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talk! talk! talk! 作家・夢枕獏さん


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作家・夢枕獏さん

作家
夢枕獏さん

「餓狼伝」「大帝の剣」など、数々の人気シリーズを生み出し、今話題の「陰陽師」の原作者としても知られるSF作家・夢枕獏さん。デビュー以来、山岳、冒険、幻想小説などの分野で幅広い層の読者を魅了し続けている。
素顔の夢枕獏さんは、登山、写真撮影、釣りなど多彩な趣味の持ち主。カメラ歴38年の夢枕さんの、カメラ、被写体に対するこだわり、そして絶賛公開中の映画「陰陽師」への思いを語っていただいた。

プロフィール

ゆめまくら・ばく。日本SF作家クラブ会員、日本文芸家協会会員。1951年1月1日神奈川県小田原市生まれ。1973年東海大学文学部日本文学科卒業。1977年SF専門誌「奇想天外」に「カエルの死」が掲載されデビュー。その後、「魔獣狩り」「闇狩り師」「陰陽師」などの各シリーズが立て続けにベストセラーとなる。1989年「上弦の月を喰べる獅子」で第10回日本SF大賞受賞。1998年「神々の山嶺」で第11回柴田錬三郎賞受賞。
趣味は登山、カヌーなどのアウトドア全般、写真撮影、歌舞伎および古典芸能鑑賞など多数。写真集には、「幻花曼陀羅」「光の博物誌」「聖玻璃の山」などがある。

「陰陽師」
平安時代、人の世にはものの怪、悪霊の存在が大きく影響していたといわれる。その闇の世界から呪術を使って人間を守るために、朝廷には「陰陽師」とよばれる役人がおかれていた。この小説の主人公「安倍晴明」は、平安時代に実在した陰陽師であり、平安時代の「今昔物語」や鎌倉時代の「宇治拾遺物語」、そして江戸時代に入ってからは歌舞伎、浄瑠璃、講釈など、様々なジャンルで現代まで語りつがれ、日本人に愛されてきた人物である。
 1988年に夢枕獏氏により小説「陰陽師」シリーズが発表されると、それを皮切りに「陰陽師」あるいは「安倍晴明」の大きなブームが巻き起こり、ドラマ、舞台、漫画など多方面で様々な安倍晴明が表現されている。
 岡野玲子のコミック「陰陽師」(原作・夢枕獏)は2001年に手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。さらに、夢枕獏氏自身も脚本に参加した映画「陰陽師」が10月6日より東宝映画系で公開中。

子供の頃は“昆虫少年”。「昆虫を撮るためにカメラをいじり始めました」

夢枕獏さん

先生がカメラに興味を持ち始めたのはいつごろでしょうか?

中学生くらいの頃からカメラを使い始めたから、38年くらい前になりますかね。
 僕がカメラを使い始めたきっかけは、昆虫なんです。僕、小学生の頃から昆虫少年だったんですよ。だから、昆虫の写真を撮るためにカメラをいじり始めました。でも、一眼レフカメラは当時の僕には手が出ないカメラでね、最初は父親が使っていたアイレスというメーカーのEEタイプのカメラを使ってました。広角レンズだったんであんまり近寄れないんですけど、そういったカメラで撮って、点のような蝶々を見ていましたね。

 一眼レフカメラを使うようになったのは、高校生のときにニコンの「ニコマート」を買ったのが最初かな。それ以来、一眼レフはニコン一筋ですね。

もうその頃にはカメラ自体に興味を持ち始めていらっしゃったのですか?

そうですね。高校の時にはもういろんなものを撮るようになっていました。一番多く撮っていたのは昆虫も含め、自然の写真かな。人間の写真を撮るよりは圧倒的に自然のものが多かったですね。それは今にも通じていることです。
 そして、部員でもないのに学校の写真部の暗室に毎日のようにこもって1人で焼いていました(笑)。

今お使いになっている機種はなんですか?

ニコンのF2、3、4です。その中でも、僕が一番使いやすいのはF3のマニュアルですね。

数あるカメラの中から、あえて長年ニコンを使われている理由はどこにあるのでしょう?

ニコンのカメラが持っている描写力が、僕は好きなんですよ。
 最初にどのカメラを使おうか迷っていたとき、ニコンのカメラの質感が一番確かだ、と思ったんです。ニコンのレンズはとても優れていて、着物などを撮ったときに着物の目の質感というのがすごくよく出るんですよ。壊れにくいなど他にも魅力はありますが、最終的な決め手となったのはやはりレンズですね。

レンズの機能とは“ぼかす”こと。「光と光が溶け合う、それが色っぽいんです」

デジタルカメラは使われますか?

何度か使ってみたんですけど、どうもいまいち「撮ったぞ」っていう納得度がないんですよね、デジタルカメラだと。僕は、マニュアルで自分自身の手でピントを合わせて「バシャ」(カメラを構え、シャッターを押す動作をしながら)やっぱりこれですよ。この音がないとだめですね。

一つずつピントを合わせるという過程が楽しいのでしょうか?

楽しいというか、それじゃないと不安なんですよ。機械だと、「本当にピントを合わせているのかな?」という気がしちゃってだめですね。
 それに、写真を撮るうえで、構図を決めてピントを合わせるというのは一番おいしいところだと思うんです。だから、それは自分でやらないと気が済まないですね。

納得のいく写真を撮るには、ご自分の手と目を使ってピントを合わせるのが一番、ということですか?

そうですね。ある程度までならオートでも対応できるとは思いますけど、それでも相当細かいレベルの話になるとちょっと無理があると思うんですよ。どこにピントを合わせるか、というのが写真にとっては重大な問題ですから。
 たとえば横から人間を撮ったときに、ピントを鼻に合わせているのか、右目に合わせているのか、左目に合わせているのか、ということで写真が全く違ってきますよね。
 すすきの上に止まっている蝶々、あるいは金網の端に止まっているテントウムシ。これらを写真のどの位置に置くか、というのは非常に微妙なんです。これをオートでやろうとすると、どんなに性能が優れているカメラでもなかなか難しいと思いますね。アリの触覚のどの部分に、花だったら、どの花粉にピントを合わせるか。僕が撮りたい写真はそこまで細かいレベルになっちゃうので、やはり自分の手でやるのが一番です。
 それから、ピントというより「ぼけ」ですね、僕にとって一番重要なのは。

「ぼけ」ですか?

Photo 撮影・夢枕 獏氏
ヒヨドリジョウゴの実。夢枕さんの
絶妙なピント合わせによって、
実の鮮やかな色が引き立つ。

ええ。僕はピントを合わせたい、というよりは、ぼかしたいんですよ。接写で撮るようになって、レンズの機能というのはピントを合わせることではない、ということがわかったんです。
 レンズの機能は「ぼかす」ことだと僕は思います。それは、他のものではありえない機能です。たとえば絵画では、その形を写真のようにきちんと描くことはできても「ぼけ」というものは存在しないですよね。「ぼけ」というのは、レンズがあって初めて存在するんです。
 ぼけるということは、光が溶け合うということです。ぼかすことによって、きっちり色分けされていたはずの物と物との境目が混ざるわけです。ですから、植物の葉っぱや花びらを透過光で撮ったとき、ピントを合わせたところ以外の光がブレンドされるんですね。そうすると、とろりとした光がスープのようになって花びらの中にたまっている。これが、ものすごく色気があるんですよ。そのぼけが一番きれいな場所を探るには、やはりオートではなくてマニュアルなんです。

では、これから作品として撮ってみたい被写体はありますか?

接写でバラの花びらを撮ってみたいですね。
 バラって、色っぽいところがあるんですよ。だからバラでは、まさに「ぼけ」を撮りたいんです。バラの色っぽさを「ぼけ」を使ってヌード写真を撮るような感覚で。バラといっても、いろいろな種類のバラがありますから、それぞれを透過光をメインにじっくり撮ってみたいです。そこに文章をつけるとしたら、詩か短歌、俳句でしょうね。
 あとは、一つの谷を、四季を通して1年間じっくり撮ってみたいです。冬が来て雪が降って、だんだん植物が増えてきて、といった過程をね。
 この2つは、僕にしか撮れないビジョンというものがもう頭の中にあるんですよ。僕の知るかぎり、この2つに関してそういった明確なイメージを持っているのは、今、僕だけなんです(笑)。昔からやりたいと思っていてすでにいろんなイメージが浮かんでいるんですが、残念ながら時間がなくてまだやっていません。でも、いつか必ずやりますよ。ただ、そういう写真集が売れるかどうかは全くわからないですけどね(笑)。

Photo 撮影・夢枕 獏氏
冬の北海道で。厳しい寒さまでが伝わってくる1枚。
Photo 撮影・夢枕 獏氏
登山が趣味の夢枕さん。標高約5,400mの場所より高山病と闘いながらエベレストを撮影。

楽しみに待っています!