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talk! talk! talk! フォトグラファー・鈴木雅之さん


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フォトグラファー・鈴木雅之さん

フォトグラファー
鈴木雅之さん

思わず「美味しそう!」と声があがる料理写真。しかしそんな美しい写真の裏には、フォトグラファーの地道な工夫と努力が隠されているのをご存知だろうか?
今回は、雑誌や広告の世界で多くの料理写真を撮影されているフォトグラファーの鈴木雅之さんに、料理写真の撮影テクニックと裏ワザをご紹介いただいた。

プロフィール

すずき・まさゆき。1963年、千葉県生まれ。1984年、東京写真専門学校。(現在、東京ビジュアルアーツ)卒業。1989年、6年間のスタジオカメラマンを経験した後、フリーとして独立。
現在は、「ESSE(エッセ)」をはじめとして、6社の雑誌・書籍等で活動中。他に、通販カタログ、外食チェーン店のメニューなどの料理写真・サンプル写真を手がける。また、住宅やインテリアカタログ等の分野でも活躍中である。

料理人の料理への愛情を表現できた作品は、誰が見ても食べたいと感じるはず!

鈴木さんは、雑誌から広告物まで幅広いジャンルの料理写真を撮られているようですが、お使いの機種を教えていただけますか?

今、使用しているカメラは『F3』がメイン機種で、他に『F100』も使っています。

『F3』はかなり前のカメラになりますが、愛用されている理由はなんでしょうか?

最大の理由は、壊れないということです。いつも空調の行き届いたスタジオで撮影しているのなら、最新の電子メカを搭載した機種が良いのでしょうが、私の場合は雑誌の取材で地方の温泉などに行ったり、酷暑の中、屋外での撮影があったりと、環境が非常に厳しいケースが多くあるんですよ。
 最近のカメラがダメだという訳ではないのですが、温度差や湿度にはやっぱり『F3』のアナログで機械的な部分に信頼をよせてしまうのです。
 だから私は、いつも『F3』を持ち歩いています。

様々な環境下での撮影には苦労がおありでしょうが、料理写真を撮るときに最も注意されていることはなんでしょうか?

なんといっても写真を見た人が、「うわっー、美味しそう!」と思ってくれる作品にしようって考えながら撮っていますね。
 料理写真は、見た目がきれいであるとか、テクニック的に優れているということは当然のごとく重要なんですが、それ以上に美味しさをストレートに伝えることができるかどうかが重要だと思うんですよ。しっかりした技術の上に成り立つものであることは間違いないのですが、テクニックにこだわり過ぎちゃって、料理の持つ力と繊細さという、ある種相反するものを直感的に表現できていなければ、料理写真としては評価されないんじゃないでしょうかね。

つまり誰もが「食べてみたい」って思う写真ということですね。

そうです。料理人の方の情念とでもいうのかなぁ…。そうだ、愛情ですね。料理に対する愛情。この部分をキチンと捉えて表現することができた作品は、見た人が必ずといって良いほど「食べてみたい」って思ってくれるんじゃないかな。

料理人の料理 VS カメラマンとの真剣勝負!

真剣勝負という意味では確かにそうですが、でもそれって料理を撮影するときに限らず、どんな撮影のときでも真剣勝負なんですよ。

Photo
ファインダーを覗く姿は、
真剣勝負そのものだ。

失礼しました。シャッターチャンスは限られているんですよね。

僕は、その瞬間をむしり取るくらいの気持ちでファインダーを覗いているんですよ。ただそこで言えるのは、無意味に目的もなく覗いているわけではないということです。そこには計算されたものがあるんですよ。

計算されたものというのは?

ちょっと前の話と矛盾するように思われるかもしれませんが、ひと言でいうとテクニックということになりますね。

もうちょっとわかりやすく説明していただけますか。

時間を足したり引いたりして計算したり、スペースを上手に使うために割り算をしたりするということです。
 時間というのは、料理が出来上がってからシャッターを押すまでの時間です。この計算ができていないと、シャッターを押すころには、どんなに一流の料理人が作ったものでも、萎びたり乾いてしまったりして、とてもじゃないけど美味しそうになんか見えません。また、この計算ができていても、フレームの中の限られたスペースに料理をどうやっておさめるかという割り算ができていないと、やはり美味しそうに見える作品を撮ることはできません。
 この両方ができてこそ、シャッターを押すという行為ができるスタートラインに立てるんですよ。

料理をより美味しそうに見せるために小物や道具は必ず用意して行きます。

Photo
撮影準備は料理ができあがった段階で
終了している。

料理が萎びたり乾いたりする前に撮ってしまうための準備をしておくということですね。

そうですねぇ。言葉でいうのは簡単なんですが、現場ではそう簡単にはいかないんですよ。ただ第1にできた料理を素早く撮る。第2には、そのための準備を入念にしておくということですね。セッティングだけして料理が出来上がる前にポラを切ることもしますよ。
 でもこれがどんな場合でも通用するかというと、そうではないんですよ。

どうしてなんでしょうか。

それは、雑誌とか料理本のために撮る作品と、メニューとか広告などで使用するために撮る作品とでは、どうしても求められるものが違うんですよ。
 雑誌などの撮影では、先ほどの条件が当てはまるのですが、広告関係の場合は、出来立てを素早く撮ることもありますが、それよりも細工をしてきれいに撮ることが多くなりますね。

具体的にはどのような違いがあるのでしょうか?

例えばサンプル写真の場合は、全体にピントを合わせたいので、絞り込んで、前から後ろまできっちりとした仕上がりになるようにします。アングル的には、60度くらいのところから撮ることが多いですね。素材としてこんなものが入っているっていうことを、見ただけでお客様にわかっていただく必要がありますからね。だから料理によって、器を切ったり(フレームから器がはみ出すこと)して撮影することは、ほとんどありません。
 でも雑誌等で使うイメージ的な写真は、全然違ってきますね。
 アングルは、媒体の持っている特長やその時々の企画内容なんかで変わってきますが、それでも多くの場合は30度くらいまで下がって撮ることが多くなりますね。これだとバックの処理が重要になってきます。

Photo 撮影・鈴木雅之氏
サンプル写真は、60度位のアングルから全体にピントがくるように撮る。
Photo 撮影・鈴木雅之氏
イメージ写真は、30度位まで下がったアングルから大胆に撮る。
Photo
Photo
美味しく見せるための霧吹きやはけは、
欠かせない小道具だ。

小物を置いたりということでしょうか?

そうです。スタイリストさんがいるときは、小物類を用意する必要はありませんが、いないときは全部自分で準備していくこともあります。まぁ、それがクセになってしまって、実のところ、いてもいなくても色々と準備してしまうんですよ。

先ほど、料理に細工することもあるとおっしゃっていましたが、どのような細工をされるのでしょうか。

昔はよく色をつけたりとかしてましたが、最近はナチュラルさが受けているせいもあってか、ワザとらしい着色はほとんどしなくなりましたね。やっぱり本物が一番ですからね(笑)。
 今は油やみりんを塗ったり、ゼラチンを使って乾燥を防いだり、防いだついでにいつまでもテカっててくれて、美味しそうに見えたりしてね(笑)。
 ツヤというかテカりを出すためのテクニックとしては、逆光にするんですけど、これだけでは、どうしても美味しそうにテカってくれないんですよ。
 お刺し身にしても、煮物にしても、しっとりした質感をクライアントからは要求されます。こんなときは、多くの場合みりんを塗ります。