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talk! talk! talk! 信州大学教授・中村浩志さん


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信州大学教授・中村浩志さん

信州大学教授

中村浩志さん

カッコウの托卵(たくらん)という習性をご存じだろうか。
自分で子育てをせず、他の鳥の巣に卵を産み育ててもらうのだ。托卵に興味を持ち、長年カッコウの生態調査を行ってきたのが信州大学教授・中村浩志さんだ。
夫婦関係も親子関係も持たない孤独な鳥カッコウ。
今回はその不思議な生態と魅力について、カメラの話も交えながらじっくりとお話をうかがった。

プロフィール

なかむら・ひろし。1947年、長野県生まれ。信州大学で生態研究室に入り、鳥に興味を持つようになる。1969年、信州大学教育学部卒業。京都大学大学院ではカワラヒワの研究を行い、1977年、理学研究科博士過程修了。理学博士。1980年より信州大学教育学部助手となり、1992年、同学部教授となる。
動物生態学が専門で、1982年より千曲川でカッコウの托卵とその生態調査を行っている。その他にも、ライチョウ、カケス、ブッポウソウなど、様々な鳥の研究で世界的にも高い評価を受けている。2002年にはカッコウの研究で、鳥学の発展と鳥類保護の功績を顕彰する「山階芳麿賞」を受賞。2002年より日本鳥学会副会長を務める。
著書に「戸隠の自然」「千曲川の自然」(信濃毎日新聞社)など。今年5月には、美しい容姿を持つブッポウソウの生態と絶滅の危機を訴えた「甦れ、ブッポウソウ」(山と渓谷社)を発刊している。

托卵(たくらん)とは

他の鳥の巣に自分の卵を産み、ヒナを育ててもらう習性のこと。ホトトギス、ツツドリなどもこの托卵を行うが、よく知られているのがカッコウである。カッコウは産みつける直前に、巣の中にあった卵を1卵取り除き(中には2卵取り除いたり、取り除かないものもいる)、自分の卵を1卵生む。また、カッコウのヒナは他の卵より早く孵化(ふか)し、凹んだ背中に周りの卵やヒナを乗せて外に出す行為をする。
托卵相手として多いのがオオヨシキリ、モズ、オナガなど。以前はカッコウの卵だと気づかず温めてしまっていたが、最近ではカッコウの卵を見分け、排除する鳥も見られるようになった。カッコウも卵の模様を似せたりと見破られないための能力を身につけているため、毎年托卵の時期になると、托卵する側、される側の攻防戦が繰り広げられている。

生涯一種に托卵し続けるカッコウ それは「すりこみ」によって決められる!?

鳥の観察風景
鳥の観察風景
背中に発信機をつけられたカッコウ 撮影:中村浩志
背中に発信機をつけられたカッコウ
撮影:中村浩志
オナガの巣に産みつけられた4個のカッコウ卵。4羽のカッコウが托卵したのであろう。外側の少し大きな3つの卵がオナガのもの 撮影:中村浩志
オナガの巣に産みつけられた4個のカッコウ卵。
4羽のカッコウが托卵したのであろう。
外側の少し大きな3つの卵がオナガのもの
撮影:中村浩志

先生が鳥に興味を持たれたのはいつ頃ですか?

鳥に興味を持ったのは信州大学に入ってすぐですね。大学から30分ぐらいのところに戸隠山という山があって、研究室主催の探鳥会に参加したんです。戸隠のすばらしい景観に触れて、これまでに見た事のない鳥をたくさん見て、徐々に鳥に興味を持つようになりました。
カッコウに興味を持ったのは、京大の大学院を終える頃に、イアン・ワイリィの「The Cuckoo」という本を見つけてからです。カッコウが托卵をするということは聞いていましたけど、具体的にどういったものかは知らなかったんです。だからこの本で托卵の写真を見て、内容を読んで、非常に面白いと思ったわけです。ですがその本を読んでも、婚姻関係やなわばり関係、なぜ托卵するのかなど、肝心な生態については何一つ解っていなかった。それで、信州大学に戻ってからカッコウの研究を始めたんです

研究というのはどんなことをするんですか?

とにかく多くのカッコウを捕獲し、印をつけて観察することですね。それで、2~3年すれば、大体の行動特性や生活が見えてきます。たとえば、カッコウは一夫一妻なのか一夫多妻なのか、乱婚なのかを調べたら、行動観察で乱婚であるということが解りました。カッコウは自分で子供を育てません。ですから、つがいをつくって生活する必要もないんですね。最近では、実際に生まれた子供の血液を取って、DNAを調べて親子関係を割り出しているんです。それで、親子判定でもやはり乱婚だということがはっきりしました。

今現在、特に焦点を置いて研究されていることは何ですか?

托卵の研究では、捕まえたカッコウの背中に発信機をつけて調査したんです。その結果、メスはそれぞれ、托卵する鳥の種類が決まっていることがわかったんです。カッコウが托卵する鳥は、オオヨシキリやオナガ、モズなど数種類あるんですが、どの鳥でもいいのではなくて、メスごとに托卵する相手は一生一種類なんです。

たとえばオナガの巣に托卵するカッコウは、一生オナガの巣に托卵し続けるということですよね。

そうです。その鳥がどうやって選ばれているのか、どんな仕組みで決まっているのかを解明しています。仮説は立てられているんですが、それに対するきちんとした証拠が得られていないんです。
我々の仮説では、カッコウは育ててくれた親を覚えているのではないかというものです。専門的な言葉でいうと「すりこみ」ですね。鳥が最初に見た動くものを親だと思う。それが記憶として残り、親になった時に自分を育てた鳥に托卵をするのではないかと考えられているんです。それがまだ、きちんと証明できていないんですよ。

育ての親の元に卵を産みつける、とても面白いですね。素人の考えで言うと、たとえばヒナに目印をつけて、親になったときにどの鳥に托卵しているのかを見てみればいいのでは? と思ってしまうのですが。

そうなんですよね。ところがカッコウは渡り鳥ですよね。大人のカッコウは、前年に繁殖した場所に正確に戻ってくるのですが、若い鳥は同じ場所に戻るのではなく、かなり広い範囲に分散してしまうので、追跡が難しいんです。今まさに、たくさんのヒナに足輪をつけて調査を進めているところなんですよ。
それから、今研究を進めているのはカッコウの卵の模様です。カッコウは托卵する相手の鳥に、自分の卵だと錯覚させるために相手に似た模様や色の卵を産むんです。さて、どうして相手に似た卵を産む事ができるのか? その仕組みの解明をしています。

托卵する鳥が違えば、卵の模様も違う。それなのに、それぞれの鳥の模様に合わせて産むことができるというのは不思議ですね。

メスによって托卵の相手が決まっているのだから、卵の模様をきめる遺伝子はオスではなくメスのみに存在するのだろうというところまでは解明できたんです。乱婚ということは、オナガに育てられたオスがオオヨシキリに育てられたメスと性関係を持つこともある。オオヨシキリに托卵し続けるメスの卵にオナガの模様が混じってしまっては不都合でしょ。オスの遺伝子が卵の模様に影響を与ヲることがないからこそ、乱婚であっても托卵相手の鳥の卵にカッコウの卵が似るという進化が起り得るんです。

研究に必要なのは 頑丈でシンプルな頼れるカメラ

信州大学教授 中村浩志さん
菜の花が広がる春の千曲川 撮影:中村浩志
菜の花が広がる春の千曲川撮影:中村浩志
水に入り魚を狙うアオサギ 撮影:中村浩志
水に入り魚を狙うアオサギ撮影:中村浩志

研究室では、ニコンのカメラを使ってくださっているそうですね。

カメラも双眼鏡も、鳥の観察に使うフィールドスコープも全部ニコンですよ。僕も5、6台カメラを持っていますけど全てニコンです。中でもF3を一番よく使いますね。
1カ月ほど前にライチョウ調査で山に登ったのですが、朝はマイナス15度ぐらいになるんです。そんな中でもF3だけはちゃんと動きましたからね。もう10年以上使っていますから傷だらけですけど、一度も壊れたことはないですからね。頼りになります。

カメラは調査の記録用として使われているんですか?

そうですね、観察用の道具として使っています。山で使いますから頑丈でないとね。ちょっと落としたり湿気にあって動かなくなるようなカメラじゃだめなんですよ。
それから、あまり機能がついていないシンプルな作りのものがいいです。シンプルなものほどトラブルも少ないんですよ。そういう意味でもF3がニコン一番の傑作だと思っています。だからF3が製造中止になったっていうのは非常に残念ですよ。

どんなときに撮影されるのですか?

調査に行くときはたえずカメラは持ち歩いて撮っていますよ。いつどんなチャンスがあるかわからないですからね。
鳥を撮るときには、500mmと1000mmのレンズを使っています。それぐらいないと難しいですね。夜行性の鳥、たとえばフクロウなどはライトを当ててビデオ撮影しています。撮影の前に、まずライトに慣らすことから始めるんです。でも、慣らしたとしても鳥は飛んでしまいますから、飛んでいる鳥を撮るのは苦労します。今は自動でピントをあわせるカメラもありますけど、手動でピントを合わせる時代は大変でしたよ。

調査のたびに撮影されているということは、写真の管理も大変でしょうね。

ええ。全てスライド用にマウントにしているんですが、整理は大変ですね。基本的に今もフィルムカメラが中心です。デジタルカメラは撮ったあとの扱いがとても便利ですから、最近は常に両方持ち歩いて使い分けて撮るようになりました。でもやっぱり何と言ってもF3ですね。これは手放さずにこれからも使い続けますよ。