Nikon Imaging
Japan
At the heart of the image.

vol.15 Florian Schulz フロリアン・シュルツ

Florian Schulz

「大自然の声に導かれて」

ワイルドライフ/ネイチャー(ドイツ)

言葉では表現し切れない世界を語るために

12歳のころ、父のカメラを借りて初めて写真を撮りました。最初の被写体は、植物園で見つけた小さなトカゲです。その後すぐにニコンF601を手に入れました。「自分のもの」と呼べる最初のカメラです。私の写真人生は大自然の驚きを見いだした瞬間から始まりました。双眼鏡と望遠鏡を手に地元の自然保護区へ行き、野鳥を観察したり、森の中のキツネの寝床を探したりしたものです。しかし自然の美しさをたくさん目にしても、友達や家族に私がなぜ大自然にそんなに魅力を感じているのか、言葉では説明しきれません。写真ならそれが即座に伝わります。こうした経験を通して、写真の力に気づいたのです。

「Freedom to Roam」プロジェクト

そうするうちに、ドイツ南部にある自宅付近の森だけでなく、他の場所も探検してみたくなりました。19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したアメリカ人作家、ジャック・ロンドンの本を読んでからは、北米の大自然に夢中になりました。私は野生の自然が失われた場所で育ったので、自然の生態系を維持するのがいかに重要かということをよく理解していました。こうした気づきをきっかけに、環境写真プロジェクト「Freedom to Roam — Yellowstone to Yukon」を始めたのです。このプロジェクトは、アメリカ初の「緑の回廊」設置への動きに役立っています。緑の回廊とは、街や高速道路といった人間のいる場所を通ることなく、野生動物が自由に移動し、自然に近い生態系環境を維持する事の出来る国立公園などのネットワークです。
このプロジェクトでは、米中西部からカナダ北部まで続くロッキー山脈の全生態系を記録する必要がありました。地形に始まり、あらゆる野生動物の全体像から細かい部分に至るまで写真に収めるのです。私は、この地域の特徴をつかむために、できる限りの写真を撮りました。望遠レンズを使って動物の近影を捉え、広角レンズで動物が自然の中にいる様子を撮る一方、上空からは連なる山々を、水中ではサケの様子を撮影しました。

このように生態系をあらゆる角度から撮影することは、私の情熱になりました。そこで「Freedom to Roam」プロジェクトを拡大し、北極や、アラスカのボーフォート海からメキシコのバハ・カリフォルニアまで続く北米西部の海岸地帯などの生態系もカバーしました。

ゼネラリストならではの挑戦

多くのフォトグラファーは、マクロ、水中、風景、野鳥といった写真の一分野に特化するものですが、私はその逆でゼネラリスト(被写体を選ばず何でも撮れるフォトグラファー)であることに専念してきました。全生態系を記録するにはあらゆる能力やスキルが求められます。そのためにいくつもの挑戦を乗り越えてきました。水面下の氷山の様子を的確に捉えるために零下1.5度の海に潜り、ペルーのアマゾン川流域では高温・高湿の環境に耐えました。風景撮影のため、毎朝良い光を求めて日の出よりも前に起きたり、ホッキョクグマが住む零下35度の中でキャンプしたり…。自然を丸ごと捉えてこそ、完璧なのです。全てが繋がっているのですから、その一面だけを切り取って終わらせたくないと考えています。

写真を撮る、ということの意義

私は長時間かけて理想の写真とは何かを考えます。ある画が気になり始めると、その画を実現するために努力を惜しみません。こうした写真への情熱があるから、私は何でも我慢でき、極度の暑さや寒さ、無数の蚊、凍えるような海水に耐えられるのです。しかしもはや、良い写真だけが私のモチベーションではありません。自然にいることそのものが原動力です。それは野生動物の観察であり、彼らの行動を学ぶことであり、もちろん探検の要素もあります。これらの経験は、私の人生をさらに豊かにし、私の写真をさらに深い意味のあるものにしてくれます。

生態系の記録という仕事は、本当に好きでなければできない仕事です。経済的な利益はあまり多くありません。その上、必要な機材は他の写真の分野よりも多いのです。写真機材だけではなく、テントやカヌー、ヨットといったアウトドア用品が要ります。これらの準備をするのも、自然の中でなるべく長い時間を過ごすためです。地球上で最も未開と言える地で過ごすことも少なくありません。
自然界の美と多様性の全てを捉えたいという私の情熱は、今では映像という手法にまで拡大しました。ニコンの新機種には質の高い動画撮影機能があります。静止画に動画を加えることで、生態系についてより多くの情報を分かり易く伝えることが可能になりました。
良い映像を撮るにはしばしばチームで動く必要があります。しかし、大自然の奥深くで撮影し、かつ警戒心の強い野生動物を相手にする場合、それはとても難しいことです。だから私は、妻や弟といった信頼を寄せたパートナーと、2~3人のチームを組みます。その方が、デリケートな自然の姿をできるだけ破壊することなく、ありのままに捉えることができるからです。
残念なことに、野生動物や彼らが住む手つかずの自然環境は、加速的に減少しています。私は若いころから、野生動物と自然保護のために戦う必要性を感じていました。10代のころには地元の自然保護区で活動を始め、大人になってからは「Freedom to Roam」や北極のプロジェクトなど、写真を通じて活動を続けています。今でこそ「環境写真」という言葉はよく使われるようになりましたが、その何年も前から、私は写真家のクリスティーナ・ミッテルマイヤーと、初の環境写真家団体設立の構想を練ってきました。これが現在の国際環境写真家連盟(ILCP)です。写真は、環境保護活動を進めていく上で、最もパワフルなツールになっています。写真とそれらが語る物語で、環境保護における私の役目を果たしていきたいと思っています。

デジタル一眼レフの常識を変えたニコンD600

ニコンから新製品D600の撮影プロジェクトの依頼を受けた時、スペックの詳細は分からず、とにかくすごいカメラだということだけを知らされました。その後D600を実際に手にしてみると、なぜこのカメラが「革新的」と言われるほどすごいのか、すぐに分かりました。小型軽量で十分な耐久性がありながら、24メガピクセルの高画素かつ高感度のフルサイズセンサーや、5コマ/秒の高速連写性能など、最新のテクノロジーが詰め込まれているのです。しかもこれほどの性能を低価格で実現。D600は、ハイクオリティ写真の「民主化」への一歩になると思います。それは静止画だけにとどまりません。このカメラは、私が使った機材の中でも、かなり質の高いフルHD動画が撮影できます。写真に真剣に取り組んでいる人なら誰でも、D600を使って素晴らしい作品を生み出せるでしょう。私にとってD600は、あらゆる被写体や撮影状況で活躍できる万能カメラという位置づけです。D600の登場によりカメラに求められる完成度のレベルは確実に上がりました。

D600で撮影した動画作品「Chasing the Light」

動画作品「Chasing the Light」の狙いは、D600を様々な撮影状況で使えることを実証するだけでなく、ネイチャー写真の魅力やそれを撮る人の感情まで表現することでした。 このプロジェクトには頼もしいパートナー、弟のサロモン・シュルツが加わってくれました。そして、我々2人がこのプロジェクトチームの全メンバーでした。この作品を観ると、きっと大勢のスタッフが関わっているだろうと思われるでしょうが、実際には私たち兄弟2人で全て撮影したのです。2人が同時に登場する場面では、カメラとの間を何度も行き来して撮っているのです。また、動画の流れを崩さないために高度な編集技術が必要でした。たった2人では困難が多いように思われるかもしれませんが、実は少人数の方が良いのです。特に、警戒心の強い野生動物のシーンは大勢のチームでは撮影はおろか近寄ることさえできませんから。
この動画のもう一つの目標は、アウトドア好きなフォトグラファーが大自然の中で何ができるかを示すことでした。私たちのような兄弟や、あるいは友人でも恋人同士でも、写真と自然を愛する2人が力を合わせればこういった作品が撮れます。私たちと同じ情熱を持った人がこの映像を見て、それを感じ取り、同じ挑戦ができると感じてもらえれば嬉しいです。「Chasing the Light」のメーキング映像だけを観ると、簡単だと思えるかもしれませんが、米カリフォルニア州南部をはじめ、イエローストーン国立公園、さらにはアラスカの大自然を巡り、たった4週間で一本の動画作品を撮るのは、本当に大変でした。米西部で何年も撮影してきた経験はこのロケに役立ちました。ロケ地を次々と移動し、美しい光を求めて日の出や日の入り時の撮影はもちろん、真夜中には星のタイムラプス映像を撮るため、昼夜の区別なく動きました。睡眠不足は言うまでもありません!風景写真としておなじみのロケ地での映像に、冬のアラスカの山々にて空撮した映像を交えてそれを見どころにしようと思いました。空撮では合成ができないので、24メガピクセルという高画素数が非常に有効でした。動画のラストでは、人間の存在を小さく感じさせる雄大なシーンを見せて締めくくろうと考えていました。小型機で何日もロケハンの末、ようやく絶好の撮影場所を見つけ、「Chasing the Light」は完成しました。

カメラバッグの中身

ニコンカメラの性能は、数年前でさえ考えられなかったような高いレベルに達しています。以前は不可能だったことが、今では可能になりました。一方で、機材に夢中になり過ぎて写真そのものを考えることを忘れてはいけません。技術は常に進化しており、メーカー間で激しい競争が繰り広げられています。他のメーカーから、機材一式を提供するというオファーを受けたこともありますが、私の選択は常にニコンです。ニコンは堅牢なカメラの代名詞であり、アウトドアの撮影ではそこが最も大切です。それに、ニコンの技術者たちはカメラ作りに妥協を許さない、と知っているからこそ、私は安心して撮影に集中できるのです。しかも私の作風や幅広い仕事内容をカバーできる技術や性能を提供してくれます。風景写真でデジタル一眼レフの最高画質が必要ならばD800がありますし、俊敏な野生動物を撮るにはD4があります。ニコン機材には絶対的な信頼感を持っています。このカメラシステムを疑ったことは一度もありません。

ネイチャー・フォトグラファーに必須の機材とは

ボディは少なくとも3台必要です。一つは、D3SやD4のような優れた連写性能と高感度性能を持つフルサイズのカメラ。ランドスケープなど高画素が必須の場合はD800やD600。それにクロップ機能を活用してさらなる望遠効果が得られるD7000のようなDXカメラも必要です。
レンズは次の通りです。
AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED
AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II
AF-S NIKKOR 200-400mm f/4G ED VR II
Ai AF-S TELECONVERTER TC-14E II
Ai AF-S TELECONVERTER TC-20E II
AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED
このほかに持っているレンズは、
AF-S DX Zoom-Nikkor 12-24mm f/4G IF-ED
Ai AF Fisheye-Nikkor 16mm f/2.8D
Ai AF-S Zoom-Nikkor 17-35mm f/2.8D IF-ED
Ai AF Nikkor 20mm f/2.8D
AF-S NIKKOR 24mm f/1.4G ED
AF-S NIKKOR 50mm f/1.4G
AF-S VR Zoom-Nikkor 70-300mm f/4.5-5.6G IF-ED
AF-S NIKKOR 600mm f/4G ED VR
PC-E NIKKOR 24mm f/3.5D ED
AF Nikkor 28-70mm f/3.5-4.5D

NPSについて

ニコンはカメラブランドとして世界中で知られているだけでなく、プロ向け機材においてはトップブランドです。そんな大手メーカーでありながら、フォトグラファーとの接点を失うことはありません。NPS(ニコン・プロフェッショナル・サービス)はとても居心地のいい組織です。実際に深いレベルでカメラについてコミュニケーションできるスタッフがいるということが、ニコンブランドに人格を与えています。その上彼らはフォトグラファーのニーズを理解しています。正直なところ、ここ何年も私のボディやレンズに問題が生じたことはありません。しかし、センサークリーニングや大きな仕事の前の点検など、NPSはあらゆる面でサポートしてくれます。大自然の奥深くで撮影する時には、様々なサポートをしてくれましたし、ニコンシステムについて価値のあるアドバイスをくれたこともありました。プロにとって、こうしたサービスは不可欠であり、極めて貴重です。

※NPS(ニコン・プロフェッショナル・サービス)は会員様向けのサービスです。入会された国によって受けられるサービスが違います。

プロフィール

フロリアン・シュルツは、自然界のあらゆる事象を撮影することに人生を捧げるネイチャーフォトグラファー。その作品は、ナショナル・ジオグラフィック、BBC Wildlife Magazine、GEOなど国際的な雑誌に掲載されている。出身地はドイツ。1年のうち8~10カ月を撮影地で過ごし、その土地の生態系全てを写真に収める環境写真プロジェクトに取り組むなど、長期間にわたる取材をこなしている。最近の作品は、北極に住むシロクマ親子を追った米ドキュメンタリー映画「To the Arctic」の公式フォトブック。また、英環境団体によるEnvironmental Photographer of the Year、米国の自然写真雑誌によるConservation Photographer of the Year、米環境団体によるAnsel Adams Award for Conservation Photographyなど輝かしい受賞歴を誇る。