大だと思います」

ここで、さまざまなレンズが生まれるわけですね。

福田「100種類以上のレンズを作っています。だからまさに日替わりでライン編成を変え、製造しています」

製造で難しいのは、どんなところですか?

高野「そうですね……一言には言えないですが、難しいというより、一番気を配っていることとして精度の測定にはもっとも留意しています。製造と精度測定技術の発展は、付かず離れずの関係なんです。 高精度の測定技術があるからこそ、高精度のレンズが作れるのです。測定技術、金型等の加工技術、それから、高精度金型の加工技術も必要です。これは高技能を有する集団が担当しています。さらに、光学ガラスの組成開発。それらの技術を高度に融合することで、初めて高精度のレンズができるといえますね」