Nikon Imaging
Japan
At the heart of the image.

ザ・ワークス Vol.25 AF-S DX Zoom Nikkor ED 12-24mm F4G (IF)

ニコンデジタル一眼レフ専用交換レンズ“DXニッコール”誕生。第一弾は小型・軽量の超広角ズームレンズ。開発の裏側を、光学系設計者の生の声でお届けします。

佐藤 治夫 (さとう・はるお)

1985年、日本光学工業株式会社(現株式会社ニコン)に入社。光学部開発課に配属されて以来、一貫してカメラ用光学系の設計に携わる。開発を担当したレンズは魚眼から望遠、高倍率ズームと多岐にわたり、なかでも、AF28-70mmF3.5‐4.5D、 AF24‐120mmF3.5‐5.6D、AF28‐80mmF3.3‐5.6G、などがもっとも思い出に残っているそう。趣味はもちろん写真撮影で、自宅に現像・引伸ばし用暗室を作ってしまうほど。NikonF2の時代から撮影を楽しんでおり、最近はD100、COOLPIX2500も愛用しているが、 NikonSPなどのレンジファインダーカメラもこよなく愛する。また音楽の趣味も持ち、アマチュアバンドでトランペットを演奏する。現在は設計の傍ら、数々の写真レンズを解析・評価してきた経験と資料を元に、「ニッコール千夜一夜物語(ニッコールレンズ列伝)」をニッコールクラブ季刊誌とウェッブで連載中。

デジタル一眼レフに待望の超広角ズームレンズ登場 「DXニッコール」の第一弾は、どんなレンズ?

“DXニッコール”の特徴の一つとして小型化・軽量化が
あげられる。デジタル一眼レフカメラ専用のレンズとした
ことで、従来の35mm判用レンズをデジタル一眼レフに
装着した場合ではなし得ない質量を実現。質量は約485g

新登場の“AF-S DX Zoom Nikkor ED 12-24mm F4G(IF)”(以下、“DXニッコール”)はニコンデジタル一眼レフカメラ専用交換レンズですが、まさに今までになかった新しいレンズシリーズですね。

「はい。新シリーズ第一弾は、12-24mmF4という超広角のズームレンズです」

デジタル専用というのはどういうことなんでしょう。もちろん従来のニッコールレンズも、D1Xなどのデジタル一眼レフに使えるわけなんですが……。

「それを説明するためには、まず当社の35mm銀塩カメラとデジタル一眼レフのフォーマットサイズ(※1)の違いをお話しなくちゃいけませんね。実は、当社のデジタル一眼レフのフォーマット(DXフォーマット)は、銀塩一眼レフカメラのフォーマットサイズの、3分の2の大きさなんです。従来のニッコールレンズをデジタル一眼レフに使うと、撮影画角が銀塩一眼レフカメラ使用時の焦点距離の1.5倍相当の焦点距離の画角になりますよね。これは、両者のフォーマットサイズの違いから生まれる現象です」

なるほど。デジタルのほうが銀塩よりフォーマットサイズが小さいんですね。

「単純に考えると、銀塩カメラ用のレンズを3分の2にすれば、デジタル一眼レフ専用の交換レンズができると思うでしょ? でも、実際はバックフォーカスの制約等々が変わっていないので、そんな単純ではないのです。でも、万が一可能だったとしても、このやり方だと、単に今までのレンズが小さくなるだけですよね。従来のレンズ性能、たとえばシャープネスとか、周辺光量落ちなどのレベルアップができません。そこで、本来小型化に使える設計余裕を、性能向上にも振り分けて、バランスさせたら・・・と考えたのです。レンズの仕様をデジタル一眼レフに限定できるなら、その特性を生かした、今までにないレンズが作れる。そこから、“DXニッコール”の開発が始まったんです」

  • ※1フォーマットサイズ:撮像素子のサイズのこと。なお、“DXニッコールレンズ”は、ニコンデジタル一眼レフカメラ専用レンズですので、35mmシステムカメラには使用できません。

「スケーリング設計」ではなく「バランス設計」 デジタルに特化した、未だかつてないレンズ

“DXニッコール”の小型化以外の特徴として合焦スピード
の高速化、静粛性、またフォーカス時の良好な保持
バランスがあげられる。これはニコンが独自に開発したAF
駆動用のSWM(Silent Wave Motor=超音波モーター)
と、レンズ系を分割して中間のレンズのみを移動させて
ピントを合わせるIF方式を採用し実現している。

「ニコンのデジタル一眼レフをお使いのお客様は、報道関係の方やプロカメラマンの方など、撮影に強いこだわりをもっていらっしゃる方が多いと思います。我々としては、そういったお客様に満足していただくためには、どうすればよいのか、を常に考えています。そこで、従来の銀塩・デジタル共用レンズにとどまることなく、今までのレンズ作りのノウハウを生かして、デジタルに特化したレンズを作ろうということになったのです。その第一弾が、今回の“AF-S DX Zoom Nikkor ED12-24mm F4G(IF)”なんです」

デジタルに仕様を限定することで、どんな利点が生まれるんですか?

「先にお話しした様に、まずフォーマットサイズが3分の2ということから、小型化をはかることができますよね。もちろん、小型・軽量化も重要な要素ですが、それ以上にデジタルに特化したレンズにする事のメリットの追求にこだわりました。小型化のみを訴求する設計を“スケーリング設計”と呼ぶのですが、我々はあえて、“バランス設計”でデジタル専用レンズに挑んでいます」

バランス設計というと……?

佐藤「小型化だけでなく、デジタルに仕様を限定することで生じたメリットを、バランスよく性能アップに結びつけよう、ということです。たとえば、12mmからの広角ズームなど、銀塩のフォーマット兼用のレンズではなかなか達成できないスペックを実現したり、撮像素子(イメージセンサー)の特性に十分に対応した光学設計をすることですね。光学性能に関しては、社内規格を設定し、いち早くデジタル時代に対応しています。また、撮像素子は反射率が高いですから、そのゴースト・フレア(※2)をおさえるために、もとより定評のあるニコンのコーティング技術を駆使して、さらに進化させたレンズにしています。単に小型化をはかるだけでなく、トータルにレンズ性能をあげていこうというのが、バランス設計の目標なんです」

  • ※2ゴースト・フレア:フレアとは、逆光や強い光がレンズ内で乱反射して、モヤがかかった様に見えること。ゴーストもフレアの一種で同じ原因により、光源が何重にも絞りの形が写りこむこと。

お客様のニーズを探って出た答えが「超広角」 設計者自らが撮影者としてレンズを追求

「私自身が写真を撮影するので、お
客様のほしいと思うレンズ・必要な
性能など、いつもお客様の立場
になって考えています。それがレン
ズを設計する上で重要な要素
ですね」 

“DXニッコール”の第一弾として、あえて広角からスタートしたのは、どんな意図からですか?

「もちろん、いろんな案が出たんですよ。シリーズ第一弾ですから、標準ズームから始めようとか、超広角化よりも、レンズの明るさを追求しようとか……。でも、標準ズームであれば、他にもたくさんあります。たとえば、今回発売された新製品“AF-S VR Zoom Nikkor ED 24-120mm F3.5-5.6G(IF)”がありますよね。最近のレンズは、もちろんデジタルで使用することを最初から念頭においていますから、当然対応した光学設計をしています。そういう目でラインナップをながめた場合、やっぱり足りないのは広角系だな、と思ったのです。D1xやD100の標準レンズといえば、 17-35mmや18-35mmがわりとスタンダードです。でも、広角端が17mmだと、DXフォーマット換算で約25mmですよね。広角側の画角が足りないと思いません? 私自身も、写真をよく撮るんですが、ユーザーとして超広角レンズが好きなんです。銀塩の場合、17-18mmの画角でよく写真を撮ります。でも、今までのラインナップでは、デジタルでその画角が得られないのが、最大の不満なんですね。お客様も、思いはきっと同じだろうと常々思っていたわけです」

シリーズ最初の1本として、標準からスタートするのではなく、お客様からもっとも求められているだろうという広角から作る、ということですね。

「そのとおりです。実はこの12mm-24mmF4というスペックを提案したのは、何を隠そう私自身なんです(笑)。明るさもこれから追求していきたいとは思いますが、まず“DXニッコール”の1本目は、絞り開放からデジタル時代の新ニッコールの光学性能をアピールしたいという狙いがありました。この設計思想が、デジタル専用レンズならではの性能の高さを訴求できるポイントの一つだと思うからです」